引きこもり

連喜

第1話 引きこもり

 引きこもりは一種のカルチャーだ。俺も一時引きこもりだったことがある。20代半ばで新卒で入った会社をやめた時、半年くらい家から出ない生活をしていた。失業保険をもらっていたから、認定日だけ頑張って出かけて、後は誰にも会わずにとにかく寝ていた。読書はおろか、生産性のあることは何もしていなかった。ひたすらテレビを見て、ぼーっとしていた。過去の嫌な出来事を繰り返し思い出して、あいつを殺してやりたいとか、そんなことばかり考えていた。


 長い人生で、一時期そういうことがあったという人は意外と多いかもしれない。人生で心を病む人は4人に1人にまでなっている。別に恥ずかしいことではない。


 これから話すのは人から聞いた話。


***


 板倉(仮)さんという家があった。夫婦に子供が2人。上は女(Aちゃん)。下は男(B君)。お父さんは会社員、奥さんはパート。典型的な家族と言うより、むしろ理想的な家族構成だ。子どもが2人欲しくても、授かれない人だっているんだから。


 しかし、側から見ると幸せそうな家族でも、何かしら問題があるのが世の常だ。板倉さんちは、子どもたちのことだった。どちらも、引きこもりだった。小学校の低学年から学校行かなくなって、もう3年経っていた。


 最初は、お姉ちゃんの方が行かなくなってしまった。いつも一人で、暗い顔をしていて、俯き加減にじっとしているのがAちゃんだった。仲のいい友だちはいなかったようだ。最後に登校したのは3年生だった。


 不登校でありがちなのは、休み休み通っていて、やがて完全な不登校状態になるのだが、お姉ちゃんはぱったりと学校に来なくなっしまった。


 学校の先生は電話をかけて、母親に家庭訪問したいと言ったが、本人は誰にも会いたくないと言っているということで、断られてしまった。


 それから、1年後、弟も急に学校に行かなくなった。こちらは友達もいる普通の子だから、何が問題かわからなかった。だが、兄弟が不登校だともう一人もなってしまうというのはよくある。学校を休むというハードルが下がってしまうのかもしれない。


 姉の方の担任はそれほど熱心ではなかったけど、弟の元担任の倉崎先生(仮)は、担任から外れても彼のことを気にして家を訪ねていた。弟は明るい子で、不登校になるような前兆がまるでなかったからだ。倉崎先生は若い女の先生で、まだ20代半ばだった。おせっかいで、人のトラブルにも自ら関わって行くタイプ。見た目は普通だけど、喋るとちょっと変わった人だった。小柄で髪を後ろに束ねている。しかも、子どもたちに好かれていたかというと、決してそうではなかった。口うるさくて、どこが地雷かわからないような厄介なタイプだった。


 弟が学校に行かなくなって、早くも2年経っていた。先生は、夕方、板倉さんの家のインターホンを押してみた。やはり誰も出ない。

 これまでも、ポストにB君宛ての手紙を投函してみても、返事はなかった。本人に渡ってるんだろうか?B君の友達に尋ねてみても、誰も不登校の原因を知らないし、連絡もないということだった。


 もしかしたら、親がわざと学校に行かせていないのでは?と、先生は思うようになった。宗教上の理由なんかで、学校に通わせない親が存在するようだ。先生はそんなの許されるべきではないと、親を説得しようと思い始めた。






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