第17話 万が一のない証明
万が一はない。
宣言通り、ヘドロキメラが地上へ出ることは決してなく、それを今から証明する。
レギナの町、中央区の水路付近には人だかりができていた。
お子様ドラゴンのコハクも興味を惹かれ、空の散歩をやめて、
竜からヒトの子に化けてはそちらに向かった。
ちょうど、見知った顔がいたから声をかけた。
「リュカ、ソルト。これは一体何の騒ぎなのよ?」
「あ、ボス!おーっす!」
「パトロールお疲れさまーっす!」
ボスに敬礼して返事したのは、町外れのターナカ家のリュカとソルトだ。
よく教会の子供たちと混ざって遊んでいる。
コハクは近くまで来て水路の方を覗いた。
皆がそちらに視線を送っている。
理由はなんとなく察した。
それでいて、もう一度リュカ達に訊ねた。
「ハイハイお疲れさま。で?これはなんなのよ?」
「あぁ、あれだよ!Aクラスが来てるんだぜ!」
「ふーん、Aクラスがねぇ……それで、この騒ぎってわけね」
「しかも、3人もいるんだぜ!」
「この町にAクラスなんて滅多に来ないからみんな見に来てるんだってさ!」
星覇の中でもAクラスはトップアイドル並みの人気を誇る。
それも美少女3人組ときた。
物珍しさというか、皆がAクラスを一目見ようと集まっていた。
「でも、アレだよな。あそこって、アマイ達がクエストしに入っていった場所だよなー?」
「まさか、しくじったんじゃないのか!?」
「なんだ、アマイの尻拭いかよー」
あちゃー、と子供たちは天を仰いだ。
まぁEクラスだから仕方がねーとは云うが、なんだかんだで彼に期待していたからの反応であった。
「なぁ、ボス。でも、Aクラスを出動させるってよっぽどのことだよなー?エルの姉ちゃんでもしくじったのかよ?」
「知らないわよ、そんなこと」
「あの地下に大怪獣何ゴゴラが潜んでいたってことなんだよなー?ボス」
「それも知らないわ。というか、何?大怪獣ゴゴラ?そんなやつワタシならワンパンね」
「「ヒュー、さっすがオレたちのボス!!」」
「まっ、可愛くて美しくて最強なんだなら当然よね。アハハハー」
と、なんともまあ緊張感に欠ける微笑ましくも能天気な会話であった。
(確かに嫌な気配がこっちに近づいてるわね。それに学年序列3位、4位、5位の過剰配備。何しでかしてんのよ、あのバカ……)
あのバカ。雨衣に1つ悪態を吐く。
(でも、これでアンタは黙っては終わらないんでしょ?)
万が一はない。
自称・可愛くて美しい最強のドラゴンがこの町にいる。
万が一にヘドロキメラが地上に飛び出してきたとしても、警戒態勢に入ったコハクに瞬殺されるだろう。
それに、それよりも先にAクラスの3人にボコられるのは目に見えていた。
過剰戦力なのだ。
でも、彼女らが活躍する、そんな万が一もない。
(ねぇ、そうよね?アタシの英雄)
だって、あの雨衣が魔法を起動させたのだから。
◇
「
雨衣の詠唱と共にセカイが変わる。
雨衣のセカイから色と音が消えた。
脳内では無機質な女性の声が雨衣に挨拶をする。
<グッモーニングです雨衣様>
この魔法、あくびをしながら雨衣に語りかける。
<これより天地開闢にして摩訶不思議な【改造】を開始しいたします>
<対象:零式>
雷電の火花を散らし、
不可視の魔法陣が浮かび上がり、その閃光と共に零式が改造されていく。
<アクセス:許可>
<ウイルススキャン:良好>
<既存コード:削除>
<新規コード:作成>
<殲滅対象:融合連鎖合体魔獣ヘドロキメラ>
<ランク:A->
敵を殲滅するための武器を改造していく。
<ウィークポイント:クリスタル・コア>
<設定火力:オーナーの意向によりE級>
<アップロード:コアのみ一点集中型レーザー砲>
<射程距離:25m>
<エフェクト効果:漆黒の閃光>
<カラーリング変更:メタルブラック>
<……まぁ、可決でいいでしょう>
<構築:完了>
構築が完了した。
零式は、もはや別物に変貌した。
それは敵を殲滅するための魔法式へ。
瞬きの一瞬にそれは完成した。
<安全性:検証>
<被害予想:12万7895通り>
<魔法式:修正>
<安全性:検証>
<被害予想:人的被害なし>
<街の被害予想:12%>
<最終調整>
<街の被害予想:1%未満>
<承認>
<最終安全装置:ロック解除>
<3>
<2>
<1>
<発射――ッ!!>
刹那――雨衣はトリガーを引いた。
いつもの魔銀の弾丸ではなく、魔改造によって黒い稲妻の如く漆黒のレーザー砲が射出された。
それは音速を超える。
それは世界さえ引き裂く黒い閃光。
1ミリの狂いなく、瞬殺と呼べるほどの一撃が、ヘドロキメラの心臓部分であるクリスタル・コアを捉えて貫いた。
そして、
<あぁ、言い忘れていたのですが、エル様の要望によりオプションとして、あのレーザーは敵を殲滅した後に打ち上げ花火となり大空へ舞い上がるでしょう。私ってば天才っ☆>
「え、マジ?」
その魔法はよく喋る。
その魔法は余計なことをよくする。
エルの言ったあれはものの例えだったはずだけど……雨衣が止めに入るも手遅れで、その魔法の宣言通りにオプションとしてレーザー砲はクリスタルコアを貫いても尚、地上に出てはそのままの勢いで90度に屈折しては花火として打ち上がった。
それは、まるで雨衣たちの勝利を祝うかのように……
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