第14話 連鎖式召喚大魔法
レギナの町、その地下に張り巡らされた地下水道のとある一角。
トラップ魔法が自称・美少女を襲った。
天罰。
術者の許可なく解除すればペナルティーが下る。
ソレは神様のアレだと仰々しいので呪いという解釈で、術式のレベルを落とし、やっと人間が扱えるようになったソレだとか。解除コードを少しでも間違えれば町全体に被害が及んでいたソレを灘1人が背負ったわけだが。
「鏑木エル……やってくれましたわね。今はとやかく言いませんが、これで終わり…というわけでもなさそうですわね?」
「えぇ、そうですね花山院雲母。灘の犠牲を無駄にしないよう、このあとの掃除もこなしていきましょう」
ここから始まるのは第二のトラップだ。
新たな魔法陣が発動した。
予想されるは連鎖式召喚大魔法。
術者の排除を目的に、大型の魔物でも召喚するつもりだろう。
何が出てくるかはお楽しみ。
蛇が出るが鬼が出るか……しかし、思ったよりもソレは小さかった。
まぁ、地下水道の広さだと大型魔物は窮屈だろう。他のエリアよりも広そうなココですら10メートルを超える魔物は入りきらない。
「も、もしかしなくてもボス戦だ!?」
「若干一名、テンションがおかしな殿方がいますわ」
「はい、知ってました。子供をあやす様にテキトーにあしらってくだせー」
魔法陣に稲妻のような閃光が迸る。
先ほどまで召喚されていたヘドロスライムがクリスタルな魔力の塊の彫像の方に吸い寄せられていく。くっついて、へばりついて、交わり、変形して、合体していく。
「連鎖式召喚の正体はこれでしたか。まぁEクラスのワタシ達にとって悪くはねー敵です」
「まさか錬成魔法ですの!?」
「違うよ、花山院さん。たぶん、これは融合連鎖合体魔獣ヘドロキメラだ」
「雨衣さんは少しゲームのやり過ぎですわね……」
ソレは5メートルほどの魔物。彫像の名残も若干残されたヒトか獣かよくわからない得体のしれないモノ。おどろおどろしいヘドロの塊。
そこらの雑魚と一緒にしていけないのは明白で、ボス戦と呼ぶに相応しい敵だ。
ただ、雨衣にとって残念なお知らせがある。
このボス戦、既に決着がついているということ。
すでにエルの策略により自壊が始まった。魔物の胴体からヘドロがぼたぼた落ちていた。
「成功はしたみてーですね」
「え……何かしたの?」
「わかりやすく言えば、自滅コードのウイルスみたいなものをお返しに仕込んでやったんですよ。ですので馬鹿正直に正面からやり合うこともありません」
「そ、そっか……」
(見るからに残念がってますわ)
しかし、だ。
「とは言え、気を付けてください。自己修復機能は多少あるみてーですから、てめーがアレに取り込まれないように逃げ回るのがワタシたちの役目です。いくら無敵の星覇様々なこの身体だとしても、どうなるかは保証できませんので全力で逃げてください」
「な、なるほど!まだ戦うチャンスがあるってことだね!」
「了解しましたわ」
さて、ボス戦が開始する。
エルが一発、魔弾を食らわせた。
ヘドロキメラの着弾箇所が若干弾け飛ぶだけで、自己修復機能で傷口が多少修復していく。
続いて、花山院も炎魔法を食らわせてみたものの、効果はいまひとつの結果になった。ヘドロスライム時の弱点を克服したとするなら、それはやはり高密度の魔力を帯びたクリスタルの彫像が起因しているのかもしれない。
雨衣も負けじと魔弾を何発か発射するもやはり効果はいまひとつ。
何にしろ碌な魔法が使えないEクラスの彼らにとっては厄介な敵だ。
戦場と化したココも狭くてヘドロキメラの召喚によって圧迫感を覚えるわけで、ちょっと動くだけで行動制限が著しく芳しくない。
「相手するにはここは狭いですわね……ッ!?」
「同感です」
迫りくる魔の手を躱すのも、それは運が良かったから。
次は回避できるかわからない。
そして、これは敵を殲滅するために仕掛けられた魔法なのだ。下手したら全滅すらあり得る。
ほら、言ってるそばからヘドロキメラは敵を殲滅するための一撃を放った。
「うえっ!?口から腕ぇ……っ!?」
「雨衣さん避けて……ッ!?」
それは無理だ。
雨衣は戦闘の素人でD級のニャンガリアンの攻撃すら回避できなかった。それもヘドロキメラを人や獣の枠組みに当て嵌めていた。
口から第三の腕がロケットのように伸びて飛んで来るだなんて予想もできないし、意表を突かれて反応も遅れた。
気が付けば雨衣の右腕が肩からごっそり無くなっていた。
「ヤ、ヤバ……またボクの右腕が……」
不幸中の幸いだろうか。
雨衣も必死だったから右腕一本で済んだのだろう。回避行動もしていなかったら、今ごろ五体満足ではなかっただろう。
「雨衣さん大丈夫ですの!?」
「うん、全然大丈夫じゃないよ。これ見て、さっきの腕に食われた!あと【零式】も一緒に……ッ!!」
「厳密に言うとあの腕が雨衣の右腕にかぶりつき、溶解ヘドロで腕丸ごと溶かしたみてーですね。で、溶かしたソレを魔力のリソースに変えて取り込んだんでしょうけど」
「ナニソレこわ……」
「ワタシ的には雨衣がヘドロまみれになって衣服だけ溶けて悶えるのを期待して助けるつもりはなかったんですけどね」
「だからナニソレこわ……」
花山院は2人にため息を吐いた。
「お二方、今はふざけている場合ではなくって?」
「わかってますよ。こうなったら仕方ありません。戦略的撤退をして有効的な時間稼ぎをしましょう」
「もっと、広い所で迎え撃つ?」
「まぁ、ここで食い止めれたら良かったのですが。雨衣はこんなんですし、おそらくアレにワタシの得意な物理も通用しない可能があります。アレが自滅するまで鬼ごっこのフィールドを広げようってんです」
エルは肩をすくめる。
やれやれとヘドロキメラに指を差す。
奴は次の攻撃態勢に入っていた。今度はわかりやすく、もうすでに大きな口を開けている。
「次が腕だとは限りませんよ、アレ」
「うぇ、口の中からオッサンがこっち睨んでなくない!?」
「は、早いこと撤退しましょう!!」
もう遅い。
ヘドロキメラの口の中のオッサンみたいな何かが襲いかかってきた。
雨衣は右腕を【零式】と一緒に失って迎撃手段がない。
花山院もそのB級ホラーの化け物相手に腰が引けてしまって雨衣に抱きついてしまった。
あとは頼れるのはエルだけだ。
エルは雨衣達を庇い【零式】に魔力を注ぎ込んだ。昨日、田島をオーバーキルしたものよりもっとデカい魔弾を襲いかかるオッサンにぶつけた。
オッサンは魔弾で吹き飛び、本体のヘドロスライムを怯ませることに成功させた。
「な、めちゃくちゃですわね貴女!それができるなら初めからしてくださいまし!」
「バカ言わないでくだせー。これは加減が大変なんですよ、加減が。下手したら、ココが崩れんです」
「そ、それは一番駄目ですわね」
「なら、今のうちに撤退しますよ」
「そして、アレを引きつけつつ……って難易度高すぎない?」
作戦は決まった。
「ギルド管理室、聞こえますか?」
『はいはぁ~い、聞こえてるわよぉ~ん』
エルはギルド管理室に通信する。
「お願いがあります。この町でボランティア活動している他の生徒たちを地下水道の出入り口付近に待機させるように指示してくだせー」
『エルちゃ~ん。それなら、もうやってるわよ~ん』
「マジですか。流石ですね」
『まぁね~ん。こっちはボランティア活動としてエルちゃん達の活躍ぶりはバッチリ上映中なわけだし~ん』
「え、それって皆んなに見られてるってことですか早乙女さん!?」
『うふふ〜ん。雨衣ちゃんもここで一発カッコいいところを見せて皆んなに認めさせなきゃよん♡』
ギルドルームには所々モニターが設置してある。
クエストをしている生徒たちの監視という名目もあるが、クエストをしていない者やラウンジで待機している者たちにも勉強させるためにも数あるクエストの中から選んでは学園内で公開している。
モニターも台数は限られているが、灘がいるラウンジの一台が今このボス戦もライブ中継されていた。
「まぁ、ちょうどいい機会です。雨衣もナメられっぱなしのままではいけねーですし、我々星覇が何と戦っているのかを知るにはちょうどいい頃合いでもありますし」
『まっ、そういうことねん。だから、ここが踏ん張りどころって感じかしらん。3人とも頑張りなさぁい』
「「了解です」」
「伊織、感謝します」
牽制で、もう何発か魔弾を撃ちこんだエルはそう言って通信を切った。
さて、作戦開始だ。
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