第8話 E級ボランティアクエスト

 英雄の塔。

 ギルドルーム内にて、クエストの申請をして転送装置の魔法陣から異世界へ転送されるわけだけども。

 本来クエストするには学園支給のデバイスから【申請】が【可決】したら後は勝手に魔法陣に飛び込んでクエスト開始となるわけだけども。

 違反した雨衣たちはギルド管理室長こと早乙女のいるギルド相談受付カウンターの窓口に集合した。

 雨衣、エル以外にもクエストで違反した者達が集まっていた。

 他のクラスや上級生たちもチラホラいた。み~んながクエスト及び学園内で何かしでかした違反者だ。

 その中に、クラスメイトの花山院雲母かさんいんきららの姿が何故かあった。


「なんでオマエまでいるんですか?バカですか?バカなんですね、知ってました」

「おーっほっほっほ、その言葉そっくりそのまま返してやりますわ鏑木エル。わたくしはこのボランティア活動に自ら参加いたしましたのよ」

「それはお人好しすぎですよこのおバカ」


 めっちゃイイ奴じゃん花山院さんと雨衣は高評価を押した。

 やっと苗字を覚えれそうな予感。

 それにこの不遇の雑用クエストをボランティア活動とはよく言ってくれたものだ。ここに集いしやる気のなかった生徒たちは皆が顔を上げ希望をもたらした。

 そうだ、俺たちは今から汚れ仕事をするのではなく異世界に暮らすヒトたちのためのボランティア活動をするんだと士気を高めたのだ。

 花山院さんの意外な才能だったりするのだろうか。


「それじゃ~そろそろ時間ねーん。はぁ~い、みんな注目よーん」


 時間になった。

 ギルド管理室長の早乙女から、今回のクエストについての説明、そして班決めが行われた。

 雨衣とエル2人だけとはいかないらしい。

 E級クエストの『地下水道のゴミ処理作業』。

 地下水道と言っても1つの街だけでなく、一年生が担当するエリア、その国に点在する各町で地下水道のあるブロックの中でも特に酷いエリアを班別けしてゴミ処理作業するみたいだ。

 Eクラスがさぼったツケがここにきて回ってきたという感じだ。

 周りからのブーイングもあったりもしたが早乙女の前で露骨な文句はあまり言えず、クエスト開始してから何かしらありそうだなと予想はできたりする。


 雨衣たちの班は2班。

 雨衣とエル、それから花山院と、あと1人……Aクラスのなだという女子生徒。


(何故、ガスマスク……??)


 Aクラス女子は用意周到なのか、やっぱり下水の掃き溜めに今から向かうので対策をしているのだろう。


「というか貴女!1人だけガスマスクはズルいですわよ。わたくしたちの分はないんですの!?」

「シューコー……コーホー……罪人に同情の余地なし………シューコー……コーホー………」

「わたくしは罪人じゃありませんの!自らボランティア活動に志願したと何度も言わせないでくださいまし!」

「シューコー……コーホー……って、それってただのバカじゃん!?」

「な、なんですってー!!?」


 ガスマスク女子とツインドリル女子が掴み合った。


「お嬢~、なんですかコイツ―。こんなバカと一緒にゴミ拾いなんかアタイ嫌ですよー」


 なんて、ガスマスク女子こと灘ちゃんがエルに声を掛けた。

 あれ?Aクラスに知り合いいたんだ??なんて思って雨衣はエルの方を伺ったらあからさまに目を逸らした。


「さぁ、雨衣。おバカたちは放っておいて一足先にボランティア活動しましょうか」

「え、うん……」


 有無を言わさず。

 雨衣は後ろを振り返り、あの2人に声を掛けるべきか悩んだ。

 凄く悩んだ。

 今も繰り広げられているコントを面白半分に眺めるギャラリーもいたりするが、今ここで声かけて同じ班と思われて悪目立ちしたくないかなーという気持ちがあった。

 だから、悩んだ。

 そして、違和感を感じた。


 雨衣は足を止めた。


「エル、ちょっと待って」

「はぁ、なんですか?あのおバカたちならあちら側で合流すればいいんですよ。オマエまでアレに巻き込まれて悪目立ちする必要はねーんです」

「いや、そうじゃなくって」


 雨衣は周囲を見渡した。

 何かが足りない。

 人数というより人員が足りない。

 おかしいと思った。

 雨衣は早乙女さんに訊ねた。


「あの、1年Cクラスの田島くんや前川さんたちは参加していないんですか?」


 別に心配とかじゃない。

 しかし田島たちも昨日の一件で雨衣たちと同じ罰を受けるはずだった。

 なのに、ここに顔を出していないという疑問があった。

 違和感があった。


「あぁ、アイツらですか。雨衣は相変わらずお人好しですね……」


 エルは呆れていた。


「しかし、ズルはいけねーです。ズルは……ワタシが見かけ次第また制裁しておきましょうか?」


 結構、怒っていた。

 サボった田島たちにキレていた。


「雨衣ちゃんにエルちゃん、そのことなんだけどねぇん……」


 早乙女はやれやれと言った感じで説明してくれた。

 何故、この場にCクラス田島グループがいないのか、実に簡単にわかりやすく答えてくれた。


「体調不良で今日は棄権するしかなかったみたいねん」

「「は?」」


 雨衣もエルも開いた口がまた塞がらなかった。

 とてもしょうもない理由だった。


「彼らの処罰はまた後日考えるわん。でも、やっぱり熱いベーゼにしちゃおうかしらん」

「え………………まあ、ほどほどに」


 雨衣は早乙女から目を逸らした。

 いくら嫌いないじめっ子でもそれだけは可哀想だと思い言い淀むのであった。

 エルが何を想像したのか皆まで言わないが、口を押さえてささっと異世界への転送装置の魔法陣の上に乗った。

 魔法陣の周囲に置かれたクリスタルが輝きだす。

 

「何か嫌な予感がするんだけど……」

「まぁ、4人揃いも揃って棄権ってのは何かあったんでしょう。どうでもいいですけど」


 エルは全く興味ないでーすと一蹴する。


「そんなことよりもボランティア活動の方が100倍も大事ですから」

「うん、そうだね」


 今はクエストに集中しなければならない。

 それが異世界でクエストをさせてもらっている側の誠意である。

 拭えない不安がある中、異世界への転送が始まった。

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