幕間-勇者が必要とされない異世界で-
異世界の名はイルステリア。
結論から言えば、この世界に勇者は必要とされていない。何故なら、星覇の魔法生たちがいるからだ。
クエストは星覇がいるのだから彼らに任せたらいい。
有事の際も最前線でも後方支援も彼らにお任せあれ。
たとえ、魔人や魔物が町へ攻めてきても星覇に守ってもらえばいいのだから。
だから、誰も勇者なんか望んでいなくて、しかし、もしも勇者が異世界転移してしまったら、その者は一体何を思うのだろうか。
『13時45分発。3番線、アンテーラ行き、まもなく発車します。ボルテモア行き特急は5番線です。お間違えないよう乗車くだしゃい』
よく日本で耳にしたアナウンスが流れている。
「ここが異世界イルステリアか……」
ここは聖英国クイーンズの王都。
「凄いな異世界。まるでFFFの世界みたいだ!」
勇者が目を覚ましたのは魔道列車のステーションのようだ。電光掲示板はよくわからない異世界語と、何故か日本語表記だ。
異世界って日本人にとって都合のいい世界なんだなーと、勇者は人々の往来のど真ん中にポツンと立ってはその電光掲示板を眺めていた。
白のTシャツに黒のパンツのラフな格好で、背中にはいかにも勇者と思わせる大剣を背負っていたりする。
やっと始まる異世界ライフ。
その実感をようやく感じて、勇者の勇吾は感極まり小さくガッツポーズをしたものだ。
「あんちゃん、ぼーっと突っ立ってんなよ」
「あ、すみません」
「どこの田舎もんだが知らないけど、ひと様の迷惑にならないようにするんだぞ〜」
「あ、はい」
通行の邪魔だった彼は誰かとぶつかった。
勇者はぶつかった相手に頭を下げた。ぶつかった相手は勇者をひと睨みをして人の流れに溶け込んでいった。
そのぶつかったヒトは獣の耳、尻尾が生えていた。
日本ではコスプレイヤーの可能性もあるが、アレは作り物ではなさそうだ。
アレは本物。
「亜人もいるのか〜。エルフもいるし。本当に女神さま、ありがとう。異世界ライフ万歳っ!」
勇者は自分が一度死んだことを覚えている。
正確には死んだわけではなく、異世界に転移することでその命を生存することができた。
確か、サークルの飲み会の帰り道、終電が無くなって友人2人で線路沿いをふざけながら歩いていた時に車に跳ねられたはず。
明日、好きな子に告白しようと決意した矢先の不慮の事故だ。
しかし、勇者は生きている。
全ては女神さまのおかげだ。
女神さまの名前は覚えていないが、この世の者とは思えないほどに美しい御姿をしていたことだけは覚えている。
女神さまだからこの世の者とは言い難いがな。
そして、勇者の使命ははっきりとわかっている。
勇者もいるなら、当然魔王がいるはずだ。異世界を救うため、そのために異世界転移したのだから。
なら、まず彼がなすべきことは……
「パーティー作ってクエストだなっ!」
見知らぬ土地でただ1人きりの勇者は気合いを入れるため、自分のほっぺたを両手で思いっきり叩いた。
好きな女の子に告白もできなかった第一の人生の二の舞にならないよう、今度こそ悔いのない人生を歩むことを決意した。
と、まあ意気揚々と勇者は勇者たる物語が人知れず始まるわけだけども、彼はまだ知らない。
この異世界について。
異世界情勢について。
無知で愚かな勇者がギルドでその話しを聞くまでは……
「勇者?あー、たまにいるんですよ自称・勇者を名乗る冒険者さんが。ホントに笑っちゃいますよー。星覇様に対抗しようとするだなんてホント愚かですよねー。はい、佐久間勇吾さん。あ、貴方もしかして日本人?でも星覇様じゃなさそうだから、まーいいや。貴方は今日から勇者じゃなくてEランクの冒険者です」
「いや、今日勇者になったばかりなんですけど」
「へー、そうなんですかー、お若いのに凄いですねー。まーでも、まずはクエスト頑張ってください。で、クエストに関してですが、王都にはE級のクエストがほぼないので、クエストをしたいのであれば地方に行ってください。レギナって町がクエスト難易度イージーでオススメですよ偽勇者さん」
「えー、あれー……?なんか思ってたのと違う。そして受付のお姉さんが塩対応……っ!?」
「あーはいはい。それから、どうやら本当に何にも知らなさそうなので忠告してあげるんですけど、摩天都市国家イグニスの魔王さんとことクイーンズはここ10年とても仲がいいんで、万が一魔王退治なんて馬鹿な真似しクイーンズの不利益になりますと、貴方は国家転覆を狙うS級犯罪者として認定されますからあしからず。まっ、貴方程度にあの魔王さんが負けるとは思いませんが。笑」
「……マジですか?」
「はい、マジです」
どうやらマジのようだ。
勇者は偽物でEランクの冒険者としてこの異世界を人知れずスタートする。
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