幕間-Cのお茶会-
星覇魔法学園は全寮制だ。
時刻は午後8時を回り、
晩御飯を終えた生徒たちがぞろぞろと自室に戻ろうと食堂を後にする中、1年Cクラスの田島たちのグループは、端っこの方のテーブル席にポツンと取り残されていた。
「あーくそ、つまんねーな」
田島は生徒たちの数減ってきたのを見計らって、悪態をついた。
自分たちがEクラスに負けた。
試合やゲームをしていたワケではないため、全滅させられたと言い方を変えた方がいいのか。
奇襲とはいえ、油断していたとはいえ、Eクラスに負けた事実には変わりない。
思い返すだけでも腹立たしい。
この噂は学園内にすでに広まっている。
クライメイトからは後ろ指を差される。見下し馬鹿にする者もいれば、哀れみの目を向けてくる者いる。
今日はなんだかメシがやたらと不味い。息苦しい食事をしていた。
前川に至っては箸がまったく進んでいない。
「絶対に雨衣泣かす」しか言ってない。
だから言わんこっちゃない。このメンヘラの取扱を間違えるとあとが恐ろしいことも知らなかったのだろう。
前川は雨衣の不意打ちで負けたと言っていた。
何をされたのか、どんな魔法を使われたのか、訳もわからず、それが一般人で魔法のど素人の落ちこぼれクラスなのだから余計に癪に触る。
学園理事長の娘だからって調子に乗っているのも気にいらない。
ギルド管理室長からは暑苦しい説教も食らった。
散々な目にあってもう懲り懲りだ。
だけど、田島も前川も残りの2人も心の中ではこう思っていた。
(このまま終わらせてたまるものかよ、なぁEクラス……)
このままじゃCクラスの恥だ。
だから、田島たちはあの落ちこぼれ2人にリベンジを誓った。
「おい、
「ちっ……」
勿論、田島たちがEクラスに無様に負けた噂はCクラスのリーダーの下にも届いている。
だから、呼び出されるは必然であった。
田島はコイツも気に食わなかった。
Cクラスリーダーの懐刀。
いつもなら睨み合いの1つでも始まる所だが、今日は渋々応じるしかなかった。
コイツのバックには我らが敬愛なるリーダーがいる。
Aクラスでもおかしくないと云われたコイツですら畏怖する彼女がいる。
もう彼女から呼び出しをくらってしまっては、田島も諦めるしかなかった。背筋の凍るほどに今からでも学園から逃げ出したい思いであった。
◆
クエストで問題を起こした田島たちは1年生寮Cクラスのとある一室へ呼び出されていた。
Cクラスのリーダーからは呼び出しでは無くあくまでお茶会のお誘いだそうだ。
部屋の中はCクラスなのに自分達とはランクが違うような広さと豪華さがあった。
ほぼAクラスが使っているような部屋じゃないかと舌を巻く。自分達をここまでもてなしてくれたリーダーに委縮して、そして、目の前のテーブルの上にあるご馳走に緊張が走る。
お茶会をするのだからデザートは用意されてある。
「あ、あの……
田島は冷や汗をかいた。
らしくもなくソレを指差さず、失礼のないように上品な動作で手元に置かれたご馳走を訪ねた。
これはどこのブランドのスイーツですか?という風に。
「見てわかるでしょ。プリンアラモードよ」
「こ、これが……」
「ええ、お茶会をするって呼んでおいたのに菓子の1つも出していないだなんて興醒めじゃない?だから、私が急遽作ってみたのよ」
「さ、
「えぇ、そうよ。こう見えてもお菓子作りは昔から得意なのよ。よく弟に作ってあげてたの。どうかしら?」
「す、素敵な話ですね……あは、あはははは………」
若干、話がかみ合っていない。
眩暈もする。
原因は目の前に出されたプリンアラモードのせいだ。
全ての元凶がそこにある。
(な、なんで煙が出てるんだ……)
(め、目が染みる……)
(き、きゃは……プリンアラモードって黒い物体Xだったけ?)
(こ、この緑色のソースから激臭するんですけど……)
最早、何がプリンアラモードなのかわからなくなっていた。
シルエットだけで言えばプリンアラモードのソレだがコレジャナイ感。
しかし、ソレを否定することはできなかった。
ダークマターとツッコミを入れることは許されなかった。
たとえ、これがポイズンクッキングなゴートゥーヘルでも、せっかく我らがCクラスのリーダーが腕をかけてふるまってくれたコレを食べないわけにはいかなかった。
ここで無下にして彼女から失望されることだけは彼らのプライドが許されなかった。
というか、脱出経路を一応確認して振り返るも懐刀のアイツが扉の前で通せんぼをしている。諦めろと睨まれて、やはり食べるしかないのだ。
「あら?1年ぶりに作ってみたのだけど意外と美味しいわね」
「「「「えっ??」」」」
佐生お手製のソレに躊躇う田島たちを他所に、自分の分まで用意していたコレを何の躊躇いもなくスプーンですくって一口食べた。
食べてしまった。
しかも、美味しいときた。
そんなはずはないだろうに、味覚音痴という噂は本当だったのか。
何にしろ、遠慮していた田島たちは完全に詰んだ。
佐生が食べて自分たちがコレを一口も食べないで帰るという選択肢はなくなった。
「せっかくお茶会を開いて期待していたというのになんだか残念に思うわ。私の作ったモノなんて食べられるかって感じかしら?」
「あ、いえ、そ、そんなことは……」
佐生はスプーンを置いた。
口元に付いたソレをナプキンで上品にふき取り、つまらなさそうに田島たち4人を視線を投げた。
「別に、今日のことで私は怒ってないのよ。たとえ問題を起こして、あまつさえEクラスなんかに全滅させられて無様にも醜態を晒したとしてもね」
「………」
怒っていなければダークマターをお茶会で出すお嬢様はいないと思う今日この頃。嫌がらせのレベルを優に超えている。
「別にいいじゃない無様に負けたって。格下にナメられたって。Cクラスに泥を塗ったって。名誉挽回、次は完膚なきまでに叩きのめせばいいだけの話でしょ?」
「そ、それは……そうかもしれないですけど……」
「でしょう?なら、食べなさい」
「「「「………」」」」
「ソレを食べて私の期待に応えてちょうだい。いいわね?」
「「「「………は、はい」」」」
田島たちは逆らえなかった。
別に佐生の話に心打たれたわけではない。
純粋に理不尽過ぎる言い分で、何が何でもコレを食べさせようとしていた時の彼女の闇を一瞬垣間見たような気がした。日本人形のような不気味さがあった。綺麗な魔女ほど恐ろしいものはない。というか、逆らえないので覚悟を決めて食べることにした。
勿論、彼女は血も涙もない鬼じゃない。
慈悲はあった。
魔法を使ってでもソレを食べろという慈悲があった。
味変するなり胃腸を強化することはオッケーだそうだ。そんな魔法があってたまるかという気持ちと、それができなければCクラスに居場所がないと察し、窮地に追い込まれた田島たちは意地を見せた。
自分達が今まで積み重ねてきた経験値を各々の魔法に変えて……
まあ、でも、即興の魔法では、彼女のデザートには勝てず、食べて泡を吹いて倒れるのがオチであった。
「失礼な子たちね。こんなに美味しくて自信作だっていうのに……」
ため息一つ。
今もシュー……とか音を発して紫色のガスを発生させるソレ。
「あぁ、つまらないお茶会だったわね」
夜は更けていく。
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