幕間-クルクル金髪ドリルさんは絶対にクラスに1人はいる件
空は夕焼けにすでに染まっていた。
ここに来て、何度目の空になるだろうか……
東京湾上空に浮かぶ
英雄を育成する魔法教育機関であり、こちらの世界で知らない者はいない。
唯一異世界でクエストができる高校はここしかない。
だから、世界中の誰もが羨んでいる。
そんな学園に
まるで天空の城のようでそうでもない、白銀の近代建築っぽい校舎と、英雄の塔と呼ばれる建造物がそびえ立っているだけの浮遊島。その二つの建造物を繋ぐ大きな連絡通路があり、クエストが終わった生徒たちがゾロゾロと歩いていた。彼らはそれぞれの寮へと帰っていく。
空を見上げればお子様ドラゴンはまた異世界へと飛んでいった。
アマイのアホーと悪口を吐き散らしながら。
まぁアレは放っておいたらいい。
「ホント、コハクには困ったものですね」
「ねぇ、エル。異世界のアイスって何円するんだろ?相場わかる?500円玉使えるかな?」
使えるわけねーでしょ、と一蹴されるわけだけども。
二人も他の生徒と同じ帰り道。一年生寮へ目指していた。
そんな道中のお話し。
校舎前はちょっとした広場になっていて、校舎へ入るには広場の階段を登らないといけない。
これは、二人がちょうど階段に差し掛かった時のお話しだ。
「おーっほっほっほ。無様ですわね
なんだか、妙に鼻につく高笑いする声が階段の上から聞こえてきた。
もう嫌な予感。
雨衣たちは声のする方へ視線を向けると、いかにも高笑いが似合いそうな貴族やら令嬢やらお嬢様な雰囲気を醸し出した縦髪ロールな金髪ドリルヘアーの少女が腰に手を当て仁王立ちしていた。
「誰ですかオマエ?」
なんと、まさかのエルの知らない相手だ。
「なっ!?まだわたくしの名前覚えていなくって!?同じクラスメイトの
「あー…え?かさ…なに?雨衣、オマエは知っていましたか?」
「えっと……」
雨衣も、名探偵が推理するがごとく右脳を働かせた。Eクラスにいたっけ?
「長考するまでもありませんの!完全にいーまーしーたー!おたくら、スコアも低ければ知能指数どころか記憶力も低くて?クラスメイトの顔も名前も覚えられないんですの!?」
「あーもう何ですか、ワタシに何か御用ですかおぜうさま」
さて、めんどくさいクラスメイトに巻き込まれた雨衣たち。
若干、まだ本当にクラスにいたっけ?と思わしきレベルで疑いを払拭できていないわけども。
まぁ、まだ入学してから数週間経ったところでこんなものだ。
「御用も何も勝利宣言をしに来ましたの」
「は?勝利宣言って何の話ですか?」
「ソレも忘れてらっしゃるの!?入学式の日、わたくしアナタに宣戦布告しましたよね!?」
「エル、そうなの!?」
雨衣はわざとらしく驚きエルに訪ねた。なにか、リアクションしないといけないと思ったのだ。
「……そんなのいちいち覚えてませんよ」
「ひ、酷くありません!?」
「はぁ、それでオマエは何が言いたいのですか?勝負って何ですか?もう帰っていいですか?お腹空いたので寮に帰りますね、サヨウナラ」
「まだ話は終わってませんわよ!」
エルはあからさまにため息をつきうんざりしていた。
「忘れたのならもう一度宣戦布告するまで!鏑木エル!学園理事長、
「あぁ、花山院って没落貴族の……」
「没落しておりませんわ!まだ!」
「あぁ、ギリ崖っぷちなんでしたっけ?」
「むきー!言わせておけば好き勝手言ってくれますわね、この性悪女!でも、その余裕も今日までですよ!」
エルはまたため息をついた。
バカバカしいともう一度ため息をついた。
―――――そもそも競争する相手を間違ってますけどね、と。
ぼそっと吐いて三度のため息をついた。
「こほん。いいですか?この一週間で既にわたくしのスコアは<145>。それに対して鏑木エル、アナタのスコアは<0>。この差はちょっとやそっと頑張った程度じゃ追い越せやしないのですわ」
「で?」
「だーかーらー!この勝負はわたくしの勝ちでよろしいでしょうか!」
「別に……それでいいんじゃねーですか?そういうの興味ありませんから。ワタシはそんなお遊びに付き合っているほど暇じゃねーんですよ」
「あっそ……なら、わたくしの勝ちということで、そちらの一般人さんをくださらない?」
「「は??」」
さて、話はややこしくなってきた。
雨衣は、花山院から一歩距離を置いた。そして、花山院が一歩距離を縮めてきた。
「あら?予想外でしたか?ですが、貴女はわたくしの勝ちを認めましたわよね?でしたら、勝者には戦利品が与えられるわけでして」
「ねーですよ、そんなもん。勝手に決めねーでください……」
「それが勝手ではありませんのよ、鏑木エル。アナタと一緒に交わした契約書もありまして?」
「なん……だと……?」
花山院はポケットから一枚のボロボロの契約書を取り出した。
「一般人さん、コレを読んでくださらない?」
「えーと、なになに……」
その契約書にはこう書かれていた。
『星覇の誓いの元に――わたくし、花山院雲母は鏑木エルに宣戦布告を宣言いたします。この1年間、互いの最終スコアの高かった方を勝者とし、敗者の財産の一つを貰い受ける権利を与えるものとする。これに鏑木エルは承諾する。かしこ』
何が「かしこ」なのか雨衣にはわからなかった。
しかし、こんなふざけた契約書に二人が署名したであろうサインがあった。
「エル、サインしたの……?」
「……」
「どうなの?」
「えとですね……サインした覚えがあると言われれば、していないとも言いきれませんね」
「どうやら思い出したみたいですわね」
「マジかー……」
雨衣は天を仰いだ。
「えーえー思い出しましたよ思い出ーしーまーしーたー。確かにそれにサイン書きましたー。でもサイン書いたのもあまりにコイツがしつこく付き纏ってくるもんですから仕方がなくですよ!」
「それでテキトーにサインして忘れていたってワケなんだ……」
「まーアレです。サインはしてしまいましたが、ワタシの財産にオマエは含まれません。ですから安心してください」
「いえ、一般人さんは鏑木エルにとっての財産だとわたくしは睨んでおりますの。だって、そうですわよね。中学の三年間ずっと引きこもりで登校拒否ひていたあの鏑木エルが、一般人さんを引き連れて仲良くこの学園にやってきたこと自体がちゃんちゃらおかしい状況なのですから。まさしく高校デビューってやつですわ」
「あーあー何も聞こえねーですこれ以上何も聞きたくねー雨衣なんとかしてくださいー……」
エルは聞くに耐えずに耳を塞いだ。
「花山院さん、もうやめてあげて。エルのライフは0だよ」
まさかのエルと花山院雲母がおな中と発覚。
エルは不登校であったが故に彼女のことは知らないみたいだが、反対に彼女はエルのことを知っていた。同じ中学で三年間同じクラスであれば顔は知らなくても名前だけは有名であったのだから。
それで、ずっと引きこもりだった陰キャが高校デビューキめてリア充満喫していたら喧嘩の一つでも売りたくなったとか。
「で、鏑木エル!わたくしとのスコア勝負、受けてくださるの?くださらないの?」
「あーもうわかりました、その勝負受けて立とうじゃねーですか。ワタシが負けたら雨衣を煮るなり焼くなり薬付けの実験動物にするなり好きにしてくだせー」
まんまと花山院の策略にハマったエル。
わざわざ先程のエルの敗北宣言を無かったことにしている彼女が一枚上手なのかもしれない。
雨衣は花山院に視線を向けると彼女はウインクをしてきた。
彼女の意図を察して雨衣もクスリと笑った。
「よかったね、エル。ライバルができて」
「全然よくねーんですけど……ツ!?」
こうして、エルにライバルができた。
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