第5話 スコア0

 やられたらやり返す―――

 それが鏑木エルの信条である。


 だからといって、殺意マシマシで初手にオーバーキルを喰らわせるのも相当ヤバい。


 まあ、本当に死ぬわけではなく学園に強制送還されるだけだ。

 だから、こんな愚行を起こす者もいる。それはエルだけではなく、イジメっ子の田島たちも度が過ぎればやっていただろう。

 もちろん、学園側はこういったPKにあたる行為は減点対象として重い処罰を魔法生に与えるわけだが。


 彼ら星覇の魔法生たちの価値はスコアが全てだ。

 こういったクエストなどで得たスコアが成績となる。翌年度のクラスが決まる。将来が決まる。とても貴重な点数である。

 確か、クエスト内で死んでゲームオーバーは-10点。

 時間制限内でクエストクリアできなくても-10点。

 よって計-20点。

 これだけでも大きな痛手だ。


 PK行為に及んだ者は、魔法生同士だと-100ptだったはず。

 これは上位クラスを狙っている魔法生からにして死活問題に値する点数だ。

 だから雨衣は絶句した。

 雨衣はスコアに関しては結構シビアだ。


 田島のパーティーは計4人。

 まずは1人目。

 田島の脳天が魔弾によって打ち抜かれた。

 なんともあっけなく田島はゲームオーバーになった。

 光の粒子となって散っていった仲間を見届けた前川はこの状況に追いついていなかった。


「は?ア、アンタ、今……田島、殺った??」

「ボ、ボクじゃないよ……」

「じゃあ誰が田島を殺ったっていうのよ!?というかPKして点が減ってもいいっていうの!!?」


 混乱する前川。

 それには雨衣も凄く同感なのだが。

 前川は雨衣を人質に取りながら警戒レベルをぐんと上げた。

 狙撃に備えて土魔法でバリケードを作った。


「か、隠れていないで出てきなさいよこの卑怯者!!」

「……」


 誰かが応答することもなく、静寂する山に響くのは前川の声だけである。

 前川は、田島が没収した雨衣の【零式】を拾って、自身の分と合わせて二丁を構えて戦闘態勢に入った。


「それとも臆病者?きゃはっ……そりゃそうよ!私はCクラス!でも、アンタのお友達もどうせEクラス!雨衣ちゃんはそこでお友達が地に這いつくばって無様に負ける姿を拝め!私らCクラスにたてついたことを後悔させてやるわ!きゃははっ!」


 ザザッザザザッ!

 その瞬間、茂みの方から何者かが駆けてきた。

 前川は慌ててトリガーを引きそうになったが、寸前の所で止めた。


「前川!ちょ、ストップ!撃つな!!」

「……っ!?杉浦に、黒江……っ!!」


 田島パーティーの残り二人が異変に気が付き駆けつけてきたみたいだ。


「おい何があった!?」

「し、白菜っ、田島ってマジでやられちゃったの!?それもEクラスに!??」

「あ、駄目……今は…………来ちゃダメぇーーー!???」


「「は?」」


 あまり状況が掴めていない2人に迫りくる影。

 それはゴブリンだった。空から降ってくる。まさか何者かが放り投げて寄越したものだとは理解できず。

 藤中黒江は何かに襲われる衝撃と共に転倒。あいたた……とカワイイ声を出すも何かが自分の上に覆いかぶさっていることを確認して顔を青ざめさせた。

 瀕死のゴブリンがもがき苦しみながらも顔面スレスレのドアップでキメていた。


「きゃぁああああああ!?」


「あぁ、オマエ達のターゲットでしたかソレ。陰でこそこそキモかったので半殺しにしてやりました」

「こ、この、勝手に俺たちの獲物を横取りするな……っ!!」

「だったら、さっさと仕留めちまったらよかったんですよこのおバカ」


 と、杉浦も反撃しようとしたが既に遅かった。

 奴は背後ゼロ距離まで接近していた。後頭部に突き付けた【零式】から魔弾が容赦なくぶち込んだ。杉浦はヘッドショットをくらってゲームオーバー。続いて瀕死のゴブリンと地べたで格闘していた藤中も2発の魔弾を撃たれてゴブリンごとゲームオーバー。

 残るは前川のみ。


「ま、マジでありえないんですけど……一体なんなんだよお前はぁっ!雨衣ちゃんを助けて友情ごっことか笑えないんだよ!CクラスがEクラスに負けるとかマジでありえないんですけどぉ……ッ!!」


 前川は雨衣を足払いをかけ胸部を思いっきり踏みつけ地べたに押さえつけた。

 左手の【零式】で雨衣に狙いを定め、右手で雨衣の相棒に狙いを定めた。

 それをすることによって、雨衣は仰向けになり前川のスカートの中が丸見えなのだが言わぬのが花……

 そして、雨衣の相棒・鏑木エルがトドメの一言を前川に突きつけた。


「あー、はいはい。うるせーですね、そんなに怒鳴らなくても聞こえてますよ。それともどうちまちた?Eクラスなんかに全滅させられそうで怖くてブルって大声しか出せねーんでちゅかー?ホントわかってまちゅかー?4人の中で1番弱そうだからワザと最後まで残してやったってのがわからないオマエはクソ雑魚乙でちゅねーこのクソビッチがww」


「あ、ああああああああふざけるなよお前ぇええーーーーーー!!」


「………」


 煽り耐性ゼロ。

 最早、決着は決まったも同然だった。

 CクラスがEクラスに負けるはずがない。【零式】よりも得意な近接戦闘の魔法でEクラスをぶちのめそうと突っ込んだ時点で前川の負けである。

 後ろががら空きだ。


「は……?」


 前川は足元から崩れ落ち無様に転がった。

 自分の身に何が起きたのかわかっていない。

 急に背後から攻撃され、足元を崩されて転がった。特攻をかけた自身のスピードを殺しきれずにエルの足元まで無様に転がった。

 自分の右足が無い……吹き飛ばされた??

 何が起きた?

 だまし討ちされたことだけはわかった。

 それがエルが騙し討ちでもしたのならまだ納得できた。しかし、背後から攻撃してきたのはエルではない。


「お前か雨衣ぃ……ッ!!」


 雨衣が何かしらの魔法を行使したのは明白である。

 あの目が気に入らない。イジメっ子に萎縮するも、仲間を助けるために一丁前に勇敢にもこちらへ明らかな敵意を見せるあの目が気に入らない。

 それにしても何だというのだ。

 あの地面に突き刺さっているのはボールペン?

 なんかバチバチと音を立て火花を吹いているボールペン?

 あんなもので……?

 だけど、雨衣は手に武器を持っていない。

 【零式】は没収したのだから。しかし、魔法のド素人が何かしら魔法を行使して前川の足元を崩したのは事実だった。

 まさか、あんな落ちこぼれに、魔法のド素人に、一般人に後ろから噛みつかれるとは思ってもみなかった。


「は?ありえないありえないふざけるなふざけるなあんなものでこの私が……ッ!?お、落ちこぼれのクセに、雨衣のクセに……お、覚えてろよEクラスぅ……」

「あーはいはい。無様に1回死んでください。はい、サヨウナラ」

「がふっ!?」


 エルはトドメを刺した。

 【零式】から放たれたなんの変哲もない魔弾で……

 そして、前川は光の粒子になって散っていった。


 あーあ、やってしまった。

 やってしまったものはしょうがない。

 雨衣はもう平穏で楽しい学園生活を送る青春とかそんな夢見ることはやめた。


 まぁ、そんなことよりもだ。

 何度でも言うが星覇の魔法生にとってスコアが全てだ。

 デバイスで確認してみると、雨衣のスコアが表示される。


 TOTAL SCORE <0>


 Eクラスの初期ポイント100点に加え、こつこつクエストをして稼いだ数十ポイントがごっそり減って0点。


(……大丈夫。まだ新学期始まったばっかだし)


 謎のポジティブ思考を発動。

 片や相棒はというと、同じくPKをして0点のスコアになってしまったというのに気に留めていないみたいだ。めっちゃドヤ顔をしてきた。


 鏑木エル。

 ひょんなことから相棒になった少女に今日も雨衣はドン引きした。


「おや、こんなところに例の薬草が」

「うそでしょ……」


 雨衣の苦労なんて鼻で笑うかのように、

 例の薬草が雨衣の足元にしれっと咲いていた。


 何はともあれ、これにて一件落着。

 薬草採りだけのクエストが何故か同級生とのバトルロワイアルに発展してしまったのは謎だけども。

 無事に教会へ薬草は送り届けることができそうだ。

 もちろん、オチもある。


『雨衣ちゃん、エルちゃん、アウトよ~ん!』


 電波障害はいつの間にか直った?

 突如、学園側からの通信。インカム越しから野太い声がクエスト失格を告げた。


「あははっ、ですよねー……」


 もう、乾いた笑いしか出ない。

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