第6話 学園への帰還

 異世界と現代を行き来する転送装置は【英雄の塔】と呼ばれる施設内にある。


 施設内にはギルドルームやらクエストを観戦できるラウンジやらスタッフルーム、管理室があり、クエストの違反を犯した雨衣マキナと鏑木エルは生徒指導室に強制連行されることになった。

 今現在、2人は担任教師と早乙女というギルド管理室長のニューカマーにお説教されていた。


「さて。2人とも、何か言いたいことはあるかしらん?」


「雨衣くんを助けるためには仕方がなかったんです。彼らは格上のCクラス。ワタシは底辺のEクラス。ああでもしないと雨衣くんがどうなっていたかはわかりません。だから、ワタシは自分の正義を信じ、信念を貫き、仲間を助けるために必死でした。本当に反省してまーす」


「で、エルちゃん。本音は?」


「まーあれです。一言で言うなら ざまぁねーです」


「わーお、反省の色無しねん」

「か、鏑木さん……」


 反省の色無し。

 あまりに感情の篭らない言葉は聞いていたらわかる。


「で、雨衣ちゃんはどうかしらん?」

「僕はちゃんと反省してますよ。エルと違って」

「よーし、オマエいい度胸してますね。それを反省の色無しと言うんですよ」


 大人2人はお前が言うなと言いたげな視線を向けるもエルの標的は雨衣に向いた。

 というか、また始まったかとため息をつきたくなる今日この頃。


「なにさ、本当のことだろ?クエスト中なんだから、もっと穏便に済ませる方法ならいくらでもあったはずさ」


「そんなもんねーですぅー。穏便に?平和的に?対話で解決しよう?はん、オマエは本当にド素人でちゅねー。だからナメられるんですよ」


「む、素人で悪かったね……」


「この学園に来た以上、もっと自覚を持てって話です。もうオマエは星覇の魔法生です。ただの一般人じゃねーんです。ワタシの相棒なら覚えておくことです。クエスト中だから穏便にすませろ?おバカ。クエスト中だからこそ、ワタシは大真面目に障害を排除しました。例え邪魔する輩が同じ屋根の下の学友であってもです。E級だからって手を抜く理由が1ミリもねーんですよ」


「エル、君ってやつは……君の本音を聞けてよかった。降参だよ、降参。僕の負け。君の言い分が正しいよ」


「わかればいいんですよ。ですが、ワタシも少しムキになってしまいました。この通り謝ります」


「ううん、エルが頭下げる必要なんてないよ。元はといえばボクがクエスト中にはぐれてしまったのが原因なんだから。謝るのはボクの方だよ」


「雨衣、オマエってやつは本当に良いヤツですね。やはりワタシの目に狂いはなかったです。流石ワタシの相棒ですね」


「ボクもエルが相棒で本当によかったよ。助けてくれてありがとう。これからもよろしくね」

「はい、こちらこそです」


 こうして2人は熱くの握手を交わすのであった。


「「……なにこれ」」


 とまあ、2人のノロケもとい茶番に付き合う大人たちはたまったものじゃない。

 これが奴らの作戦なのだから。


「それじゃ、雨衣と仲直りもできたことですし、ワタシ達は寮に帰りまーす」

「先生、早乙女さん。お疲れ様でしたー」


 と、2人は仲良く回れ右して反省室を出ようとして、早乙女に捕まった。


「油断も隙もないわねアナタたち。まだ話しは終わってないわよーん。というか、え、なに、そんな芝居で今回の一件を有耶無耶にできるはずないでしょうに。反省の色まったく無しとみなして2人には罰を受けてもらうわ〜♡」

「「……ですよねー」」


 2人は捕まって熱い抱擁を食らった。

 物理的に2人をまとめて暑苦しく抱擁される。雨衣とエルは声にならない悲鳴を上げる。骨がミシミシと言っていた。


「何がお疲れ様でしたーよん。次、PKなんかでもしたら熱いベーゼお見舞いしちゃうわよぉん♡」

「「……以後、気を付けます」」


 流石にそれはディープなので、エルも大人しく従った。

 雨衣はもうすでに早乙女にハグのダメージでふらふらだ。片膝をついた。


「ちなみにん、2人には明日の放課後、罰としてこのクエストやってもらうんわよん。覚悟しといてねぇん♡」

「「うわー……」」


 早乙女から提示されたクエストは以下である。

『E級 | 地下水道のゴミ処理作業。尚、ヘドロスライムに注意』である。一番不人気のクエストに2人はげんなりした。

 まだ、そのクエスト残っていたのかと内心冷や汗をかいた。

 Eクラスの誰もがやりたがらない不遇クエストだ。


(ねぇ、エル。あれって入学式当日からあったよね。排水口詰まりのヘドロスライム退治ってやつ……)


(はぁ、なんどやっても無限に湧いてくるクエストですよアレ。一時的にゴミ溜めを綺麗にしようが地上でヒトが生活している以上無意味なんですけど……)


「うふ~ん?何か文句でもあるのかしらーん?」

「ね、ねーですよ。ねぇー?雨衣」

「え、あ、うん。明日もクエスト頑張ります……っ!!」


「いやん、その意気や良しよぉん♡」

「2人とも名誉挽回ですよ!頑張ってくださいね!」


 今度、いじめっ子が因縁を付けて絡んできても早々PK行為には及ばないだろう。

 猛反省した2人はやっと解放された。


 ちなみに、今回のクエストはルール違反で失敗に終わってしまったが、担任の先生の温情によりギルド長・早乙女を説得しては、ゲットしていた例の薬草・ニルフィナはギルドの方から教会に無事に届けられた。

 担任はこの2人に甘いところもあるが、まぁ次はないことを願う。


 それから、

 トラブルの原因を作ったCクラスの田島たちも同じく説教され、明日このクエストを別ブロックで実行することが決まったとさ。


 あとは……


「ねぇ、エル」

「なんですか、雨衣?」


 お説教から解放され、学生寮への帰り道。

 異世界で失った右腕がくっついていることを確認しながら、雨衣はふと思い出す。


「ボク達、何か忘れてない?」

「そうでしたっけ?気のせいじゃねーですか」


 何か忘れていることを思い出す。

 異世界の山奥でD級のニャンガリアンに追いかけられ、

Cクラスの田島たちに絡まれ、何故かバトルロイヤルに発展してしまい、すっかり忘れてしまっていたのだけど。

 たとえば、クエストのためにアッシーにして山ではぐれてしまったお子様のドラゴンの存在とか。


「あ、コハク置いてきちゃった……」


 もう思い出した時にはすで遅し。

 学園へ強制的に戻されたのだ。連絡手段などはなく、コハクをあの山に置き去りにしてきてしまった。


「あのお子様ドラゴンも馬鹿じゃねーんですから、6時過ぎたら飽きて、どことなりへと帰るんじゃねーですかー?」

「それもそうだねー」


 あははー、うふふー、と自分たちがお子様ドラゴンを置き去りにした事実をなかったことに、できるはずもなく……


「あーまーいーくーん。よくもー、この、アタシをー、置き去りにしたわねぇ……?」

「あ、コハク。おかえり」


 ブチギレ寸前のお子様ドラゴンが人の子に化けて、指をポキポキ鳴らしながら彼らの行く手を阻んでは……


「あ、コハク。おかえり、じゃなーい!アンタ、このアタシを誰だかわかってるワケ!?」

「……コハクだよ」

「世界で一番美しくて可愛い最強のドラゴンは?」

「たぶんコハクだよ」

「アンタの頼れるドラゴンはどこの誰かしら?さぁ言ってみなさい!」

「きっとコハクだよ!」

「じゃあ何でこのコハク様の存在を忘れてんのよ!もう怒ったわ!5段アイス1週間分で許してアゲル!!」

「……さいですか」


 なんともまぁ、微笑ましいオコであった。

 雨衣はコハクのご機嫌取りのために明日から毎日5段アイスを買ってあげたそうな。


 何はともあれ、彼らの今日が終わる。

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