第4話 星覇の問題児
今日はアンラッキーデイらしい。
クエストのタイムリミットは午後6時だ。残り30分、まだ例の薬草も見つけていない……E級クエストもクリアできるか疑わしいというのに、それに輪をかけてもっと不幸な事態に発展した。
「よぉ落ちこぼれクラスの雨衣くーん。こんなところで出会うなんてやっぱり運命ってやつー?」
「田島くん……」
星覇魔法学園1年Cクラスの
短髪ピアスとチャラい。第一印象はそんなところだ。
入学式からの因縁があり、Eクラスの連中はみんな雑魚乙と馬鹿にして絡んでくる厄介者。
苦手なタイプであることは間違いなかった。
「で、ここで何してるわけ?」
「えっと……ニルフィナって珍しい薬草を探してて……」
「は?おいおいおい、ニルフィナなんかこんな所にねーっての。雨衣くんはやっぱりド素人だわー。それで薬草探しで片腕なくなるってどういう状況だよ」
腹を抱えて笑われた。
「つーか、ここは俺たちCクラスが仕切ってるテリトリーだっつうの。断りもなしに勝手に入ってくんなよー」
「えっと、クエストの邪魔しちゃったのなら謝るよ。ごめんね……それじゃあボクはこの辺で。一度、パーティーメンバーと合流してみるよ」
「あー待て待て待て。別に邪魔なんかとは言ってねーだろ〜」
そう言っては雨衣が回れ右をした背後から羽交い締め、ではなく腕を肩に回し詰め寄った。それはまるで友達かのような距離感。
過去の経験上、一般社会であろうと魔法社会であろうと、いじめっ子には萎縮してしまう。
先ほどまでのゴブリン討伐クエストをつまらないと言って笑っていなかった男子が、落ちこぼれクラスを見つけては笑っているのだ。
これで、嫌な予感がしないというのは嘘だ。
「寧ろ逆だよ逆。俺が雨衣くんのためにニルフィナが沢山生えている場所を教えてやっからー」
「え、マジで……?」
「おーマジマジ。まぁ、こっから歩いて行けばギリギリ間に合うから俺が道中ニルフィナについてた〜っぷりと教えてやるよ〜」
「……」
そんなワケ絶対ないだろぉおお……ッ!!と、両者が違う感情で心の中で絶叫していた。
はっきり云えば雨衣は詰んでいて、でも希望をまだ捨てていない彼にはさらなる追い討ちがやってくる。
ひょっこりと木の陰から現れたもう1人のCクラス。
初めて見かける顔だが、新しいオモチャを見つけたかのようなニチャァとなる笑みに雨衣は身震いすら覚えた。思わず目を逸らして俯いてしまった。
「きゃはは、田島ぁ、アンタEクラスなんかと絡んでクエスト、サボんなよww」
「チッ、前川に感づかれちまったか。つまんねーなオイ」
「まーまー、そう言いなさんなって。アンタだけ面白そーなことしてんな。独り占め反対ーww」
膝よりも丈の短いスカートとひらひら揺らしながら、こっちへ近づいてきた。
ニヤニヤしながら、俯いている雨衣の顔を覗き込む。舌舐めずりしたところが視界に入ってしまい、それだけで思わず呻き声を漏らしてしまった。
直感的にわかる。
この女子も苦手なタイプだ。
で、そんな雨衣の反応を楽しむ
「きゃははwwもしかしてこのおチビちゃんが例のEクラス?」
「あん?おーそうそう。コイツが例の落ちこぼれクラスの雨衣くんでぇ~す」
「きゃははっ、私知ってるよー。アンタがコイツに告ってフラれたんだっけ?ww」
「ばっか、ちげーよ!?」
なんて悪い噂も流れる始末。
本当にどうしたものかなーと雨衣は考えた。
言い争ってくれるならそのまま続けてもらって、その隙にこっそり逃げても学園に戻れば結局また絡んでくるだろうし、因縁付けてくるだろうし。
「というか、アンタが楽しいこと独り占めしたらそん時は
「ちっ、あーもうわかってるって!もういいや、計画変更だ!おい前川!このチビを逃さないように押さえつけとけ!」
「きゃはは、新しいおもちゃゲット〜ww」
今度は前川にヘッドロックされる。
絶対に面白そうだから逃がさないと言うばかりに力が篭っていて、非力な雨衣では逃れることはできなかった。たぶん魔法で身体強化しているのだろう。雨衣は身体強化の魔法なんてやり方わからないから使えなくて厄介だ。力の差は歴然だった。
「きゃはは、なになに?これからこのおチビちゃんにナニやらせるつもりー?www」
「今これから杉浦と藤中をこっちに向かわせる。ゴブリン狩りはつまんねーし、ここは一発おもしれーショーを開始するぜ!」
「きゃははっ、もしかしてコイツをゴブリンの餌にでもするつもりー?ちょっとソレは寧ろ萌えるwww」
「アホか。そんなムゴい発想はお前だけだぞ前川。ちげーよ、そうじゃなくって、落ちこぼれクラスの雨衣くんが魔法社会で生きていくためのレッスンを俺たちがしてやるんだよ」
「フラれたのに未練たらーりじゃん。やっさしーwww」
「うっせー!こっから始まるのは雨衣くんVSゴブリンのドリームマッチだぜー!!」
本当に、Cクラスと関わるとロクなことにならない。クラスメイトからも評判の悪いクラスなのだから。
田島は周辺にいる仲間へ連絡を取り、ゴブリンの残党をここに上手くおびき寄せてEクラスの雨衣と戦わせよう……なんて不穏なやり取りをしている。
というか、電波障害は?田島たちは普通に通信していた。
「お〜い、落ちこぼれクラスの雨衣く〜ん。今から俺の仲間がゴブリンをこっちに誘導するからよぉー、君のカッコイイ所見せてくれよなー!」
そう言って雨衣から魔法銃【零式】を取り上げた。
数少な攻撃手段。学園側で支給された、攻撃魔法がロクに使えない魔法生たちにとっては必要不可欠の代物。
最悪だ。
あぁ、今日は本当にアンラッキーデイのようだ。
ここまで不運の連続するその先については考えることを諦めた。
まだこの2人は気付いていない。
雨衣の視線の先に確かにいた。はぐれたと思っていたらこんな所にいた。木の陰に隠れてこちらを睨みつけるおぜうさまがいた。
「あー、田島くん。君たち逃げた方がいいよ………」
「は?おいおいおい雨衣く〜ん!寝ぼけてるのかー?俺らが誰から逃げた方がいいだって〜?ほんと落ちこぼれが何言って……んだ……ッ!?」
たとえば、雨衣のピンチに駆けつける心強い味方がいたとしたら。
たとえば、Eクラスに売られた喧嘩を全て買う問題児がいたとして、相手が同じ星覇の魔法生だろうが問答無用で容赦無く奇襲をかけて銃撃なんかしたら。
ズドンっ……と、このように。
田島の首から上がごっそり、相棒の魔弾丸によって打ち抜かれた。
「「……」」
絶句するしかない。
どこの星の元に生まれたらクエスト中に、同じ学園の魔法生をPKキメる愚か者がいるのだろうか。
なんともあっけなく田島はこの異世界から退場した。
ゲームオーバーである。
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