第11話 支配する側と支配される側
珍しく淡島さんの家にいた。
父親は出張で、母親は友達の家に行っているそうだ。
なので、家には俺と淡島さんの二人きり。
テレビで映画を観ながら、手を繋いで、それから買ってきた弁当を食べて、それで淡島さんとイチャイチャして、朝だ。
結構話をしていた気がする。
ただ途中から飽きてきた。
なにせ普通に話していた時間もあるし、アプリでチャットみたいなものをしている時間もある。
ずっと淡島さんと四六時中会話しているような気がして、たまに滅入る。
(俺はあんまり他人と接するの好きじゃないんだよな)
だけど、好感度を確認しないと喋る時に不安だ。
どうしてもアプリを起動してしまう。
「どうしたの?」
淡島さんが乱れている服を直している。
そういう姿も色っぽく見えてしまう。
クラスで一番綺麗な女子という訳ではないのにそう思うのは、惚れた弱みという奴だろうか。
「いや、あんまりおもしろいテレビないなって思って」
「そうだね。そういえば、テレビ全然観ないって言ってたもんね」
「……言ったかな、そんなこと」
「言ってたよ、ちゃんと」
何も考えていなかったから、適当にテレビの話を振ったのだが、そんな話をした覚えが本当になかった。
やはり記憶の齟齬が発生している。
アプリと現実との区別が曖昧になっているせいで、記憶に混乱が起きているのだ。
「そういえば、言い出せなかったことがあるんだけど」
「え? なに、いきなり?」
こういう言い方をする時は、大体別れ話とか、愚痴が始まるパターンか?
ともかく俺は心の中で最大限に身構えた。
「実は、私、ずっと前から横島くんのこと好きだったの」
「え……」
想像よりもずっと嬉しい事を言ってくれたので破顔する。
だが、直後、俺の顔は凍り付いた。
「それから私、横島君が複数の女の人と遊んでいたことも知っているの」
「え、それは、その……」
「うん。それでもいい。それでも好きだったから付き合ったの。全然怒ってないよ」
「……すいません」
全然怒ってないは、怒っているの意味ってことぐらい、俺にも分かった。
なので素直に頭を下げる。
「いいんだよ」
淡島さんはとろけるような声で囁くと、俺に正面から抱き着いてきた。
「今は好感度が上がったから、私のこと好きだもんね」
その言葉を聞いて、俺は呼吸が一瞬止まった。
誰が支配する側で、誰が支配される側なのか。
そんな疑問が首をもたげたが、すぐに霧消する。
「うん、そうだね」
まるで他人のように無機質な声が伽藍洞な部屋に響いた。
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