第8話 最適解を知っている問答

 学校の帰り道。

 普段は何も思わないが、今日は妙に静かに感じる。


 淡島さんと一緒に帰ることになったのはいいが、お互いまともに話したことはほとんどない。

 次の授業何? とか、テスト大変だったね、とかそんな世間話をしたぐらいなもの。


 それに淡島さんも俺も、他人とにこやかに話すようなタイプではない。

 だから必然的に帰り道は口数が少なく気まずい。


 淡島さんが口火を切った。


「さっきはビックリしたね」

「ああ、ごめん、あいつが勝手に……」

「うん、だよね……」


 はい。

 会話終了。

 お疲れさまでした。


 と心が折れそうだったけど、せっかく淡島さんから声をかけてくれたのだ。

 俺も勇気を出さなきゃ。


 なにせ俺は淡島さんの好感度を100以上にしているのだ。

 彼女が俺のことを嫌いなはずがない。


「淡島さんってさ、猫好きだよね?」

「え、う、うん……」


 最初の会話っていうのは難しいもんだ。

 だが、こっちはアプリで会話済み。

 淡島さんが何を好きなのかを把握している。

 だから食いつきそうな話題が何なのかすぐ分かる。

 最初からゲームの攻略本を読んでゲームしているようなもの。

 会話なんて簡単だ。


「俺、スコティッシュが好きなんだよねー」

「えっ!? 本当に!? 私も!!」


 想定以上に食いつきがいい。

 やっぱり猫好きなんだな。


 アプリ内の会話でも結構猫率多いんだよな。

 そこまでいいもなのかな。


 どっちかというと、犬の方が好きなんだけど。

 自分に従ってくれるという点では、犬の方が相手をしていて楽しいのに。


「いいよねー、猫。私も飼いたいんだけどねー」

「俺の家も両親がダメっていうからさ。でも、ペットショップとか行って見に行っちゃうんだよねー」

「えっ!? そうなの!? 私もなの!?」


 まるで決められている台本を読んでいるかのようだった。

 テレビに出ている芸能人ってこんな気持ちなのかな。


「恥ずかしいと思っていたから友達にも言ったことなかったんだけど、良かったあ……。私と同じような人がいて」

「全然恥ずかしいことじゃないよ。猫好きならみんなやっているって」


 こういう風に言えば喜ぶのは既に知っている。


 本心では恥ずべき行為だとは思っているが、おくびにも出さない。

 割と演技するのは得意かも知れない。


 それから話はどんどん続いていった。

 お互いに理解し合っているような空気が流れ、最終的には、


「私達、付き合えるかな?」


 淡島さんから告白して来た。


 あまり驚きはしなかった。

 好感度はとんでもなく上がっているだろうから、ちょっと話せばこうなることぐらい予想の範疇だ。

 俺は特に気負いもせずに返事をする。


「うん、付き合おう」

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