第7話 支配範囲の拡大と効果確認
アプリを利用してから数ヵ月。
色々と試して分かったことがある。
まず、俺が持っているアプリは本物だ。
好感度をアプリ内であげると、実際のその人物の好感度は上がる。
そして、かなり理不尽なことでも言う事を聞くようになる。
例えば、勝手にキスをしても怒られない。
「――んっ」
「もうっ!」
「ごめんごめん」
ポコスカと軽く殴って来るけど、実際には怒っていない。
この女子生徒は他のクラスの女子だ。
最初は自分のクラスだけの好感度を上げ下げしていたのだが飽きたのだ。
それで好感度をイジってみて、恋人みたいな振る舞いをしてみたのだが面白い。
ただ、少し虚しい。
自分で好感度を操っている虚無感があるからかと最初は思ったけど、そんな繊細な心を持っているような俺でもない。
どうしてだか分からないけど、彼女といてもどうも心に隙間がある気がする。
「じゃ、そろそろ行こうか」
「……うん」
男の好感度を上げて、そういう関係を迫って来る人もいるかと思ったけど、今のところはいない。
俺が怖いので好感度は100で止めていることもあるからだろうか。
女子は好感度100以上の好感度を上げた。
やはり100以上になると好感度が表示はされないが、それ以上上げると反応が変わったので数値化されない好感度もあるようだ。
だが、100ぐらいで止めておいた方がいいかも知れない。
そんな風に最近は思っている。
「ねえ、私達そろそろ付き合わない?」
「付き合うって……」
「だってキスだってしたし、それに、それ以上のことだってこれからするでしょ?」
「あー、ごめん。少し考えさせて」
「……分かった」
好感度を100以上に上げると、自分の言う事を聞く素直な人間ができあがる。
それはそれで楽なんだけど、発言が重くなってくるのだ。
(こいつはもう捨て時だな……)
元々くっつかれるのは好きじゃない。
他人と関わるのが苦手なタイプなのに、こっちが会いたくないと言っても会いに来る時がある。
好感度を支配できるといっても、全てを支配することはできない。
「じゃあ、俺のクラスこっちだから」
「うん、またね」
「じゃあね」
またね、とは敢えて返答しなかった。
彼女とはもう顔を合わせる程度の関係に戻るだろう。
好感度支配アプリはこう言う時に便利だ。
こっちが煩わしいと思ったら、すぐに関係をリセットできる。
これが現実だったらお互いに気まずい想いをしたまま、喧嘩に発展するかもしれない。
でもアプリをちょっといじれば好感度を下げ、あっちが俺に関わらないようになる。
なんて便利なアプリなんだ。
「でも――」
危険ではある。
好感度を上げ過ぎて襲われそうになったことがあった。
依存性が元々高い子だったんだろう。
俺とずっと一緒にいることを望み、スマホを没収されそうになって、ずっと付き纏われてストーカーみたいになった子もいた。
好感度を下げたらそんなことはパッタリとなくなったから良かったが、あのままだったら警察沙汰になっていたかもしれない。
「よう。観たぞ。さっきの女の子誰?」
教室に戻ると、からかうように男子クラスメイトが俺の前まで来た。
こいつの好感度は大体50前後にしている。
最近、一番話している気がする。
これ以上好感度を上げると、こいつとは友人じゃなくなる気がしたから、なるべくアプリでイジらないようにはしている。
なんだかアプリでイジらない相手と話す方が、最近は穏やかな気持ちになれるのだ。
「別に。ただ話してただけだ」
「ほー。そういう雰囲気じゃなかったけどな」
無遠慮に話されるのは嫌いだけど、まあ、たまには話をしてやらないこともない。
「……そういえば、国語の先生ってハゲてるよな」
「ああ、だから前にも言ったろ? あれはカツラだって」
「そうだったっけ?」
「そうだろ。全く、相変わらず横島は人の話聴いてないよな」
「それはごめん」
本当に話をしたことなんてない。
俺は確かに他人に興味ないから、他人の話を記憶するのは苦手だ。
だが、本当に国語の先生がハゲかどうかは話していないのだ。
これもアプリによる影響が出ていると考えていいだろう。
アプリに会話システムがあるが、その時行った会話がそのまま実際に会話したかのように現実に反映されているのだ。
つまり、現実で話していないことを話していると相手が認識するのだ。
こちら側とあちら側で認識の祖語が発生するので、会話には気を付けないといけない。
食い違うと、あっちも不信感を持つからな。
「それにしても、淡島さんと最近いい感じだな。本当にいいのか?」
「? いいのかもなにもいい感じではないと思うけど。避けられているし」
「意識しているから避けられているんじゃないか? そうだ俺がキューピッドになってやろうか?」
「いいよ、そんなの」
「遠慮しないでいいって」
話を全然聞かないな。
こいつは元々こういう性格だから、好感度をイジっても意味ないんだよな。
「淡島さーん」
「おい!」
どうか、聞えていませんように。
祈るように手を合わせていたが、淡島さんは振り向いてしまった。
「なに?」
「横島が一緒に今日帰りたいって」
「えっ」
一瞬、俺の口から漏れた驚きの声かと思った。
俺と同じ反応をしている淡島さんは眼を点にしている。
当たり前だ。
こんなの遠回しに気にしていますと告白するようなもの。
仮に脈があっても、こんな公衆の面前で了承するはずがない。
「いいよ」
「えっ」
今度こそ俺が訊き返した。
思わず耳を疑ってしまった。
「一緒に帰ってもいいよ」
その言葉を聞いただけで浮足立った。
最近ずっと避けられてるせいもあるのか、こんなに嬉しいと思ったのはここ最近で初めてかもしれない。
「良かったじゃん」
「あのなー」
俺はこの身勝手なクラスメイトに口では文句をいいつも、内心では拝むように感謝した。
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