第9話 付き合った噂は男女問わずすぐに出回る

 教室に入る。

 すると、一人の男子生徒が他の人との話を中断してこちらにやってきた。


「よっ」

「ああ」


 なんか嫌な予感がするな。

 他にも親しいクラスメイトがいるはずなのに、俺を優先するとは。

 もしかしなくても話題はアレのことだろうな。


「淡島さんと付き合いだしたんだって?」

「どこからその情報が?」


 色恋沙汰大好きだから、話題はそれしかないとは思っていた。

 けど、いつも思うが、こういう奴等はどこから嗅ぎ付けてくるんだろうな。


 淡島さんと付き合いだしてから日は浅いし、俺は誰にも話していない。

 情報が漏れるとしたら淡島さんの口からしかないのだが、こいつと友達といえるような間柄じゃないことだけは確かだ。


「女友達から。まっ、こういうことは隠せないものだから」

「…………」


 みんな口軽いな。

 好感度をイジっていても、正確なコントロールは難しい。

 便利だけど万能じゃないのが、妙にリアルなアプリなんだよな。


「で、付き合い始めた感想は?」

「……特にないかな」


 淡島さんと付き合い始めてから何か変わったといわれれば、そうでもない。

 周囲の反応的に、他人と付き合うのは劇的なものだと思っていた。

 ドラマチックで甘美で、人生に潤いをもたらせてくれる娯楽。

 そんな認識だったのだが、誤ったものだったんだろうか。


 確かに心は浮つく。

 俺だって嬉しい。

 それは認めよう。


 でも、その程度のものだ。

 以前の自分とは何も変わらない。


「ふーん」


 俺の答えが気に喰わないような相槌だ。


 まあ、そうだろうな。

 恋愛はこの世においての至上の喜びだって思っている人間は多いだろうから。


 俺の価値観がズレているのだろう。


「どこか行った?」

「ファミレスとか、映画館とか、図書館とか」


 ファミレスと図書館は勉強デートだ。

 お互いに学力は同じぐらいで、得意科目は違ったので教え合った。

 勉強自体はそこまで好きっていう訳でもないが、付き合っている人と勉強をするとまた違った空気になった。


 映画館はアニメを観た。

 特に大きな出来事はなかったがはなかったが、男一人で来ているアニメ映画にカップルで入るのは優越感があった。


 特別楽しいデートというものもなかったが、それなりに楽しめたと思う。


 放課後に一緒に帰るだけでも、デート感が出て楽しかったしな。


「まあ、デートってなったら、そういう所かなって思ったんだけど」

「俺もそんなもんだよ」


 学生となると金が無い。

 仮に俺が周囲の好感度を上げて金を巻き上げたとしても、羽振りが良かったら怪しまれる可能性がある。


 だから、比較的お金がかからない場所でデートすることになる。

 そうなってくるときっとみんな同じ場所になるんだよな。

 同じ場所ばかり行っていたらマンネリしそう。


 もっとお洒落に美術館とか行った方がいいのかな。

 でも興味ないしな。

 アプリで淡島さんが興味あるかどうか調べてみようか。


 お互いに美術館興味ないのに誘ったら無駄な時間を過ごすことになるからな。

 こうやって事前にデートプランを組めるのはアプリのいいところだ。


「なんだ。上手くいっているじゃん。安心した」

「そ、そうか?」


 デートしているだけで上手くいっているって安心されるのも、俺が侮られているようで気分が悪いな。


 俺だってデートプランは組めるし、どこへ行けばいいかなんて分かり切っている。


 ただ、ファーストフード店でクーポンを使った時に、若干好感度が下がったのが気になったな。

 クーポンぐらい学生だから使わせてほしい。

 100円、200円の差っていうのは結構大きいのだ。


 リアルタイムでの好感度は『好感度支配アプリ』では表示されないけど、若干引かれていたぐらいは分かったからな。


 お金かからないってなったら、お家デートが完成形だけど、どっちも家族がいるのに、家に呼べる訳もない。

 公園デートも微妙だしな。


 そうだ。

 聞いてみるか。


「公園デートとかってする?」

「え? 公園デート? いや、しないな」

「そ、そっか……」


 やっぱり公園デートとかはなし、か。

 お互いにペットとか飼っていたら、お散歩デートとかできるのかな。

 いや、ちょっとその発想はおっさん臭いか?


 案が出てこないな。

 アプリで女性の交友関係が広がりはしたが、身体目的の使い方しかしていないからな。

 デートとか、健全な付き合い方に関してはまだまだ分からないことばかりだ。

 そこはアプリで予習をみっちりやっておかないとな。


「でも、本当に良かった。心配していたんだ」

「そんなに? 俺達の関係が?」

「ああ」


 確かにあまり話していなかったからな。

 

 他の人の視線でいくと、いきなり付き合いだしたように見えるんだろう。

 それで心配したのか。

 俺には無敵の『好感度支配アプリ』があるんだ。

 付き合いだした時間なんて俺には関係ない。


 俺が飽きることになった時ぐらいしか、彼女と別れることはないだろう。


「だって、横島って淡島のこと嫌いだったもんな」


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