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アヤは、宮桜に化けたタヌ助を、階段の踊り場まで連れて行くと、

「ちょっ、ちょっと、タヌ助。

いったい どういうつもり、宮桜くんに化けるなんて。」

赤い顔で、タヌ助が化けている宮桜を見ながら言った。

「アヤさんだけ、誰も参観に来てませんでしたから、可哀相になって。」

「それで、宮桜くんに化けたの?」

「はい。

今朝、この宮桜くんが好きだと言ってましたから。

これなら、喜んでもらえるかなと。」

アヤはそれを聞いて、頭を押さえた。


「そりゃ、宮桜くんが来てくれると嬉しいけど。。。」

そう言うと、アヤの顔が、さらに赤くなった。

「でも、そんな姿でウロウロして、騒ぎになったらどうすのよ。」

「えっ、騒ぎになるんですか?」

「なるわよ。

さっきの、お母さん方の反応、見たでしょ。

イツメンのお父さん方しか見てない所に、映画俳優のイケメンが来たりしたら。」

「まっ、まあ、そうですね。」

「とにかく、急いで、元の姿に。。。」

アヤがそう言った時、階段に、とても綺麗な身なりをした女性が現れた。


「こちらにいらしたんですか。」

女性は品の良い言い方でそう言うと、階段を踊り場まで降りて来た。

「わたくし、こちらの学校のPTA会長をしています、西園寺と申します。」

女性はそう言うと、丁寧にお辞儀をした。

それを聞いて、アヤの顔が、真っ青になった。

「こちはら、アヤさんの、お知り合いの方ですか?」

西園寺は、アヤを見ながら笑顔で聞いた。


「はっ、はい。

知り合いというか、何というか、その・・・そう、遠縁の、とにかく遠い山に住んでる、親戚のおじさんなんです。」

裏返った声で返事をすると、アヤは大粒の冷や汗を掻きながら、しどろもどろに言った。

「初めまして。

わたし、アヤの遠縁にあたる、叔父の・・・、桜宮と言います。」

宮桜に化けているタヌ助はそう言うと、爽やかな笑顔を見せた。


「初めまして、西園寺です。

突然で、失礼かと思いましたが、

今日、こうして参観に来られてますから、もし学校教育に興味がありましたら、『是非とも』PTAに参加して頂きたいと思いまして、声を掛けさせて頂きましたの。」

西園寺はそう言うと、宮桜に化けているタヌ助の手を握った。


「いや、あの、それはちょっと、その。。。」

アヤが、目を大きく泳がせ、頭をショートさせながら言った。

宮桜に化けているタヌ助は、爽やかな笑顔を作ると、ギュっと強く西園寺の手を握り、

「どうも、お誘いありがとうございます。

でも、ぼく、今はニューヨークに住んでまして、これからまた仕事で戻らないといけないんです。」

そう言って、体をズイッと西園寺に近づけた。

「まあ、そうですの。」

西園寺は、顔を真っ赤にして言った。


「はい。

今日は、たまたま時間が空きましたから、アヤの参観に来たんです。

ですので、折角お誘いですが、PTAには参加できないんです。」

「そうですわね。

それだと、仕方ありませんわね。」

西園寺が目をハートにしながらそう言うと、宮桜に化けているタヌ助が小さく頷いた。

「それでは、そろそろ行きます。

西園寺さんと、またお会いできる日を、楽しみしています。」

「はい、わたくしもですわ。」

宮桜に化けているタヌ助は、優しく西園寺の手を離すと、軽くウィンクして、軽快に階段を下りて行った。

それを見て、アヤはその場にへたり込んでしまった。


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