3

参観は、その日の3時間目に、行われる事になっていた。

2時間目の終わり頃になると、チラホラと保護者の姿が見えだした。

平日と言う事もあり、保護者の殆どは、児童の母親だった。

時々、母親が子どもと、小さく手を振り合ったりしていた。

アヤも、両親が来ていないと解っていても、つい後ろを見たりした。

それを見て、タヌ助は、アヤが少し可哀相に思えた。


3時間目は、班に分かれて、地球環境について考える授業だった。

担任の目黒先生の指示が出ると、児童たちは、ワイワイと言いながら、机を動かし始めた。

その時、タヌ助は、手提げ袋からコッソリ抜け出すと、上手く児童や保護者の足元をすり抜け、教室の外へ出た。

タヌ助は周りに誰も居ない事を確認すると、飛び上がり後ろにクルリと回った。

すると、白い煙が出て、タヌ助が人間に化けた。

「よし、これで完璧だ。

これなら、アヤさんも喜ぶぞ。」

タヌ助は、そう呟くと、教室に戻って行った。


「あっ、ゴメンなさい。

ちょっと失礼します。」

タヌ助がそう言いながら、教室に入ると、教室内の保護者がざわめき出した。

「えっ、あのイケメンさん、だれ?」

「あんな人居た?」

「誰のお父さんかしら?」

ザワザワとお母さん方の、色めき立った声が聞こえて来た。


アヤもその声に気付き、顔を上げて後ろを見た。

そこには、今朝TVで見た、アヤの推しであるアイドル、宮桜に化けたタヌ助が居たのだ。

もちろん、アヤは、その宮桜は、タヌ助が化けている姿だと、直ぐに気付いた。

宮桜に化けているタヌ助は、笑顔でアヤに手を振った。

お母さん方は、それを見逃さず、しっかりとアヤの顔を見た。

アヤは、あまりの衝撃で、開いた口が閉じれず、青い顔で、冷や汗を掻きながら、ジッとタヌ助が化けている宮桜を見つめた。


「せっ、先生。

トイレ行ってきます。」

アヤは、手を挙げるより早くそう言うと、立ち上がった。

「あっ、はい、どうぞ。」

目黒先生がそう言うと、アヤは、ツカツカと宮桜に化けているタヌ助に近づき、腕を掴むと、強く引っ張りながら教室を出て行った。

そして、少し離れた所にある階段を、下の方へと降りて行った。

その2人の後ろ姿を、ジッと見つめながら、お母さん方は、ヒソヒソと話しをしていた。


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