25話 シャディ ~Unruly~
一足速く屋敷の前にやってきた私に追いつくように、後からトラカイたちもやってきた。
「に、ニグレド様……お待たせいたしました」
トラカイは信じられないものでも――それこそ幽霊でも見るかのように
それは遅れてやってきた周りの騎士たちも同じで、鉄兜の中から恐ろしいものを見るように私を見つめていた。
思わず本気を出してしまったが、少々やりすぎたようだ。
「いえいえ、つい本気を出してしまいました」
「たしかに馬いらずですか……なんとも、さすがあのならず者たちを治めただけはありますな……」
私たちのやり取りを聞いて、騎士たちは狐に包まれたような顔ながらも、私についての冗談を言い合っていた。
「あの御仁、魔法使いかなんかか?」
「たしかに。あのじゃじゃ馬娘を思い出す……」
(じゃじゃ馬娘……?)
ただ騎士たちの会話の中で、気になる単語が聞こえてきた。
それもトラカイの言葉で意識を引っ張られる。
「さて、また主人に会ってもらいますが……今回は元々、山賊団討伐のために出立いたしました。ですから、主人もこんなに早く帰ってくるとは思っていないでしょう。出迎える用意ができていないと思いますので、少々お待ちしていただいてよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。少し外の庭を見ていてもいいですか?」
「はい……拙い庭師に任せていますので、あまり見栄えはよろしいとは言えませんが……」
トラカイは一礼して、幾名かの騎士を連れ立って屋敷の中へと入っていった。
「…………」
私はそれを見送って庭の噴水やよく整えられた植え込みを鑑賞するつもりだった。
宇宙港の植え込みよりも、瑞々しい。昼間の陽光を浴びて、青々しい葉がその光を反射していた。
これだけキレイに植え込みの手入れができるということは、鋭利な金属製の刃物があるということだ。
それに噴水があるということは、大量の水があるか、私がやったように山かどこかから引かれているということになる。
最初にジプサム村を覗いたときよりも、この惑星、技術力はありそうだ。
少なくとも初期の物理学や建築学の知識は間違いなくある。
<マスター……>
「なんだ、ジル?」
私が庭園に集中していると相棒の囁く声が聞こえた。
<警戒してくださいにゃ>
(どうした、敵か?)
<わかりませんが、不審な気配がありますにゃ……>
(気配だと……?)
冗談で言ったつもりだったが、ライオライト伯の居城でか。
周りの残った騎士たちは整列したまま、待機していた。やつらではない。
では、いったい誰が――。
「……ッ!」
――ヒュンッ!
足元にするどい矢が突き刺さった。
「ふん、私の矢を避けるとはね……!」
「いや外してくれた……外してくれたのでしょう?」
私は声をかけてきた女にそう返した。
思わずいつもの調子で返そうとしたが、後ろに騎士たちがいるのを思い出して、丁寧な口調で言い直した。
相手の女は、私が立っている庭に向かって、屋敷のほうから付き人をひとり連れてやってきた。
服装は派手なドレスに軽装の武具をつけた奇天烈な、格好だった。
どこか見覚えのあるくすんだブロンドを頭の後ろで束ねた、変な女だ。
まるで古代の闘技場に出てくる人気の女戦士みたいな。
「アンタね、ニグレドというのは……知ってるわよ、あたし。」
「これはこれは。私の名前知っているということは……このライオライト伯の関係者でしょうか」
「ええ、知っているわ、ニグレド・ゴールドフィールド! あなた、あたしと決闘しなさい!」
おかしい。
会話になっていない。
(なんだ、翻訳機が壊れたか?)
<翻訳機は正常に機能してますにゃ……どっちかというと壊れてるのは、あの女の頭ですにゃ>
女は付き人の男にクロスボウらしき武器を預けて、腰から細身の剣を抜いて構えた。
私への
「決闘? いや、いきなり決闘と言われましても……」
「さあ、どうしたの? あたしが怖いのかしら?」
駄目だ。会話ができんぞ、この女。
そんなふうに私たちが不一致の会話をしていると、整列していた騎士たちがざわつく。
「おいおい、出てきたぜ……じゃじゃ馬娘がよ」
「マジかよ、暴君が出てきた。さすがに今日は大人しくしといてくれ……」
騎士たちはあきれたように、疲れたように、そんな愚痴を漏らした。
「けどよ、見たくないか? あの風みたいな客人が、疾風のシャディ様とどれだけやれるのか?」
「おいおい、滅多なこと言うなよ……!」
「どうしたの。そいつらを見ても無駄よ、お父様の騎士たちはこの決闘に加勢しないわよ!」
お父様?
「はあ……受けて立つのは構いませんが……」
「……! へえ、いい度胸ね。あたしが怖くないの?」
「まあ……ある意味で。それよりも名前を教えてもらえませんか……あなたを倒して、この家の主に報告するためにも」
相手の女、一瞬で顔色が変わった。
どうやら顔を真っ赤にして、怒ったようだ。
けれど少女は咳払いして、少し冷静さを取り戻すと、私に向かって宣言してきた。
「へえ。舐めたわね、あたしのこと舐めたわね、アンタ! あたしの名前はシャディ・ライオライト! ライオライト伯家が次女……疾風のシャディよ!」
女は大型のネコ科獣のような笑みを見せて、私にシャキンと細身の剣を掲げてきた。
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