24話 露見 ~Wind~

「…………」

「…………」


――ラッ、パカラッ!


 私は周りの騎士たちが乗る馬の駆歩に、合わせて軽くジョギングしながら着いて行った。


 おかしい。


「…………」


 そのことには周りの騎士たちもそのことに気づいているようだったし、一番前を走るトラカイも不思議そうに馬の上から振り返って私の顔を見ていた。


「あの、ニグレド様……お疲れではありませんか?」

「む? ああ、いや……疲れてないですよ」


 私は呆けたようなトラカイにたずねられたが、こちらも似たような感覚で答えを返した。

 お互いの頭の上に疑問符がついて回った。


 明らかに、おかしい。


 村を出てすでに十分ほど。その間、馬の脚に合わせて私は走っている。

 なのに、全然疲れていない。息切れすらしてない。


 もちろん最初、私が歩いて行こうとしたので、トラカイをはじめ周りの騎士たちも馬を歩かせていた。

 それを軽く走るようにうながしたのは私だった。


 ずっと以前から疑問に思っていたことを、この際だから試してみようと思ったのだ。


 最初は着いてこれるのか疑問に思っていた騎士たちも、ずっと馬の足に徒歩で着いてくる私に空寒いものを覚えているようだ。


(おい、ジル。おかしいぞ……なんだこれは? 私は超人になったのか?)

<まあ……ある意味近いですにゃあ……>

(なんだと……?)


 私は冗談交じりに、答えを期待せずに相棒に問いかけると、意外なことに答えが返ってきた。


 この惑星に降り立った時から少し違和感は感じていた。一日中運動しても、ほとんど体力を消費しない。

 あのビフトという猛獣とはじめて力比べしたとき。ほかにもこの前の山賊の拠点で、巨漢の巨大なメイスを片手で払ったことなど、思い返せば切りがない。


(いったい、この身体能力の向上はなにが理由だ?)

<マスターの身体能力が急激に向上したわけではにゃいですにゃ>

(だが、説明がつかないぞ)

<むしろ周りが弱いんですにゃ>

(は?)


 相棒の分析結果はこうだった。


<そもそもこの惑星の組成を調べたときに気がつくべきでしたにゃ……この惑星、銀河の標準重力に比べて軽いですにゃ>

(重力が……?)

<そうですにゃ……だいたい基準値に比べて、0.7くらいですにゃ。それに対して、マスターがいつも艦内トレーニングに使っているのは3G環境……基準値の三倍ですにゃ>

(…………)

<この軽い重力環境下で育った生物や人間に対して、マスターは約四倍以上の加圧まで耐えられると言ってもいいですにゃ。言い方を変えれば、四倍の筋力を持っていますにゃ……常に飛行機空間機の急降下にさらされても平然としているみたいにゃものですにゃ>

(つまり、それは……)

<ひと言で言えば、この惑星の生物にとってマスターは生身で化け物に近いですにゃ>


 なんと。どおりで。

 この惑星についてから、疲れもしなければ、まるで神話に出てくる英雄のような力を発揮できるわけだ。


 ならばもうひとつ、試してみようか。


「すみません、トラカイ殿……全力で馬を走らせてもらっていいですか?」

「はあ!?」


 驚きの声は騎士たちからもあがった。


「いえ、道はひとつですから迷わないでしょうが……しかし護衛もなしにこの林を抜けるのは……」

「ビフトも山賊ももう出ませんよ?」

「…………」


 トラカイは少し黙ると、騎士たちに号令を下した。


「全速前進!」

「……! はっ!」


 トラカイの命令を聞いて騎士たちは手綱を握りしめた。

 彼自身も私の力をはかりたいという意図があったのだろう。

 

 だから私は全力であまり整備されていない林道を走り抜けた。


「な……っ!」


 私は風になっていた。


 全力で走りだした馬の尻を追い越し、追い越し。ついには全速力で走る先頭のトラカイの馬さえも追い越した。


「に、ニグレド様ぁーっ……!」


 はるか後方でトラカイの叫ぶ声や、馬たちのいななきが聞こえてきたが私はバックパックを背負ったまま、林道を風になって駆け続けた。


「気持ちいい……気持ちいいぞ、ジル! ふはは……!」

<ああ、そりゃようござんしたにゃ……わたしには肉体がないから、その感覚はよくわかりませんにゃ>

「デブリのない宇宙空間を走るようなものだ」

<なるほど……めっちゃ気持ちよさそうですにゃ……>


 私はトラカイたち馬を置いて、林道を走り続けた。

 しかしその時間はほとんど一瞬で終わってしまった。


「ははは……ははっ、は……」


 なぜなら私の身体は目的地についてしまったからだ。


 もうすでに目の前にはライオライト伯の屋敷の門がそびえたっていた。

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