23話 肥料 ~Detonator~

「ニグレド……! ニグレドだ!」


 翌日、村のはずれから、久しぶりに村に戻ると村の子供たちは私の周りにいち早く集まってきた。


 連日、セレナの山賊たちの開拓指導を手伝っていたので村のほうには戻れていなかった。

 それもだいぶ順調に進んでいるので、私が目を離しても大丈夫だろう。


「どうだ、リンは集まっているか?」

「うん! ほら、この前使っちゃったけど……それから十本は溜めたよ!」

「うむ、十分だな……返してもらっていいか?」

「うん」


 私は子供たちから合成水筒とアタッチメントを受け取る。


<マスター、こんなに大量のリンをにゃにに使うんですかにゃ?>

「畑にく」

<畑に?>


 私は子供たちに別れを告げて、合成水筒を起動させる。

 そして周辺の空気中から『窒素』だけを抽出させるように設定する。


「リン、窒素そしてカリウム……みっつ合わせて簡易の肥料の完成だ」


◇ ◆ ◇


「頭! 頭、それはなにを撒いてるんです?」

「魔法の水だ……それよりかしらはやめろ……」

「へえ。そう言われましても、じゃあなんとお呼びすりゃ?」

「むう……そうだな、では……」


 私が畑で話していると、後ろからウマの足音に混じって驚愕の声が聞こえてきた。


「に、ニグレド様……これはどういうことですかな!?」

「む?」


 振り向くと、そこには何頭もの馬とそれにまたがる重武装の騎士たち。

 そしてその中央にはライオライト伯家の執事であるトラカイがいた。


 トラカイは相変わらず黒い執事服で、馬にまたがっているのがシュールだったが、彼の焦った表情を見てそちらのほうが気になった。


「ニグレド様……こ、この者たちは、いったい……」

「あ! か、頭……こいつらは伯爵家の者ですよ、どうします!?」


 なんだ?

 トラカイをはじめ、彼が連れてきた騎士たちは元山賊を見て武器を構えているし、私の後ろではその元山賊たちはその騎士たちに向かって農具を構えている。

 一色触発の自体だ。


「ちょっと待て。話を勝手に進めるな……どういうことだ?」

「それはこちらの言葉でございます! いま頭と言われていましたが、ニグレド様こちらの山賊どもとどのような関係ですか!」

「山賊? いや、彼らは私の部下ですが?」


 私は詰問されたが、意味がわからなかったのでトラカイにそう素直につたえた。


「は?」


 トラカイは面食らったように、馬から飛び降り、後ろの騎士たちと相談しはじめた。


「ど、どうしたんでしょう? おれたち、あの騎士と戦わないといけないんすかね……」

「落ち着け……私がそうはさせん」


 相談が終わったのかトラカイはこちらにやってきて口を開いた。


「ニグレド様……私どもは馬車の御者から村がグラインダー山賊団の襲撃を受けたと聞いて、急ぎ戦力を整えて参上した次第にございます……」

「ああ……そのグラインダー山賊団でしたっけ? もうこちらで処理しておいたので、問題ないですよ」

「は? しょ、処理とは?」

「私が乗り込んで、壊滅させました」


 騎士たちがざわつく。


「壊滅……!? あの、数年間我が領地を混乱に陥れた、あのグラインダーを倒したのですか!」

「おそらくは。ついでに、幹部も殺しておきましたのでご安心を」

「あの止まらぬブルと千人殺しのシャーブを……つ、ついでに!?」


<幹部のふたつ名がダサすぎますにゃ~>


 相棒のツッコミを無視して、後ろの男たちを指さした。


「だから、いま後ろの元山賊も私の命令を従順に聞く小作人です。文句はないでしょう?」

「そ、そんな……」


(おい、ジル……やつらそんなに強かったか?)

<マスターが不意打ち気味にやったから、ひょっとしたら実力が出せてなかっただけかもしれませんにゃ>

(だったら弱かったんだな。不意打ちだろうがなんだろうが、反撃できん時点で小物だ)


「に、ニグレド様! いち早くわたくしどもと一緒に、主人の下へ……ライオライト様の下へとついてきてください!」


 トラカイは髭に唾を飛ばしながら、私に申し出た。


「すみませんが……いま私も忙しいので……」


 トラカイは後ろの騎士に手で合図して、私の首元に剣を掲げさせた。


「これはどういうことですかな、トラカイ殿?」

「悪いですが、どうかここは聞き分けをニグレド様……」

「……!」

「貴様ら、やめておけ」


 私は後ろでトラカイたちに農具で挑みかかろうとする男たちを止めた。


「わかりました、トラカイ殿……私はしばらく村を空ける。食料はあと数日はもつはずだ。決して村側に危害を加えるな」

「へ、へい!」


 男たちにそれだけ命じて私はトラカイに着いていくことにした。

 騎士のひとりが馬を降りて、代わりに私に馬を渡してこようとしたが乗馬の経験がないと断った。


 結局、馬について行く形で歩いていくことになった。


 そうだ。忘れていた。

 最後に私は、まだ耕作を続ける男たちを振り返って、別れ際にひと言だけ告げた。


「それと貴様ら……今後、私のことは、船長キャプテンと呼べ!」

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