21話 山賊VS宇宙海賊 ~Result~

「くくっ、よくもやってくれたな、炭商人……」


 歯の抜けた男が私から奪ったレーザーブレードのグリップを握りながら、祭壇の下で勝ち誇った顔で言う。


<まーだマスターの正体を勘違いしてるんですかにゃ? この惑星の炭商人はどんだけ強いんですかにゃ……>


 相棒がいつものように呆れた声をあげるが、私はそれよりもこれから起こるであろうことが楽しみで仕方ない。


「だが、これで終わりだ……くくく、出ろ! ブリガンテス!」


 男は私が適当に口にした剣の名前を呼びながら、グリップを縦に振った。


 しかしレーザーブレードは出現しなかった。

 男は我が目を疑うような仕草で、何度も剣を振った。


「く、くそ! なんで出やがらねえええ! 出ろ、出ろ……出ろおおおっ、ひ、光の剣!」


 男が光の刃を出そうと必死になる中、私は祭壇から飛び降り、ゆっくりと男のところへと歩いて行った。

 私との距離が一歩一歩近づくごとに、男の顔からは血の気が失せ、さらにグリップを振り速度が早くなる。


「あ、あああああ……! 助け、ひっ……ひいいぃぃっ! 出ろ、出て……なんで、どうして!? ぶ、ぶりがんてすうううぅぅ! 出ろ、出ろ、出ろおおおっ!」


 ぶんぶん振るがグリップから光の刃が現れる気配は微塵もなかった。

 周りの男たちも怯えて、私を遠巻きから見守っているだけだ。

 私とグリップを拾った歯抜け男との接触を邪魔する者は誰もいなかった。


 まるで赤い絨毯でもしいたように、男と私の間には一本の通路ができあがっていた。


「貴様か……私のグリップを拾ってくれたのは……」

「は、ひ……? あ、あああ……」


 私は男の手からグリップをゆっくりと奪った。

 男の手には力がなく、すんなりとグリップは私の手元に帰ってきた。

 そのグリップの端を男の顎に押し当てて、私はにっこりと笑った。


「ありがとう。お礼にいいことを教えてやろう」

「は、はひ?」

「この剣は、こうやって使う」


――ブウウゥゥウンッ!


「ひぎゃっ……!?」


 グリップの先から突き出したレーザーブレードに頭を刺し貫かれて、歯抜け男は絶命した。


「ちなみに……この偽剣ブリガンテスは契約者である私にしか扱えない。もし所有者でない者が使おうとすると、このように災いが降りかかるであろう!」


 私はその場の全員に聞こえるように高らかに宣言しながら、いましがた殺した男の死体を床に放った。


「ひっ、ひいいぃぃぃ!」


 山賊たちは戦意を失ったようにそれぞれの手から得物を次々に落とした。


<よく言いますにゃ……ただの使用者認証のロックがかかっていただけですにゃ>


 当然グリップのスイッチに気づいても、認証されていない人間には扱えないようになっている。


 だがこいつら山賊にはそんな原理はわからない。

 本当に、そういう儀式があり、契約者である私しか扱えないと思っているのだろう。


「これで効果的に恐怖は与えられた」

<皆殺しですにゃ?>

「いいや、殺すだけならブラスター巣ごと滅却している……わざわざ潜入する必要はなかった」

<……?>

「そもそもなぜこいつらを挑発したと思う? 見ろ、あとに残ったのは臆病なやつらのみだ」


 私は広間を見渡した。

 そこには誰ひとり武器を握らずに、頭を抱えて、震えている男たちだけだった。中には失禁しているやつもいる。


<全然わかりませんにゃ……>

「ジル、貴様は本当に操艦以外は役に立たんな」

<にゃんですとぉ!?>

「私は農業をしたいのだ」

<マスター、さっきから話の前後が破綻してますにゃ……>

「農業に必要なものがわかるか? 人手だ」


◆ ◇ ◆


「レド! きっと助けに来てくれると思ってました!」

「うおっ……」


 私はセレナの枷を解いてやると、彼女は私にぎゅっと抱き着いてきた。


「おい、セレナ……ちょっと離れてくれ」

「え……? きゃっ!?」


 セレナはいまだに薄着で、こちらに柔らかい部分が押しつけられて落ち着かない。


「す、すみません……私嬉しくってつい……やっぱりレドは勇者様だからっ」

「外でそれを言うなと……」

「へへ、あ、あの! 女を全部連れてきました!」


 山賊のひとりが私に媚びるように手もみして、報告してきた。


 私は残った山賊たちを集めて、この人員をそっくりそのままいただくことにした。

 この洞窟に住む山賊ほとんどを前にあそこまでしたのだ、いまこの場で私に逆らおうというやつはいない。外で見張りをやっていた連中にも噂は届いているのだろう。


「へへ……しっかりと調教してますから、兄貴の言いなりですぜ?」

「よし、そうか……」


 私はその山賊の鼻っ面に拳を浴びせた。


「ぐえっ!? 痛たた…な、なにするんです……」

「こいつらはいまから貴様らと同じ立場だ」

「はへ?」

「聞こえなかったのか?」


 私は腰からまたレーザーブレードを取り出して、刃を顕現しながら言ってやる。


「ひっ!」

「こいつらはもう貴様らの所有物ではない。いまから私の所有物だ。そして貴様ら元山賊も私の所有物だ……同じ所有物同士、お互い命令はできん。わかるな?」

「は、はいいぃ!」


 鼻先にレーザーブレードで指し示すだけで山賊は首をすくめて固まった。


「なにをしている……わかったら、仲間全員に知らせろ! その後、誰かひとりでもこの禁を破ったら連帯責任で貴様らを皆殺しにする!」

「ひっ、ひいいい!」


 山賊は洞窟で作業する仲間にこのことを伝えるため、なにより私のそばから一刻も早く離れるために立ち上がって駆けていった。

 あの様子じゃ、今後もきめ細かく教育しないといけないな。


「レド……あの、彼女たちをどうするつもりなんですか?」


 私がそんな心配をしていると、セレナが別の心配をしてきた。


「ジプサムの村へ連れていく。私が身の安全は保障しよう」

「まあっ……」


 それを聞いてセレナの顔が明るく花が咲いたようになる。

 連れてこられた女たちはうつむいて私の言葉が理解できなかったのか、微動だにしなかった。

 それとも疲れやつれ、表情筋すら動かす気力すらないのかもしれない。


 いや、長い虜囚生活で、そもそも喜怒哀楽など遠い昔に捨て去ったのかもしれんが。


「それからな、セレナ……」

「はいはい、なんですか!」

「ついでに、あの山賊どもも村につれていく」

「え……」


 満開の花弁は、私がおこした風で一瞬のうちに散ってしまった。

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