13話 招待 ~Old man~
「なんだなんだ?」
「またぞろ、あの旅の方が子供たちを使って、なにかやっているらしい……」
「村長、子供たちが……それに客人がなんかまた、村の外で作ってますが……」
「おお、大丈夫だ。わかっている……ニグレド殿ー、これはまた何の騒ぎですかな?」
私は村の入り口に集まって驚き、噂する村人たちに近づいて行った。
そして村長に大仰に一礼した。
「これはこれは、村長……子供たちをまた数日、借りて申し訳ありません」
「そ、それはいいのだが……ニグレド殿、今回はまたいったいなにをやっとるんだ?」
「いえ、村の井戸は生活用水として利用するならいいと思うんですが……飲み水としてはあまり適してないようですから……それに村の者に聞いたところ、だいぶ日に利用できる水量も年々少なくなっている様子」
「は、はあ……あれはこの村が出来たころより使っている、古い井戸ですからな。しかし、セレナのように村人全員が毎朝川まで汲みに行くわけにも……」
ジプサムは困ったように頭をかいた。
それに対して用意していた言葉で答える。
「ええ。ですから、『川』を汲んできました」
「は? 川を……?」
「ニグレドさん、それって『川の水』じゃねえのかい……?」
「ええ、川をですよ」
村長に続き、村の大人も私の言葉に首をかしげていた。
私は笑顔を浮かべて、後ろを――村の外を振り返った。
「おい、早く地面掘ってくれって……水道管埋めらんねえだろ?」
「待てって……お前、水こぼれてんぞ!」
「は? 別に水なんて後から後から、無限に流れてくんだから……」
「そうじゃなくて地面が緩くなって、穴掘ったところに泥流れ込んでくるだろうが!」
子供たちは村に続く坂道で、揉めながらも、自分たちの加工した木製の水道管を敷設していた。
「はは……少々
◇ ◆ ◇
「いやあ……こりゃあ、すごいねえ」
「ええ、ええ……ニグレドさんだっけ? あの旅の方が子供たちと作ったとか……」
「これ、山の川の水なんでしょ?」
「はあ。どうやってるのか、あたしたちにはさっぱりだねえ……」
村の壮年の女性たちはそれぞれ家の桶をもってきて、私が子供たちに引かせた上水道から出てくる水を溜めていた。
この山から引いた上水道のほとんどは、水道管を含めて子供たちに加工させた木材なのだが、垂れ流しでは使いずらいので、蛇口だけは巡洋艦(ワイバーン)に一度戻って艦内の機械で軽く工作した金属製だ。
まあこれに関しては旅の途中で手に入れたものだと適当に説明しておいた。
「ああ、話をしていたらニグレドさんじゃないかい! ありがとうねえ……あの井戸だと畑に使える水が足りなくって大変だったのよー」
「そうよねー、あの井戸すぐ枯れちゃうんだから……なのに村の男たちったら、面倒くさいもんだから新しい井戸を掘る気もないし……」
「いえいえ、耕作地が増えるのはいいことです……」
そう言って私はその場から離れようと一歩を踏み出した。
<にゃふっ。おばさんたちの井戸端会議に巻き込まれると大変ですもんにゃ……にゃふふ>
「なにを笑っている、ジル……」
「おおい、ニグレドー!」
相棒とひそひそ話をしていると、元気な少年がやってきた。
少年は両手に重そうな桶を抱いていた。
「へへっ、言われたとおり山のほうで土を掘ってきたぜ!」
「やるじゃないか。どれどれ……」
私は少年の持ってきた桶の中を確かめた。命じたとおり、山の土で満たされているようだ。
「ほかのやつらもいま掘ってるから、すぐに集まると思うぜ!」
「ああ、いいぞ」
「なにやってんだよ、それ……?」
私は背中のバックパックから取り出した合成水筒の口を開いた。
そこへ桶の中の土を詰めていく。
「また魔法を見せてやろう。ほかのやつらには内緒だぞ?」
「……!?」
少年の顔が輝く。
私は合成水筒のパネルボタンを押して、土から特定の化学物質だけを抽出するように操作した。
合成水筒は素早く指定した物質だけを抽出すると、残りの不要な土をすべて吐き出した。
<マスター、合成水筒でにゃにやってるにゃ?>
「簡単な化学実験だ」
私はそう言いながら、船から持ってきたアタッチメントを合成水筒に取り付け、中の化学物質を合成アルミの小ケースに移す。
ピーと完了の音が鳴って、手のひらサイズの金属の小瓶に中身が入ったことを確認した。
「よし、ついてこい。ここでは大人たちに見つかるからな」
「……!」
◇ ◆ ◇
「わああ! すげ……すっげ! 魔法の煙だ!」
私が村から離れた場所で、先ほど合成水筒の中身を移した金属筒を投げる。
筒は投げる寸前にスイッチを押して、中身が噴射されるように設定している。
すると地面にころころと転がった筒からは、内部の物質が外へと漏れ出し、すぐに白煙化した。
<マスター、これは……いったい山の土から、にゃにを取り出したんですかにゃ?>
「リンだ」
<リン?>
化学物質であるリンは空気中で自然発火しやすい上、空気と反応すると大量の白煙を生み出す。
「いいか? こいつをお前らに貸してやる……」
「えっ!? い、いいのか?」
「いまから使い方を教えるから、正確に覚えてほかのやつらにも教えてやれ」
「う、うん……!」
少年は首を何度も縦に振って、私の説明を一字一句聞き逃さないように聞いていた。
「ほら、合成水筒とリンを入れる保管用の筒だ。先ほども言ったが、空気に触れると大量の煙を発生させるからな?」
「うん、この筒とこっちの魔法の瓶を繋いで漏らさないようにすればいいんだよね……?」
少年はすでに見たこともないはずの機械の簡単な操作を覚えていた。
大人のように既成概念に捕らわれないからだろうか、やはり子供は飲みこみが早い。
<しかしいいんですかにゃ? 機械の操作方法なんて覚えさせて……>
「土からリンの抽出方法しか教えてない。悪用はできんだろう。それにリンはこの先大量に必要になるからな……子供たちに暇なときにでも集めてもらわないと……ん?」
後ろから気配を感じた瞬間、背中から声をかけられた。
「色々お作りなさる……」
「何者だ?」
あの発煙筒を、見られたか。
急に背中から声をかけられ、私は振り向いた。
そこには見知らぬ、老紳士が立っていた。
「貴方ですか……村にあのようなものを作ったのは?」
「あのようなもの?」
私はとぼける気でいたが、次のひと言に思わず反応してしまった。
「あれは……まるで王都のよう水道のようですな」
「なに……?」
聞き捨てならない言葉だ。
王都に、水道だと?
老紳士は白髪ではあるが、歳を食っているとは思えない大柄の偉丈夫だった。
村ではまったく見たことのない男だ。
「誰だ……貴様は」
バックパックからレーザーソードの柄を抜き出し、私はいつでも対処できるように重心を低く構える。
相手の体格からしても、村人とは違う正装からしてもただの爺さんではなさそうだ。
「失礼。わたくしの名前はトラカイ……ライオライト伯の執事で、トラカイと申します」
「ほう、ライオライト伯の……」
<マスター、ライオライト伯ってたしかこの周辺を治める領主の、ですにゃ……>
「ああ……」
領主であると同時に、先日のビフトの村への大襲来を招いた原因を作った張本人だ。
「そのライオライト伯の執事が、村になんの用だ?」
「正確には、村に用はありません」
「なに?」
老執事は立ち上がり――立ち上がると、思ったよりも高身長で威圧感がある――丁寧にお辞儀しながら、伝えてきた。
「ニグレド様……我が領主は貴方様を、屋敷に招けとのお達しです」
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