10話 襲来 ~Booby trap~

「来るかなあ……ビフト?」

「きっと、来るよ……だって、レドが来るって言うんだもん」

「だよね! ぼくたち、いっぱい準備したもんね!?」


 セレナと子供たちのどこか緊張感に欠ける、弾むような声が聞こえてくる。

 一方、村の入り口に集結した大人たちは手に思い思いの武器を握り、目をギラギラさせて不安に顔を曇らせていた。


 あれから四日が過ぎていた。

 現在、真昼間で太陽は空高く昇っている。

 いよいよ決戦の日だった。


「ジル……偵察機の映像はどうだ?」

<もう何度目ですかにゃ? 状況はさっきから、そうそう変わりませんにゃ……>

「いいから。AIだろう? 何度でも報告しろ」


 私は先日と同じように小型の偵察機を飛ばして、その映像情報を相棒とリンクさせていた。


<騎士たちは森の木々が邪魔する中、散開しつつも緩やかな隊列を作ってビフトを追い込んでいますにゃ。にゃ、問題のビフトですが……その騎士たちに追われるというよりは明確にこちらに向かって突進してきているようですにゃ>


 私は笑いながら言った。


「この村に餌の匂いでもするのか……」

<にゃにワロてますにゃ……>


 それとは関係なく、後ろのほうから村人たちのひそひそ話が聞こえてきた。


「おい……あの野郎が子供たち集めて作った罠とやら……使えると思うか?」

「あの、木の槍の柵のことか?」


 村人たちは村の入り口に張り巡らせた柵を指さして、あれやこれやと思案していた。


「まあ……ビフトが来たとき足止めにはなるんじゃないか?」

「あんなチャチな玩具を必死になって作って……あそこでふんぞり返ってるのか、アイツは……やっぱりオレたちは協力しなくてよかったな!」

「いや、それよりも俺は村の入り口にしかれた、あの青い絨毯のほうが気になるんだが……絶対に俺たちに踏むなって言ってたけど……」

「けっ……どうせはったりだろうぜ! どっから持ってきたか知らねえが、珍しい絨毯を自慢したかっただけだろうが……」


 村人たちは床にしかれ一辺5メートルの艦船応急補修被膜ブルーシートを指さして、いぶかしんでいた。


<だから……にゃにをワロてますにゃ……>


 相棒の呆れたような声が聞こえる。


「いや、思ったより子供たちが役に立ったなと思ってな……」

<しかしマスター……あんな原始的な罠よく思いつきましたにゃ>

「いや、思いついたんじゃない。知っていたのさ……歴史の資料ホロ・グラフィックで見たことがある……逆茂木さかもぎという」


 私は村の周りに配置した柵を眺めた。


 いわゆる逆茂木というやつで、非常に原始的な罠だ。その元となったのは村の木材で、それを子供たちに先っぽをとがらせるように加工させたものである。

 この罠というか防御柵は、木の棒、もしくは丸太の一方を尖らせた木の杭を、地面を少し掘り下げ村の外に向かって斜めに突きさしただけの簡素なものだ。


 それでも突進してくるビフトたちはこれらの木の杭が、身体に刺さるのを嫌がるだろう。

 村の大人たちがいうように多少の足止めにはなるはずだ。


「もう少し数が用意できれば、二重三重に囲いたかったんだが……」


 これら逆茂木の加工は比較的、手先の器用な子供たちに任せたがそれでも数日だと村の山側の入り口を一巡する程度が限界だった。


 だが、これは上出来といっていいだろう。


 そもそも山側からビフトが来るのが僥倖ぎょうこうだったのだ。

 村の北は平原に通じているようで、侵入角が広すぎる。

 対して南側の山側は、村の両脇に丘があり、村への進入角度はかなり限定される。

 たとえ丘の間から侵入して横に広がったにせよ、その広がったビフトへの防御はそれほど難しくはない。


<でも相手が都合よく、あの罠に突っ込んでくれるんですかにゃ?>

「いや。無理だろう」

<にゃにゃ!? じゃあにゃんのために、あんなものを苦労して作らせたんですかにゃ!>

「はは……はーっ、はっはっ……!」

<だからにゃにを高笑いしてるんですにゃ!?>


「き……来たっ……!?」


 村の誰かが言った。

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