第46話 彼女はどこへ

 構内で一番大きな校舎である六号館の近くにある、屋根付きのベンチに来ていた。


 ついさっきまでは晴れていたというのに、急に雲行きが怪しくなってきたから屋根は都合がいい。


 屋根の下を、四方ぐるりとベンチが設置されている中で、俺たちは話し合う。


 ここへ移動中にも、加嶋は何度も電話をかけたりメッセージを送ったりしたのだが、返事はなかった。石動がやっているSNSの類も、一切更新されていない状況らしい。


 加嶋に教えてもらって俺も確認すると、投稿の日にち的に、俺と別れて以降、一切の更新が途絶えていた。


 石動が失踪した原因は、俺にある気がしていた。

 俺との浮気により、加嶋を裏切ることになった。

 それが原因な気がしてならない。


 あの夜、どうして石動があんな行動に出たのか、俺は聞けずじまいだったから、石動の本心は知りようがなかった。


「……まず言っておきたいんだけど、俺はゴールデンウィーク中に、石動と会ってるんだ」


 俺は言った。

 これは隠していても仕方がないことだ。

 今はとにかく、石動の行き先を知るヒントを見つけたい。


「サークルで?」


 加嶋が訊ねる。


「……俺の家に来た」

「そうか」

「驚かないの?」

「お前らの距離感を考えると、ありえる気がしたから。小学校の時から、幼馴染で、仲が良かったことは、オレも蒼生から聞いてる」

「……石動の母さんが旅行で出かけて、石動は自炊も家事ができないから、加嶋もいないし一人でゴールデンウィークを乗り切るのは無理だからって俺を頼って――」


 俺は、石動と過ごしたゴールデンウィークのことを話した。

 もちろんというべきか、最後の夜のことだけは、口にする気になれなかったけれど。


 問題を増やして、目下のところ解決しなければいけない問題から遠ざかることを危惧したからだ。


「その間、ずっと蒼生は越塚の家に泊まってたってわけか?」


 うつむきながら、加嶋が言う。


「……そうだよ」


 俺は言った。

 もし加嶋から追及されたら、その時は答えるしかないと覚悟したくらいだ。


「……まあ、正直色々気にはなるところはあるけど、今はそれどころじゃないよな」


 加嶋は顔を上げた。


「石動の母さんには連絡した? 家にいるんじゃない?」

「いや、オレも電話したんだけど、家にはいないみたいなんだ。おばさんのあの様子だと、蒼生は母親にも退学のことは話してないっぽいな……」

「そっか。だったら……」


 俺は考える。

 俺の大学での交友関係は狭いにもほどがあるけれど、一人だけ、石動の行方を知っていそうな人物に心当たりがあった。


「先輩なら、もしかしたら」

「誰?」

「部室に戻ろう。うちの先輩なら、もしかしたら知ってるかもしれない」


 こんなことなら、先輩の連絡先を聞いておけばよかった。


「そうか、越塚を頼ってよかった」

「まだ喜ぶのは早いと思うけど……」

「ヒントが増えただけで充分だよ」


 ベンチから立ち上がった加嶋は、いくらか身軽になったように見えた。


 まだ何の確証もないというのに、嬉しそうにする加嶋を前にすると、こいつはひょっとしたら本当にいいヤツなのかもしれない、と思うと同時、ヒントになるかどうかすらわからないことでこれだけ感情を動かすくらい、石動を心配しているのだとわかってしまう。


 石動は……こんな彼氏がいながら、どうして破局する可能性が高いことを俺にしたんだ?

 幼馴染に対する疑問が深まりながらも、俺は加嶋と一緒に、サークル棟へ引き返すのだった。

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