第31話 ご近所付き合い その1
翌日。
石動がうちに泊まりにきて、3日目のことだ。
この日の昼、俺は近所の河川敷にいた。
周りには、ゴミ拾いに適した格好をして、その手の道具を持った人間が大勢いる。
みんな、うちのアパートがある町内会の人たちである。
この日俺は、町内会で企画された、河川敷の美化に協力させられていた。
この催しはあくまで自由参加で、俺も当初は参加する気なんてなかったのだが、うちのアパートの大家の命令で出動することになった。
俺の母親と大家は旧い知り合いで、アパートを本来の家賃よりも安く済ませてもらっているのは、こうして大家の要望を聞くこと込みだからだ。
せっかくの休日を潰された……とまでは考えていない。
どうせヒマだったし、それに、一人で参加する完全アウェイな状況ではないからだ。
「なんかこういうの、小学生の時によくやったよね!」
石動までくっついてきていた。
石動は町内会とは何の関係も無けれど、『面白そうだし、文斗が行くなら行く!』という理由でついてきてくれたのだった。そういう無邪気なところは、なんか可愛いな、と思わないでもない。
俺たちは、他の参加者と同じように、ゴミ袋とゴミ拾い用のトングを持っていた。
動きやすい格好、という指示がされていたので、俺は、運動用として唯一持っているジャージを着ている。一応有名スポーツメーカー製のものだが、おしゃれ用のモデルではなく、安価な野暮ったいシルエットのものだ。
「石動は楽しそうだな」
「懐かしくなっちゃって!」
石動は始まる前からやたらと楽しそうで、トングをカチカチ鳴らしている。
一方の石動は、俺が高校の時に使っていた学校ジャージを着ていた。
赤いカラーリングはいかにもな学校ジャージなのだが、石動は姿勢がいいせいか、強豪アスリートみたいな雰囲気が出ていて野暮ったく見えなかった。
この日の石動は、髪を後ろで結んでいた。ショートヘアだから、後頭部から房がちょこんと突き出たような感じになっているだけだけど。
「地域の活動云々とかで、こういう集まりによく駆り出されてたよなぁ」
すっかり忘れていたけれど、石動のおかげでなんとなく思い出してきた。
「うちと文斗のママも一緒だったよねー」
「今考えると、母子家庭なりの苦労もあったんだろう」
「かもね」
石動も同じ意見でいてくれたようで、しんみりとした表情をした。
俺と石動の母親は、この手の地域活動に熱心だった。
活動が終わったあとに疲れた顔をしていたあたり、好き好んで参加していたわけではなかったのだろう。地域活動に協力して、シングルマザーという『異物』扱いを避ける目的もあったに違いない。休日返上で参加していたわけだから、本当に大変だったのだろうな。
「親には悪いけど、帰りはファミレスで外食だったから、俺としては楽しみなイベントではあったかな」
「あったあった。まあでもあれ、ママが夜のご飯つくる労力カットしたいからだよね」
「だろうなぁ」
大人になった今考えると、子どもの頃の俺たちはとても呑気で気楽だった。
「せっかくだし、これ終わったらどこか近くのファミレス行こうよ。あの時みたいに」
石動の提案に、俺も賛成した。
昔を知っている石動といると、忘れかけていたことまで思い出させてくれて、自分で思っているよりずっと豊富な経験を経てきたことを気づかせてくれるんだよな。
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