第27話 ゲームショップ巡り その2
「そうだ。今日学校終わったらまた文斗の家行っていい?」
俺の顎先にロケット頭突きをする勢いで立ち上がった石動。
「えっ、どうして?」
脈絡がなさすぎて、思わず聞き返してしまう。
「放課後に友達の家行くのは普通でしょ?」
「まあ中学まではいつもそんな感じだったけど……」
中学時代の俺は帰宅部で、石動も頻繁に運動部に助っ人として駆り出されていたものの帰宅部だったから、放課後は俺か石動のどちらかの家にいることが多かった。
小学校時代はグループ単位で行動していた友達も、大半は部活動に入っていたから、たいてい俺たちは2人でいた。
「じゃあ今日も行くね。あと、もうすぐゴールデンウィークだし」
「まさか、ゴールデンウィークも来るつもりなの?」
「ダメなの? なんか都合悪い?」
「……いや、俺はいいけど」
石動は俺以外とも交友があるわけで、部室に顔を出すくらいしか予定がなさそうな俺と一緒にいるメリットもないと思うのだが。
「……加嶋と過ごすんじゃないの?」
俺は、確認の意味でもそう訊ねた。
「ああ、賢くんはね、サークルあるから」
「法律研究サークルとフットサル? それがどうかしたの?」
「なんで知ってるの? まあいいけど。賢くん、ゴールデンウィーク中は、法律研究のサークルの合宿行くっていうから」
そうか、合宿か。
うちの大学では、ゴールデンウィークの間に挟まっている平日はまとめて休日にしてしまうシステムになっているから、大型連休を利用して、新入生と親睦を深める合宿を行うサークルも多々あると聞いたことがある。
「あれ? 石動も付いていくんじゃないの?」
「私、そっちには入ってないからさぁ」
なるほど。石動が掛け持ちをしているのは、フットサルサークルの方だったのか。文化系と運動系の掛け持ちなんて、石動らしいといえばらしい。
「だからヒマなんだよー」
石動は、ねだるように俺の袖をぐいぐい引っ張ってくる。
「文斗~。遊ぼ遊ぼ。いいじゃん友達でしょ?」
もはや石動の態度は駄々っ子のようだった。
断る選択肢も、確かにあったはずだった。
けれど、俺はゴールデンウィーク中はヒマを持て余している身分だ。あいにく、『現代カルチャー研究会』に、合宿などという楽しげなイベントは企画されていない。
それに加えて、ここで断るのは、俺が石動蒼生という幼馴染の友達を、『異性』という理由で警戒して突き放すことになってしまう気がした。
俺にとって、石動は大事な友達なんだ。
妙な雑念に惑わされようが、それはあくまで俺の都合であって、石動は関係ない。
唯一の幼馴染且つ親友を、そんなくだらない理由で突き放したくはなかった。
「いいよ。どうせ俺もヒマしてたところだから」
「よかった。決まりね」
ニコニコの石動は、俺の手を両手で包んでがっしりと握手をした。込められている力はそれなりに強いはずなのに柔らかく包まれているような感触があるのが不思議だ。
「せっかくだし、ゴールデンウィーク用のおかず、ここで買って行っちゃおうよ」
「言ってる意味はわかるけど、言い方よ」
「えー、なんか変なこと言ったかな?」
石動は微笑みを維持したまま、首を傾けてこちらを覗き込んでくる。
おかしい。
以前は、石動に顔を近づけられても何とも思わなかったのだが、今は視線をまっすぐ合わせていられない。
「言ってない言ってない。ほら、向こうのフロアまだ見てないから、そっちも探してから決めよう。面白そうなのはまだいっぱいあるから」
あまり深く追求するとかえってこちらがドツボにはまりそうだ。軽くあしらっておこう。
「2人でできるやつにしてね」
「石動、俺が一人でひたすらアクションゲーやってる時も『観てるだけで面白いから』って昔言ってなかった?」
ゲーム動画配信者とその視聴者みたいな構図だったが、俺は魅せプレイができるわけではないから石動も退屈だったろうに、特に嫌がっていたような記憶はない。
「あれはホラーだったから」
そうだ。石動はホラーが苦手なのだった。昔、一人プレイ用の有名ゾンビゲームを、操作をかわりばんこにする協力プレイでクリアしようとした時も、石動は頑なに固辞して俺にコントローラーを押し付けてきたのだった。
「まだ苦手だったのか」
「誰かにくっついてれば平気だけどー……」
なんとなく加嶋と一緒にゲームしている時の光景が頭をよぎって複雑な気分になる。
どうも俺は、どうしても石動と加嶋をセットで考えてしまうようだった。
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