第23話 幼馴染とボール遊び その3
誰かの忘れ物らしいボールは、持ち主が探しやすいようにベンチに置いておき、俺たちは改めて最寄り駅を目指していた。
それからまもなく、駅の姿が見えてくる。
うちの最寄駅は、小さな町の駅なこともあって、そう立派ではない。北口と南口を行き来するための通過点みたいな駅舎だった。
「じゃあ気をつけて帰りなよ」
改札の前で、俺は石動に声をかけた。
「心配してくれるの? ありがとう!」
春用のコートを羽織った石動がにっこり微笑んだ。
予想外なほどに嬉しそうにするものだから、俺の方が戸惑ってしまうというもの。
「いや、もう夜なんだし、それくらいのことは言うでしょ……」
俺は石動からどれだけ冷血漢扱いされているんだ?
「今日は楽しかったし、また文斗の家行ってもいい?」
もじもじしながら、石動が言う。
石動が、一人暮らしをしている俺のところにこれからも来る。
石動の人間関係的に、以前ほど気楽に行き来することはできなくなってしまったけれど……石動が大事な友達であることに変わりはない。
ここで石動を突っぱねるのも、違う気がした。
「いいけど、このままだと、俺の家が石動に乗っ取られそうな気がするなー」
「それならそれでよくない? 文斗だって、一人暮らし寂しくなってきてるんでしょ?」
石動が俺の腕をつんつんつついて、しれっと乗っ取り宣言をしてくる。
悔しいけれど、寂しくない、とは言い切れなかった。
自分の判断だけで全てをやれる反面、面倒なことだって自分でやらないといけないし、家の中で誰かと話すこともない。
まだ大学では石動以外の友達ができていないし、コミュニケーションがかなり制限されている状態だ。
元々ぼっちな環境には慣れているけれど、地元から離れて都会にいるだけに、寂しく感じる時は多々あった。
「その辺は否定しないけどさ。友達には……来てほしいし」
いっそ吐き出した方が楽になるような気がして、ポロッと言ってしまった。
ただし、石動に来てほしいと願うのは、あくまで『友達』として、だ。
「あっ、言ったね?」
俺の思い上がりでなければ、石動は嬉しそうにしているように見えた。
石動は俺とは違う。
俺みたいに上京したわけではないから、高校時代の友達とは、その気になればすぐ会える環境にある。
そんな思いがあったからこそ。
「私も、文斗ともっともっと一緒に遊びたいから。そう言ってくれると嬉しいんだ」
石動の言葉を、余計に嬉しく感じてしまった。
「文斗の家に置いてくれるなら、私にできることなら何でもするよ?」
瞳を輝かせる石動。
『何でも』という言葉尻だけを過剰に捉えて勘違いしてしまいそうだ。
石動は、あくまで『同性の友達』なのである。
「気持ちだけありがたく受け取っておくから、別に好きな時に来ていいよ」
俺は言った。
石動との付き合いで、俺が理想とするのは、あくまで中学時代以前のことだ。
大学生になろうとも、その延長戦をしたいというだけの話。
それ以上のものは、何も求めてはいないのである。
「そっか。じゃあ好きな時にいつでも文斗のところに行っちゃうね」
石動は満足そうに微笑んでくれた。
「ああ。ゲームとか漫画目当てでいつでも来い」
今の俺には、それくらいの距離感で充分なのだった。
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