第9話 レトロゲーム大会(参加者2名) その1
食事ができるほど体力も回復したし、電車がなくなる前に石動を帰らせるべきだったのだが、どうやら本人はまだ帰りたくないようだった。
「うわー、
俺が台所で洗い物をしていると、勝手に部屋を物色していた石動に、テレビ台にしている棚を開けられてしまった。
「あ、おい、勝手に開けるんじゃないよ」
さっきからやたらとカポカポ音がすると思ったら……。
「だってこれ、私たちが中学の時にやりまくったヤツだよね?」
ニコニコ顔の石動が引っ張り出したのは、ゲーム機だった。
それもかなり年代物のハードである。
90年代のゲーム機で、俺が小学生の時から実家にあった。
俺が買ったり、買ってもらったものではない。
リアルタイムでプレイしていないゲーム機が実家にあったのは、父親の所有物だったからである。
どうも俺の父親は、それなりにゲームをプレイする人種だったようで、住んでいたマンションだけではなく、このレトロなゲーム機も母親と俺に残していった。いや、勝手に置いていっただけなんだけどさ。
「いいだろ。俺は今もヒマを見つければそれでゲームするんだよ」
「でも、昔のゲームってリメイクとかリマスターとか出てるから、わざわざこっちでやることなくない?」
「当時のハードでやるから、いいんだ」
「文斗ってそういうところガンコだよね」
そう言うわりには、石動も懐かしそうにコントローラーを握って見つめている。
「……それ、まだ余裕で動くから、やるか?」
「やろう、やろう!」
思ったより乗り気な反応をする石動は、早速ソフトの物色に入った。
テレビ台の隣には、実家から持ってきたゲームソフトが入ったケースが並んでいた。これはあくまで一部であり、実家にはもっとある。父親が残していったソフトは数本だったのだが、あとで俺が中古ソフトを買い足していったのだ。
「どれがいいかな~」
横着な石動は、身を乗り出すような四つん這い状態になって、テレビ台に首を突っ込む。
位置的に、石動は俺に尻を突き出すような姿勢になってしまっている。
石動が履いているのは、ロングのスカートだから何ら煽情的ではないのだが、俺はついつい視線をそらしてしまう。スカート越しでも、思ったより丸みを帯びたかたちをしていることがわかってしまう。
そんなことはどうでもいい。石動は俺にとって、性の対象とかそういうのじゃない。でも尻は振らんでいいだろ。まだ酔いが残っているのか?
「あ、懐かしい。これでいいよね」
石動が、ソフトをゲーム機にセットする。鼻歌交じりなあたりご機嫌なようだった。
これで帰宅の時間が終電近くなるのは確定だろう。
誘った手前、ここでやっぱりナシと言うのも出来なそうだ。洗い物を片付けた俺は、諦めて石動の隣に座り、差し出された2Pコントローラーを握ることにする。古いゲーム機の付属コントローラーだから、もちろん有線である。
俺と石動は、隣り合って座るかたちで、テレビに映るゲーム画面を見つめている。
石動が選んだのは、現代では考えられないくらいポリゴンが粗いものの当時は最先端だったと思われる3D格ゲーだった。小学生時代によく2人でプレイしたゲームだ。石動もその時のことを覚えていてくれたのだろう。
俺は拳法家キャラを選んだのだが、石動は光る刀を持った化け物みたいなビジュアルのキャラを選んだ。石動って昔から色物を選びたがるんだよな。この手の格ゲーで美男美女キャラを使っているのを見たことがない。
格ゲーは最近とんとご無沙汰だったから、指先が操作を思い出すように、準備運動感覚でコントローラーのボタンを押していく。
もちろん超久々にプレイするであろう石動も、どこか操作がぎこちなかった。何か出したい技があるようなのだが、入力をミスってパンチを空振りさせたり、無意味にジャンプしたりを繰り返している。
「石動、まだゲームしてるの?」
コントローラーをカチカチさせながら、俺は訊ねる。
「するけど、ネット使ってボイスチャットしながらやるやつだよ」
「あー、最新のゲームしちゃうタイプね」
俺とは趣味が合わないな、と思いつつも、清楚風女子アナスタイルになっても未だにゲーマーなところには好感をもった。
「なにその言い方ー、文斗も今度A◯EXやろうよ、教えてあげるから」
「それ、なんかガンガン殺すヤツだろ? 俺には合わないんだよな、ああいうの」
別に、暴力的だからイカンと言いたいのではなく、俺には操作が複雑そうだから合わないと思っているだけだ。俺はもっとシンプルなゲームが好みなのである。
「はいはい、じゃあス◯ラならいいんでしょ?」
小僧が、って顔をされてしまう。
ていうかなんて顔してるんだよ、ギャグ漫画でしか成立しない表情になってるぞ。
「まあ、機会があったらいずれな」
最近のゲームには興味がわかないものの、石動からゲームに誘われたのは嬉しかった。
石動との縁が、今日限りで終わってしまうものではない気がしたからだ。
「……ていうか、加嶋とはそういうのしないの?」
体力ゲージが残り少なくなっていることを気にしながら、俺は言った。
「んー、しないかな」
石動もまたノックアウトされそうな状況である。
「賢くん、あんまりゲームとか興味ないんだよね。私が、銃でガンガン相手倒しまくるゲームするのすごく嫌がるし、付き合ってくれないんだよ」
「ああ。ぶつ森とか、そういうのの方が好きなのか?」
意外と可愛いもの好きなのかな、と思った。
「『女の子っぽくないから』って理由で嫌がるんスよー」
誰に言うでもなく呟くように答える石動の声音には、感情が乗っていなかった。ただひたすら、モニターしか見つめていない。
付き合っていたところで、どこかしら相手の不満なところが見つかるのは、そう不自然なことではないだろう。加嶋は見た目的に趣味がアウトドア志向っぽいし。ちょっとした愚痴を言いたくなることだってある。
「――って、そんなこと言われたって、文斗だって困っちゃうよね!」
空元気だな、とわかる声音の石動だったが、その瞬間俺にノックアウトされて負けてしまう。
「あーっ! 話してる間に殴ってくるなんてひどい!」
「さっきからずっと戦ってたでしょうが」
石動の抗議の声をすっと聞き流す。
ゲームに対する集中を失っていたのか、石動は俺の必勝パターンにハマり込んで為すすべなく攻撃されまくっていた。
「もう一回! もう一回やろ?」
「悪いけど、今の石動の鈍りっぷりを見てると俺に勝つのは無理だよ」
「ドヤ顔で煽ってくるけど、今のは私の本気じゃないから。次は本気出す」
なんだか負けず嫌いの小学生みたいなこと言い出したぞ。
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