第5話 新歓コンパ その1
これからゴールデンウィークに突入する、という直前。
この時期は、各サークルが、新入生を招いて飲み会をする新歓コンパが活発に行われるシーズンだった。
この新歓コンパは、そのサークルに入会するかどうかを見極める大事な場でもある。飲み会を通して、サークルの雰囲気を知っちゃおうというわけ。参加費用もサークルが肩代わりしてくれるらしい。
だから、この時期は新歓コンパをハシゴする学生も少なくないそうな。
俺にはそんなバイタリティはないから、できれば今日参加したこのサークルに入会を決めたいところだけれど、この日がサークルのメンツとガッツリ話す初めての日だ。どう転ぶかはわからない。
俺は、『現代サブカルチャー研究会』なるサークルの新歓コンパに参加していた。
なんだか堅苦しそうなサークル名だが、実態は、漫画やゲームを中心に語り合うオタクの会合らしい。大学側からの認可を得るために、わざと堅苦しいサークル名にしたそうだ。
実家にあった一昔前のゲーム機をキッカケにレトロゲームをプレイするようになったことからオタク道に走るようになった俺には合っているのでは、と思って参加を決めた。
以前、部室まで見学に行ったことがあって、雑多に物が溢れた部室で最新機器ではないゲームをプレイする先輩サークル員の姿を見た時ピンと来たのだった。
飲み会の会場は、都心にある居酒屋だった。
チェーン店なら別に大学の近くでいいじゃないかと新入生の俺は思うのだが、どうやらこの近辺がうちの大学の学生が飲み会のテリトリーにしている場所らしい。
店内には、俺たちと同じ大学の学生であろう人間がちらほら見える。
ついつい俺は、石動の姿を探してしまう。
最近すっかり大学の近辺にいると石動を意識してしまうようになった。
結局石動とは、フードコートで彼氏の加嶋を紹介されて以降、会っていない。
一応、あれ以降も俺はフードコートで昼食を摂っていたのだが、鉢合わせることはなかった。
だからといって、こちらから石動に会いに行こうとするのは恥ずかしいし、彼氏とのイチャラブを見せられるのも嫌なので、思い切った行動に出られないまま現在に至る。
初めて参加した飲み会は、概ね和やかに進んでいた。
俺は座敷席の隅に座っている。
無茶な飲酒をさせられるのでは? という勝手なイメージがあったのだが、幸い、アルコールを強要する先輩はいなかった。
俺はウーロン茶を注文することにして、今はちびちびと飲みながら周囲の状況を見ている。
先輩たちは酒を飲んでいるからか、饒舌な明るい雰囲気の場になっていた。俺もそんな雰囲気に巻き込まれて、隣席にいる気のいい先輩と会話できた。
「ちょっと俺、トイレ行ってきます」
俺はいい気分のまま、一旦席を立つ。
トイレの案内板を見つめながら歩いていた時だった。
男子トイレとは反対方向にある、女子トイレから突然人影が現れる。
L字路から突然現れたので、まるで粗いポリゴン時代のゾンビゲームめいた恐怖体験を味わってしまった。俺はレトロゲームファンだから、こういうのには詳しいんだ。
だが、人影は俺に噛みついて肉片を食い散らかすことなく、ぶつかる寸前で器用に立ち止まった。
人影の正体はもちろんゾンビではないのだが、俺はそいつの出現に驚かせられた。
だってそいつは、石動蒼生だったからだ。
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