てんき

 また、来てしまった。なんで来てしまったんだろう。もしかしたらいるんじゃないかって期待している自分がいた。なんで私はあの人にまた会いたいのだろう。公園を見回したけど誰もいる気配がしない。鈴虫が私をせかすように鳴いている気がした。

 せっかく公園に来たんだ。ブランコでも乗っていこう。ブランコを漕ぎながら左手の手の公園の入り口を見る。部活帰りの高校生、買い物帰りであろう自転車に乗った主婦。この人たちは必死に自分の向き合うべきものに向かい合っている。ブランコは漕がないからか、すぐにとまってしまう。あわただしく流れる渦を真上から見てる気がした。それとも私という異物は、単にはじき出されているだけかもしれないしれない。

 秋という季節のせいか真っ暗になってしまっている。ブランコの鎖を握りしめていた手はすっかり鉄臭い。さっきまでまばらにあった人の流れもすっかりなくなっている。そんな真夜中の公園を見てるとこの世界には私しかいないんじゃないかと思えてくる。もちろん明日の朝になれば、家に帰れば、そんな幻想なかったようになってしまう。

 「ねえ、きみ」

 おじさんだろうか?

 そんな期待をしながら、振り返る。おじさんではなかった。緑色の毛が襟についているコートを羽織った男がいた。笑っていた。なんでこの男は笑っているのだろうか。こういう時なのに思考は鮮明だった。男の手がじりじりと私に近づいてくる。私はこの男に襲われるのだろう。でも、いろんなことに疲れてしまった。ここで襲われたら何か変わるのかもしれない。唾をのむ。

 「ぱちん」

 男の手がパチンとはじかれる。見上げるとおじさんがいた。

 

 

 

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