1-7「これは、バレてしまったんだお、僕のフローラルな香りが」
月曜日になった。
今までは毎日が憂鬱で、隕石でも落ちて来て学校が無くならないかとか、学校へ行かなくてもよい妄想を繰り広げていた物なのだけれど、今、そんな気分は全くない。まぁ、何とかなるだろう……と言うように気楽に構えている。これがエクスプローラーズとして精神的に成長した証しなのかもしれないね。
2階の洗面所で顔を洗うと1階に下りてリビングに顔を出すと、母さんは体調が悪くないか聞いてきた。僕は笑って問題ないと返事をすると、美百合もリビングに下りてきた。
朝御飯を終えると高校と中学校への分かれ道まで美百合と一緒に登校した。丁度、分かれ道で美百合の同級生と会ったのでそこで別れた。同級生の子と美百合の会話が聞こえる。
「ねぇ、今の人誰? ちょっと格好良くない?」「え? おにぃだよ?」「え? 何言ってるの?」なんて聞こえる。たしかあの子、前に僕を見た時は、ゴミを見るような目で見ていなかったっけ? ……まぁ、あまり気にしないでおこう。
そのまま駅に向かうと電車に乗って学校の最寄り駅に向かった。目的地に着いたら改札口を出ないでトイレに向かい、個室でキモオタにジョブチェンジした。電車に乗る時はキモオタではない方が色々安全だ。キモオタの状態で電車に乗るとそこそこの確率でトラブルに巻き込まれる。
ヤンキーに絡まれる。
酔っ払いに絡まれる。
席に座れば幅を取り過ぎだろと睨まれる。
混んでいる時に僕の体に触れた相手が迷惑そうな顔をする。
一般人にも匂いについて文句を言われる。
……もっと色々あるけれど、朝からテンションを下げても仕方が無いから割愛しておこう。今はキモオタだけれど、いつもなら50mも歩くと汗をかき始めるのに、今のところ大丈夫だね。まぁ、キモオタ状態でもエクスプローラーズでレベルも上がっているから、体質が良い方向に改善されているのかもしれないね。
そんな事を考えていたらもう学校に着いた。校門で若い先生が生徒に挨拶をしている。
「おはようございますだお!」
僕が元気よく挨拶をすると、先生は少し驚きつつも挨拶を返してくれた。下駄箱で上履きを取ろうとすると、そこからキツい匂いがした。上履きに汚れたぞうきんが詰め込まれていた。僕は何事も無かったように【ピュリフィケーション】を使うと、洗いたてのようなぞうきんを抜き取って、これまた綺麗な上履きを床に置くと、それを履いた。今まで履いていた革靴は人目を確認した後【アイテムボックス】に収納する。
教室に入ると僕の机の上に花瓶が置いてあった。既に登校していた何人かのクラスメイトはニヤニヤ笑いながら僕を見ている。
「おはようだお」
僕の挨拶に一瞬戸惑った顔をしつつ、再びニヤニヤ笑い顔になっている。
「お~い、何だよ真田、お前死んだんじゃなかったのかよ?」
ニヤつきながら近づいてきた生徒、新藤は見た目は普通で、成績は上位の為、先生からは素行の良い生徒だと思われている奴だ。僕をいじめているグループの頭脳担当で、精神的にダメージが来るようないじめを仕掛けてくる。
「おはようだお、僕は元気なんだお」
「何だよ、お前、気持ち悪いしゃべり方してんな」
「気にしないでほしいお、それよりこの花瓶はどうしたんだお?」
新藤はよくぞ聞いてくれたというような得意げな顔をすると……
「先週、お前が死んだって学校に連絡があったから準備してやったんだよ。ほら、ありがとうございますって感謝しろよ」
周りのクラスメイトもクスクスと苦笑している。
「それはありがとうございますだお、でも心配掛けてごめんだお。僕は元気だお!」
「……っ!?」
予想外に早いレスポンスで、予想外に素直な感謝が返ってきた為、新藤は何も反応できなかったようだ。
「それにしても新藤君が僕の事をこんなに心配してくれたなんて嬉しいお、しかも花瓶に花まで用意してくれるなんて感激だお」
「なっ、何喜んでんだよ!?」
「一番近いフラワーショップでも30分かかるし、金額も2,000円くらい掛かってそうだお。僕のために時間とお金を使ってくれてありがとうだお!!」
僕の口はいつもよりもスラスラと、はっきりと言葉が出ていた。皆も「そうだよな、よく考えたらすごい手間掛けてるよな」とかザワついている。
「ちげーよ、時間も金も掛けてねーよ!!」
顔を真っ赤にしながら肩パンをしてくるが、全くよろけない僕を見て驚いた顔をする。
「これはこれは照れ隠しなんだお、新藤くんは奥ゆかしくて良い人なんだお」
今、クラスメイトから聞こえる笑い声は僕に対してではないようだ。
「うぃーっす、あん? 真田虫生きてんじゃねーよ!!」
クラスがシンとなる。いじめの中心人物の武藤と同じヤンキーの曽根だ。二人は学校のヤンキーグループに属している時代錯誤な奴らだ。主に肉体的ないじめをしてくる。
「武藤、なんか真田が朝からチョーシこいてるんだけど?」
新藤は助け船が来たとばかりに、武藤達の方へ歩いて行った。
「武藤君おはようだお! 新藤君が僕に花をプレゼントしてくれたんだお」
「あ? 何でそんな話になるんだよ……」
武藤も事前に新藤から話を聞いていたのか、想像と違った展開に戸惑っている。するとスッと武藤に近づいてきた生徒……綾乃が武藤に何か言っている。
綾乃は特に勉強も運動も得意では無く、喧嘩も強いわけではないのだけれども、汚い悪知恵が得意で、僕に対しての嫌がらせに一役買っている奴だ。
武藤はニヤつきながらこちらを見ると……
「あーくせぇ、なんか雑巾くせーぞ!! どこからだー、あー?」
僕はピンときた、上履きの雑巾は綾乃の仕業で、そのネタを武藤に提供したようだ。しかし新藤も綾乃も結構、手間暇掛けて準備するよね。その情熱を他へ向ければいいのに。
「んー? ここら辺か? くせーなー」
武藤はそう言いながらこちらに近づいてくる。多分、上履きの匂いを指摘して、皆と一緒に悪臭キモオタとでも罵りたいのだろうね。僕はすかさず【スメルコントロール】でフローラルな香りを発生させた。
「これは、バレてしまったんだお、僕のフローラルな香りが」
僕は意味もなく荒ぶる鷹のポーズで片足を上げる。皆も「本当だ、なんかいい匂いがする」とザワついている。
「んなわけねーだろ……本当にフローラルだ」
武藤は僕の持ち上げた方の足に顔を近づけると、そのにおいに気付いた。実際にフローラルな香りがするので、周りの皆が乗ってこられない事を悟ると、僕から離れて行き、綾乃の股に蹴りを入れた。
「いでっ!?」
裏切られたような顔をしながら崩れ落ちる綾乃……自業自得だよね。そこで予鈴が鳴ると、全員が席に戻った。ヤンキーだけれどちゃんと席に戻る武藤と曽根の行動に可笑しさを感じる。なんだろう? もの凄いいゆとりを感じる。あの地獄だと思っていた学校の中とは思えない。
しばらくすると担任の先生が入ってくると、日直が号令を掛ける。
「起立!! 気をつけ!! おはようございます!!」
「「「おはようございます」」だお」
「着席!!」
先生が出席簿を開くと生徒の名前を50音順に呼んでいく。全員の名前を呼び終わり、連絡事項を伝えようとする前に……
「先生~!! 真田が学校に香水をつけてきていま~す!!」
綾乃が先ほどの結果が大いに不満だったのか、すかさず攻撃を開始してきた。このわずかな燃料も見逃さない注意深さを別の事に向ければ……言っても仕方がないか。
「真田、本当か?」
「香水はつけていないお、そんな陽キャ専用のアイテム、僕にはハイレベル過ぎるお」
「嘘つくんじゃねーよ、すげー香水くさかっただろうが!!」
先生の前だというのに綾乃は乱暴な言葉遣いで声を上げた。何としてでも僕にペナルティーを与えたくて仕方がないみたいだ。
「綾乃、汚い言葉を使うんじゃない!! ……真田、どうなんだ? というかそのしゃべり方は?」
「しゃべり方は気にしないでほしいお、嘘はついていないお、何でしたら先生が確認してくれればいいお」
僕は進んで先生の目の前に立つと、荒ぶる鷹のポーズで片足を持ち上げた。
「変なポーズはいいから……(くんかくんか)」
先生は僕の匂いを確認する……当然【スメルコントロール】の効果は切れているので、普通の一般的な高校生の匂いしかしないはずだ。
「別に香水はつけていないようだな、綾乃、変な言いがかりは止めなさい」
「…………」
綾乃は信じられないような顔で絶句していた。
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ようやく”ざまぁ回”になりました。
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