1-8「言われたとおり反撃したお、僕は暴力が嫌いだからやりたくなかったお」
「綾乃、最近は授業態度が悪いと他の先生方もおっしゃっているぞ、昼休みに話を聞くから職員室へ来るようにな」
日頃の態度の悪さも裏目に出て、完全に今回の事は藪蛇になったようだ。綾乃は僕をにらみつけながら席に着いた。そんな目で見ないでよ、笑いそうになるじゃないか。
「真田は戻っていいぞ、まったく何で香水なんて話になるんだか……」
「先生、もしかしたら花の匂いかもしれないお」
「花?」
「今日、僕の机の上に花瓶が置いてあったお、その花の匂いがついていたのかもしれないお」
「机に花瓶? どういう事だ?」
「新藤君が僕の為に花を用意してくれたんだお、とっても優しいんだお」
「ちげぇよ、俺のせいにすんなよ!!」
ガタッと新藤が焦って立ち上がった。まさかここで花瓶の件が今更持ち上がると思っていなかったのだろう。
「乱暴な言葉を使うなと言っただろう、お前が真田の机に花を置いたのか?」
「先生、何で怒るんだお? 新藤君は僕の為に花を買ってきてくれたんだお」
「おまっ……先生、俺は知りません!! 真田が勝手に言っているだけです」
「おっと、そうだったお、新藤君はシャイだから良い事をしても秘密にしたいんだったお」
「てめっ、証拠が……」
「でも、きっと花屋さんも男子学生が買い物に来るなんて珍しいだろうから、調べたらすぐに分かりそうだお」
「……っっ!!?」
新藤はそれ以上何も言わなくなった。
「新藤、お前は授業態度も真面目で成績もいい生徒だと思っていたのだが、少し話をする必要があるようだな。お前も昼休みに職員室に来るように」
「先生、新藤君は真面目で優しい生徒だお」
「……真田、もういいから席に着きなさい」
「わかったお」
いい感じで新しい学園生活を再開できている気がするよ、この積み重ねであいつらが僕に手を出すのが面倒くさいって思わせるのが勝利条件だ。
あいつらはきっと僕が憎いわけでは無くて、ただ面白いからいじめているだけだ。いじめられる僕にとっては本当に冗談じゃ無いし、力で仕返しをしたいのは山々だけれど、そんな事をしたらあいつらと同類になってしまう。とにかく奴らにとって、遊びですまなくさせれば、手を引かざるを得ないはずだ。クラスに影響力がある武藤と新藤の二人は表向きメンツを潰さずに、僕にかまう事が割に合わないと思わせるのだ。
その後、休み時間のたびに、いじめっ子どもをスキルや魔法を駆使して、のらりくらりと躱していく。下駄箱の革靴も無い、いつも壊されるロッカーの南京錠は何故か破壊不可能、鞄は空なのにいつの間に教材を用意する僕、いじめっ子達のあの手この手がみんな空振り。そこを綾乃はまた別の教師に見つかって怒られていた……本当に懲りない奴。
そして昼休み、僕への視線が途切れた時に【クイック】を使って、高速ランチを終える。いたずらをする隙などは、全く無かっただろう。
「おおーい、真田虫~ぃ!! 本日の試合の時間だぜ~!!」
大声でやってきたガタイの良い角刈りの生徒、川島は隣のクラスだ。たまたま僕がいじめられている現場を見かけて、昼休みに参加するようになった。いつも試合と称して僕をプロレス技の実験台に使う嫌な奴だ。たまに先生に見つかっても、プロレスで遊んでいただけだと誤魔化し通す……もしかして本当に遊んでいるつもりなのかもしれないけれど。どちらにせよ迷惑極まりない脳筋馬鹿だ。
「武藤はやらないのか?」
「あ? 俺パスだ、今日は気分が乗らねぇ」
武藤はバイク雑誌を見ながら弁当を食べている。
「なんだよ、ノリ悪いな」
「……程々にしとけよ」
今日のいじめが全部空回りしている事を、武藤はすこし気にしているようだ。これがヤンキーの直感なのか?
「え、なに? もう飽きちゃった? やったぜ、これから真田虫と俺とのカード独占生放送だな」
頭悪そうな言い方で、僕の方に向かってくる川島。
「僕、最近ちょっぴり太っちゃったから、重くて動かないかもしれないお」
「どこがちょっぴりだよこの豚が!! いでっ!?」
僕を罵倒しながら僕の喉元にチョップを繰り出してくるが、チョップした手が痛かったのか摩っている。
「なんかチョーシにのってないか? この豚?」
特に反撃しているわけでは無いのに機嫌が悪くなっているようだ。なんでこいつらは、思い通りにいかない=相手が調子に乗っている、という理論に至るのだろう?
「体重しかのってないお」
「全然巧くねぇよ!!」
今度は勢いをつけてラリアットをしてきたが、やはり僕は動かなかった。顎が腕にぶつかってかなり痛かったようで、腕を抱えてかがみ込んでいる。
「大丈夫かお? きっと今日は川島くん調子が悪いんだお?」
僕のキモオタ口調に腹が立ったのかムキになって掴みかかってきた。
「おい、豚、ノリ悪いぞ! 客を退屈させる気かよ!!」
いつものよう自由に技が掛からなくて苛ついた口調で文句を言ってくる。そう言っているのは川島だけで、クラスメイトは大分前から昼休みのプロレスを気にしなくなっている。
「もう今日はムーンサルトプレスの練習だ、豚!! ここに寝転べよ!!」
いつもは技を掛けられて転がされるのだが、今日は自主的に寝ろと言ってきた。
「ご飯食べた後にすぐ寝ると豚になっちゃうお」
「もう、豚だろうが!! さっさと寝ろよ!!」
そこは牛だろう!! というツッコミは返ってこない。何だかすごく怒っているので、僕はこっそり床に【ピュリフィケーション】をかけて寝転んだ。ムーンサルトとか言っているけれど川島はバック転できないので、真っ正面から落ちてくるだけだ。前にやられた時に僕は大けがをして大事になったのに、本当にこいつは馬鹿なのではないかと思う。
机に上がると僕めがけて飛び込んでくる。自分に【プロテクション】をかけてみると……結果はもう言うまでもないよね?
「ごぁぁぁぁぁっ!!!」
鼻血を出しながら打ち付けた所を押さえてうずくまっている、顎も強く打ったようで喋れないみたいだ、これはひどい。もしもこの場に新藤がいたら、クラスの口裏を合わせて、僕が突き落としたと、濡れ衣を着せられたかもしれないけれど、彼は職員室にいる事も計算済みさ。
結局、クラスの証言では『ふざけて机の上から落下した』という内容で、救急車に運ばれていった。皆も何故か僕と関わるのを避けて名前を出さなかったみたいだ。まぁ、自業自得だよね? 状況が状況なら、救急車に乗るのは僕だったかもしれないのだから。
こうして何事も無くすべての授業は完了した。
そろそろ帰ろうかな? ん? 何かお尻に当たった? 後ろを見ると、曽根が僕のお尻を蹴り上げたみたいだ。
「なんだお? 今日は帰って暴れん坊ジェネラルの再放送を見ないといけないんだお」
「……特裏に来いよ」
曽根は僕の切なる願いを無視して、要件だけ伝えると教室から出て行った。予約録画しているから良いのだけれど、行くしかないか。特裏とはローカル用語で特殊校舎裏の事だ。特殊棟は防音設備も多く、死角が多いため内緒の秘め事によく使われる。
普段無口な曽根は、普段は僕にちょっかいをかけてこないのだけれど、放課後になると、人目の無い校舎裏で僕を喧嘩の練習台にする。喧嘩だけなら武藤よりも強いと思う。どちらにせよ今までの僕にとって等しく嫌な奴なのは変わらない。……でも今日はいつもとちょっと違う結果になるよ。
特殊校舎裏の地面に一人の学生がうずくまって倒れている……曽根だった。
「言われたとおり反撃したお、僕は暴力が嫌いだからやりたくなかったお」
曽根は信じられないような顔で僕を見上げている。
「なんで、今まで手加減してきた……」
暴力嫌いだって言ったでしょ。なんか勘違いしているけれど、まぁ、いいか。
「やりたい事が見つかったんだお、目標に集中したいから、煩わしい事に関わりたくないんだお」
当たらずとも遠からず、割と本音で話したと思うよ。曽根は脳筋らしく拳で語るタイプだったみたいで、もう関わらないと言って帰って行った。いったい何がしたかったのだろう? まぁ、知りたくも無いけれどね。
曽根とは逆の方向に歩いて、校舎裏から帰ろうとすると、角の向こうに誰かいるみたいだ
5人くらいの女子生徒が一人を囲んでいる……あれは早瀬さん? 早瀬さんは……僕と同じ境遇の女の子だ。互いにいじめから逃げ出して、図書室で会って話すようになった。容姿は僕の女子版みたいな感じで、一緒にいるところを見られて、お似合いのオタップルだの、兄妹で近親相姦だのとからかわれていた。
僕の回想が終わった頃には5人組は帰ったようだが、早瀬さんはその場にうずくまって泣いていた。今までの僕なら見なかったふりをして回れ右をしていたのだろうけれど、その選択肢を選ぶ気持ちにはなれなかった。
「これ、使うと良いんだお」
僕は彼女にハンカチを差し出した。
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ヒロイン? です……いえ、ヒロインなのです!!
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