1-6「元に戻ったんだお!!」

 初めてのダメージ、初めての手強い敵を目の前にして、僕は冷静さを失っていた。


 と、とにかくいくら弱くても数が集まるとやっかいだから、ゴブリンを倒さないと!! ……そう思った矢先に。


『グ、ギャ、ギャアアアン!』


 ボスであるゴブリンジェネラルが、腰を振って変なダンス(?)を踊っている、馬鹿にされている? ふざけるな!! 頭に血が上ってボスゴブリンに向かって走り出す。途端に後頭部に衝撃を受けた。


 後ろを見ると、床に棍棒が転がっている、きっとゴブリンが投げつけたんだ。『グギャギャギャギャギャ~!!』僕を見て笑い出したボスゴブリンに苛立った。【ハードヒット】でボスゴブリンに攻撃を仕掛けるが、回避に専念しているようで、剣の間合いからひょいひょいと離れていった。


『ギャギャッ!!』『グギャギャ!!』『ギャギャグギャ!!』


 その間に増援のゴブリンがやってきて、状況は5対1になってしまった。僕はどうしてムキになって、雑魚ゴブリンよりボスを倒そうとしてしまったのだ? はっ、もしかしたらさっきの変なダンスは、ヘイトを取るスキルだったんじゃ? ……僕はボスゴブリンの戦略に、まんまと引っかかった事を悟った。


 焦るな、落ち着くんだ、えーと今のステータスは?


【NAME:真田巧美 LV:15 JOB:戦士】


 HP223/250

 MP18/25

 SP51/68


 なんだ、全然ゆとりがあるじゃないか。多分、雑魚ゴブリンの攻撃は1~3ほどのダメージで、ボスゴブリンの攻撃は10ダメージほどだったんだろう。【プロテクション】を切らさないようにして、戦えば大丈夫だ。


 ステータスを確認して、僕は冷静さを取り戻した。そしてボスボブリンへの執着心が無くなった事に気付いた。挑発の効果時間は30秒くらいだねきっと。


 ボスゴブリンと間合いがかなり離れていたので、僕はすぐさま雑魚ゴブリンに向かって走り出した。後ろからボスゴブリンが追いかけてくる気配を感じる。よーし、ここで一気に反撃に出るぞ!!


 僕は【身体強化C】と【クイック】を使用すると、素早く振り返り、【ハードヒット】でボスゴブリンに斬りかかった!! 先ほどと比べものにならない素早い動きに、ボスゴブリンは全く対応できないようで、簡単に攻撃を出来てしまう。肩口を切り裂かれて床に倒れたボスゴブリンに、僕はすぐさま追い打ちをかける。剣を逆手に持ち直して倒れたボスゴブリンの胸に突き刺した。


『グギャアアアアアアアアアッッ!!』


 ボスゴブリンは断末魔を上げると、ビクビク痙攣を起こして動かなくなった。


 まだ、スキルと魔法の効果は続いているみたいだな? 僕はボスが倒れてうろたえている雑魚ゴブリンの元へ、一気に詰め寄って攻撃を仕掛ける。先ほどの連携など無かったかのように、全員あっさりと倒せてしまった。


【フロアボスを討伐しました】

【ファーストクリア:初めてこのダンジョンの1フロア目をクリアしました】


 おお、ちゃんとクリアのアナウンスが聞こえる。


「よっし!! やったーー!!」


 勝利を実感した僕はガッツポーズを決めた。おっと、とりあえずガチャコインがドロップしているから回収しよう。



 コインの回収が終わった後、さっそく奥の扉へ向かった。大きな扉だったけれど、それほど抵抗なく開いた。その向こうには下に降りる階段が見えた。


 よかった、まだダンジョンの続きがあった。安心した僕はアイテムボックスから500 mlのスポーツ飲料のペットボトルを取り出して、半分くらい飲み干した。スマホを確認すると16時を回っていた。


 今日はここまでにしておこうか、出口まで最短ルートを通って、どのくらい掛かるかの時間も計っておこう。こうして僕は少し休憩してある程度MPが回復した後、スマホアプリで出口までのルートを確認、【サーチ】を駆使して早足で出口に向かったのだった。



 自販機の元まで30分ほどでたどり着いた僕は、コインが無くなるまでガチャを回した。初日以外にURウルトラレアは出ていないな、あれはビギナーズラックだったんだろうか? それにしても目の前がぼんやりすると思い、眼鏡が汚れているせいかと拭こうとしたのだけれども、なんと、眼鏡を外した方がよく見える事に気付いた。これ視力が回復しているよね? 良い事なのだろうけれど、いきなり眼鏡なしで生活すると変に思われそうだよね。明日にでも伊達眼鏡を買ってごまかそうかな?


 あ、よく見たらズボンの太もものあたりに切れ込みが入っている。ボスゴブリンに攻撃されたあとだコレ。ガードレールで引っ掻いたとかごまかせるかな? 足の傷はポーションで完全に消えているから、大げさには心配されないだろう。


 ガチャを終えて戦利品を【アイテムボックス】へ収納すると、【サーチ】を使って倉庫の外に誰もいない事を確認して表に出た。自転車を取り出して定位置に置いておくと家に入った。


「ただいま~」


「おかえり、今日は朝から出かけて、ずいぶん遠くへ行ったのね……え、誰、あなた?」


 リビングから出てきた母さんが怖い顔でこちらを見ている。


「え? 何言っているの母さん?」


「え? 巧美? ……そうね、声もちゃんと巧美ね? ちょっと、あなた、こっち来て!!」


 母さんは慌ててリビングへ父さんを呼びに行ったみたいだ。僕を見て驚いていたけれど一体何が? ふと、玄関脇の大きな姿見を覗くと知らない男が映っていた。


「うわ、誰だよこいつ!! ……って僕だよな?」


 鏡を見ながらこれは現実だと確信した。イケメンにはギリギリ届かない、体格の良い少しワイルドな容姿だ。確かに父さんをすごく若くしたらこんな感じかもしれない。これはエクスプローラーズの影響だよね? どうしよう? 僕はとっさに良い解決策を思いつけなかった。



 リビングで家族を前に色々話を聞かれた。両親は……特に母さんは心配そうにしていて、美百合は何故か嬉しそうにはしゃいでいた。結局明日、父さんの知り合いの大きい病院で検査してもらう事になった。明日は予定があるという僕の都合は当然却下された。【ジャストイクイップメント】の効果で、サイズ違いの同じ服を着ていた事を、突っ込まれなかった事だけが幸いだった。




 次の日、休日でもやっている大きな病院で色々な機械で体を調べたり、採血されたりと、家に帰れたのは夕方以降だった。正確な結果は後日にならないと分からないが、当日で分かった事だけでも心配はなさそうだという事、むしろもの凄い健康体だと先生に言われた。母さんは、まだ心配していて、僕に遊んでほしそうにしていた美百合に言い聞かせていた。父さんは、医者が大丈夫だと言っているから心配するなと大らかに構えている。どちらにせよ今日はダンジョンへ行くのは難しそうだな。


 仕方が無いので僕は自室で、帰りに買ってもらった伊達眼鏡を掛けると、中途半端だった宿題にとりかかった。休んでしまった日の宿題だけれど、やっていなかったら、先生に怒られるかもしれないからね。


 問題を解いていてふと気付くのだけれど、すごく頭が冴えているみたいで、分からない場所もちょっと調べればすぐに解決できた。エクスプローラーズで身体能力が上がったのは感じたけれど、まさか、頭の働きまで良くなっているのかな? だとしたら、これから僕の生活は劇的に変化する事になるのじゃ無いかな? まだ漠然としすぎていて、これからどうなっていくか想像が出来なかった。



 宿題を終えて、ステータスを確認する。


【NAME:真田巧美 LV:18 JOB:戦士】


 HP280/280

 MP28/28

 SP48/48


 ボスを倒したらレベルが3上がっていた。戦士はMPの伸びが悪いなぁ。今の所、困っていないけれども。SPは指輪を付ければ更に高くなるので、戦闘中にスキルを多用しても、全く枯渇する事が無かった。


 なんとなく剣士にジョブチェンジしてみた。


【NAME:真田巧美 LV:18 JOB:剣士】


 HP280/280

 MP38/38

 SP38/38


 スマホのインカメラで自分の顔を写して確認してみるが、戦士と剣士では特に変化は無いようだ。あ、もしかして……僕はキモオタにジョブチェンジしてみた。


【NAME:真田巧美 LV:18 JOB:キモオタ】


 HP180/180

 MP23/23

 SP23/23


 スマホで顔を見ると、そこには見慣れたキモオタが写っていた。


「元に戻ったんだお!!」


 特殊な口調もしっかり元通りだった……こっちは戻らなくてもいいのに。ニキビは消えて少し健康的なキモオタに見えるけれども、これならそこまで違和感は無いだろう。


 それにしてもしまったな、家に入る前に気付いていれば、この姿で帰ったのに。既に病院まで行って検査したのに、これで元に戻ったら逆に心配されちゃうよね? 本当に僕はどうしてこう、要領が悪いのだろう?


 過ぎてしまった事を悔やんでも仕方がない、学校だけはキモオタのジョブで過ごす事にしよう。それで夏休み明けのタイミングにでも姿を切り替えれば、驚かれはするだろうけれども押し通す事は出来るだろう。



 ……こうして僕は夏休み中に、結果にコミットした事にする計画を立てたのだった。



_________________________________________________


戦士になったお陰でスマートボディを手に入れましたがキモオタはやめられません。


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