1-5「なんだかおにぃ、顔がシュッとしていてかっこいいよ」
戦士にジョブチェンジした途端に身が引き締まった気がした。漢として生まれたからには戦士であらねば……キリッ!!
こんな感じで僕は、微妙にテンションが上がって妙な事を考えた。
さて、ジョブの事は良いとして、今日の成果を確認しないとね。戦士のジョブで特に使えそうな物はこんな感じだ。
【C:コンセントレーション】集中力が上がる。集中が必要な場面で精度の高い効果を得られる。パッシブスキルなのでとりあえず覚えておいて損はなさそうだ。
【UC:ハードヒット】通常よりも強力なダメージを与えられる。武器種に依存しないため、色々な武器を使える戦士に向いていそう。
【UC:パリィ】攻撃を弾く、逸らす技。敵の攻撃を防ぐより体勢を崩すのに役立つみたい。
【UC:バッシュ】盾で攻撃をする。衝撃で相手を気絶状態にできる事がある。敵の攻撃を受けた後にカウンターも出来るようだ。戦略性が増しそうなので、巧く使えるといいな。
あまり多く覚えても、使いこなせないかもしれないから、効果の高そうな物から練習をしていこうと思う。何だか楽しくなってきたな。今日も夜にダンジョンに行くべきか、それともしっかりと休んで、明日万全の状態で行くべきか?
扉がノックされた。
「おにい~、風邪大丈夫~?」
美百合が帰ってきたようだな、心配かけたから顔を出して安心させないと。そう思って、扉を開けて顔を出した。
「おかえり美百合、心配かけてごめんね、もう熱も下がって大丈夫だよ」
美百合は何やら驚いた顔でこちらを見上げている。
「え? おにぃ? 風邪で痩せた? でも顔色は普通だね?」
「何か変? 別に体調は悪くないよ?」
言われて自分の頬を撫でてみると、ん? なんかニキビが無くなっている。肌がツヤツヤしている気がする。
「なんだかおにぃ、顔がシュッとしていてかっこいいよ」
「そうかな? って、そんなに見るなよ、恥ずかしいだろ?」
両手を美百合の目の前にかざして顔を見えなくする。
「えぇ~、いいじゃん、見せてよ~」
手から逃れるように体を振ってこちらを見てくる。
「見るな~見るな~」
「見たい~見せろ~」
美百合とじゃれ合っていると、母さんが帰ってきたようだ。しばらくすると二階に上がってきた。
「巧美、ただいま。もう熱は下がったみたいね……巧美、痩せた?」
「お帰り母さん、おにぎり美味しかったよ。それ美百合も言ってるけど、気のせいじゃない?」
「そう? 調子が悪いんじゃ無ければ良いわ、それじゃあご飯の支度してくるから」
「あ、ママ、みゅーも手伝う~」
二人は1階に下りていった。
今更だけれど、普通にしゃべれたね。やはりあの独特な口調はキモオタのジョブのせいだったんだな。う~ん、それにしてもエクスプローラーズの影響で容姿にまで変化があったのかな? キモオタを自覚している僕の部屋に鏡など置いてあるわけが無い。とりあえず2階のトイレ前、洗面所の鏡をのぞき込んだ。
……確かに何だか細くなっているな、頬が痩けている訳では無く、語彙が少なくて巧く言えないけれど、まさに美百合がいったシュッとしているという感じだ。ニキビ等の吹き出物は無くなって健康的に見える。
もしかしてこのままLVアップすると、もっと変化してしまうのかな?容姿も一緒にキモオタから戦士になるのは悪くないけれど、急激に変化すると異常に思われてしまうな。
だけど探索を止める気など全くないから、結論は先送りにして後で考えよう。基本明日から本気出すを信条……実際はいつまでたっても本気を出さない……の僕は考える事を止めた。
その夜、夕飯の時に父さんにも同じ事を言われた。父さんも昔は太っていたらしくて、母さんが若い頃の父さんに似てきたって言っていた。そうだったんだ、僕は父さん似だったんだな。
今日も美百合とゲームで遊んだ後、一番風呂に父さん、次に美百合、その次のお風呂に僕が入った。【ピュリフィケーション】で体は綺麗になるけれども、家族にお風呂に入らないと思われるのはマズい。それに温かいお湯につかるのも、日本人として大事だと思う。
お風呂から出て自室に戻ると、もう寝る事にした。今日は父さんが早く帰ってきているから、外に出ようとすると、リビングにいる父さんに見つかってしまう可能性がある。多分、お酒を飲んでいて、気付かないかもしれないけれど、リスクは少ない方がいいしね。
次の日、スマホの目覚ましアプリで目覚めると、ダンジョン探索の準備をした。母さんの作った朝ご飯を食べ終わると、家族には遊びに行くと告げて、一度自転車で出かけた。そのままコンビニへ、ダンジョン内で食べる食料を買ってから家に戻り、こっそり倉庫に向かったのだ。家族と鉢合わせしない為に【サーチ】の魔法はとても役に立つ。自転車も【アイテムボックス】に入れてあるので、家族は僕が出かけたままだと思っている事だろう。
今回は今までで一番たくさん時間がとれるので、心ゆくまでダンジョン探索を行うぞ!!装備を調えた僕は気合いを入れてダンジョンの入り口を進むのだった。
ダンジョン探索はスピーディーに進んだ。
もはや、大蝙蝠は敵では無く、ゴブリンに後れを取る事は無いと思う。既にゴブリン3~4匹を相手取っても負けなかった。レベルの低いゴブリンは、僕の後ろに回り込むなどの戦略的な行為はせず、全員一斉に真っ正面から襲ってくるので、全部【バッシュ】の餌食となった。
マッピングも順調に進み、何となくこのフロアを踏破出来るような気がしてきた。15時になり、長い通路の行き止まりにさしかかったので、おやつタイムを取る事にした。行き止まりを背にして、まっすぐな通路だから視界も良く、敵が現れればすぐに分かるだろう。体に【ピュリフィケーション】をかけてから、ポテトチップスを食べて、ゼロカロリーなコーラを飲んだ。チョコレートの甘さが口に広がる……チョコ、ポテチ、コーラのコンボは最強だよね……おっと、ゲップが出ちゃった。
今のところ敵との戦闘は負ける要素が見当たらない。油断禁物だけれども【コンセントレーション】のおかげか集中力も途切れない。マップアプリを見た感じ正方形の全体図が想像できるので、あともう少しでこのフロアは踏破できると思う。時間的に踏破後、すぐに戻れば夕方にはダンジョンを出られるだろう。もしも先の階層を発見できるのなら明日は最短ルートで向かって、新しい階層を攻略だな。……あるといいなぁ、次の階層が。
ダンジョンへの願望に思いを馳せながら、おやつタイムは終了した。ちなみにゴミを捨てるとダンジョンへ吸収されるのか、おおよそ1時間くらいで跡形も無く消えてしまう。入り口付近で実験したので間違いは無いと思う……落とし物は絶対にしないよう気をつけなければ。初日に落としたガチャコインも、次の日には無くなっていたしね。僕はポテチとコーラのペットボトルを壁際に置いて、探索を再開した。
ダンジョン踏破も残り一割を切り、少し長めの通路を進むと広場が見えた。部屋の壁にはいくつもの松明が掛けられていて、ライトを点けなくても大丈夫そうだ。広場の向こうには大きな扉があり、その前には通常よりも体格がよく、厳つい装備のゴブリンがいた。向こうもこちらに気付いているであろうはずなのに、襲ってこない。これはフロアボスという奴だろうか?
【ゴブリンジェネラル LV:15】
かなりレベルが高いな……僕と同じじゃ無いか、装備も強そうだ。
【NAME:真田巧美 LV:15 JOB:戦士】
HP250/250
MP25/25
SP68/68
レベルは同じだけれど、とりあえず戦ってみるか?負けそうなら【クイック】で逃げればいいだろう。よし、僕は油断していない、やってやるぞ!!気合いを入れるとボス部屋らしい広場に入っていった。
僕が部屋に入った途端にボスゴブリンは武器を構える。『グギャ! グギャ! グギャ!』今までのゴブリンとは違う叫び声を上げた。威嚇しているのだろうか?特に恐れるような感じはしないので、このまま戦う事にしよう。自分に【プロテクション】をかけて、敵に向かい駆け出した。
ゴブリンジェネラルはブロンズソードらしき武器を構えると、低い姿勢で飛び出して来た。ただのゴブリンよりもかなり早いけれど、十分追い切れる。それよりも低い位置からの攻撃が裁きにくそうだ。
盾を低く構えると相手の攻撃を受ける、タイミング良く【バッシュ】を使う。攻撃は巧く決まったけれど、ただのゴブリンと違ってまだ元気そうだ。真っ正面からの攻撃が得策ではないと悟ったのか、右に飛んで回り込んできた。やっぱりただのゴブリンよりも頭がいいようだ。それでも落ち着いて方向転換をして盾を相手に向ける。
再び敵の攻撃に合わせて【バッシュ】を決める。敵はこちらの守りを抜けられないようだ……このままなら勝てるか?そんな考えが頭によぎった時にそれは聞こえた。
『グギャーッ!』『グギャギャーッ!』 『グギャ!!』
後ろからゴブリンが来た!?まさか最初の叫び声は増援を呼んだって言うのか!?だが、増援はただのゴブリンのようだ、【サーチ】で判断できる。敵の数も3体なら瞬殺してしまえばいいだろう。【バッシュ】で体勢を崩しているボスゴブリンに背を向けて、部屋に入ってきたゴブリンに向かって駆け出す。
あまり時間をかけられないので【ハードヒット】を駆使して、ゴブリンを攻撃する。2体目を倒した時に背後から気配を感じて、急いでその場を飛び退いた。予想通りボスゴブリンが僕の背後を狙って攻撃していた。すぐさま方向転換をしてこちらに剣を向け飛び込んでくる。タイミングを合わせて【バッシュ】を使いボスゴブリンの体勢を崩すと、反撃される前に攻撃を仕掛けようとした途端……
脇に衝撃を感じた、3匹目のゴブリン!?しかもこいつ僕の死角に回り込んで来た!?今まで雑魚だったゴブリンの戦略的な行動に僕は驚いた。その隙を突いてボスゴブリンが僕の足を切りつけてきた。
「いだっ!?」
もしかして、ダメージを受けたのは初めてではないだろうか?【プロテクション】の効果でそこまでの痛みでは無いはずなのに、僕はショックを受けた。
『グギャギャ!!』『グギャー! グギャー!!』『グギャ!?』
再び通路の方からゴブリンの声が聞こえる……あれ? このままだとやばい?
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今までヌルゲーだったのにピンチです!
巧美の行く末が気になる方は是非とも★評価、応援、フォローお願いします。
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