第7話 帰路
光が消えていく中、着地したアマテラスはホッと息を吐いた。ホロウィンドウを呼び出し、目的のレアアイテムがドロップしているか確認する。納得したのか、頷いてからエナの元へと歩み寄る。
「終わったよー。じゃあ、帰ろっか」
気軽に声を掛けるが、エナからの返事は無かった。顔の前で手をパタパタと振っても反応が無い。
「おーい、帰るよー?」
「ほ、本当に、倒しちゃった……」
「もしもーし。驚いてるとこ申し訳ないんだけど、早く帰らないとアンデッド系のモンスターがどんどん出てくるよ?」
「嘘っ!? ……ですよね?」
「ほんとほんとー。聖属性のスキルとかなら一撃か二撃で倒せるんだけど、普通の攻撃だと威力が落ちるのよねー。しかも数が多いからすっごく面倒で……さっきの光の剣がそうなんだけど、回数制限あって今日はもう使えないのよ」
あっはっは、と呑気に笑うアマテラスの腕が掴まれる。ガタガタと震える紅髪の少女は涙目で、
「は、早く出ましょう!」
と訴えた。その様子を見た純白の少女は、何か納得したような表情を浮かべた。
「…………もしかして、ホラー映画とか苦手だったりする?」
「無理っ! あんなの見るもんじゃないですもん!!」
早く早くっ、と命の恩人を急かし、足早にドームを後にする。
ぴったりと体を密着させながら並んで洞窟を歩く途中、エナの装備が初心者のものだと気付いたアマテラスから、
「ところで、エナちゃんは何でこんなところにいるの? ここ、32層なんだけど……初期装備でここまで来れるとは思えないし……」
「あ、あはは。実はですね──」
目を細め、睨みつけるように理由を尋ねた少女にエナは洞窟に迷い込んだ経緯を話した。全てを聞き終えたアマテラスは、顎に手を当ててふむ、と呟いた。
「なるほど。始まりの森でゲームに慣れようとしてたら、途中で木の根が光ってたから近付いた、と」
「そうです」
「で、トラブルになったプレイヤーたちに襲われ、気が付いたら洞窟に転移していたわけね」
こくこく、と首を縦に振る。
「……初期装備でここにいる理由は分かったわ。たぶん、あなたを狙った罠だったんでしょうね。参考までにどんなプレイヤーとトラブったか聞いてもいい?」
GWOのユーザーは4年で300万人を超えている。その中からいざこざの当事者を探すのは困難を極める。
知り合いだったらいいなー、と極小の可能性に期待をするアマテラスの隣でエナはうろ覚えの身体的特徴を思い出していった。
「えっと……黒っぽい鎧を着た四人組で、その内の一人が左腕に緑のバンダナをしてたような……。で、その人たちがぶつかってきて、謝ってって言ったら喧嘩を売られた感じです」
あの時は凄くムッとしていたから目に付いた特徴的なものしか覚えていない。他に何か特徴が無かったか考えているうちに怒りが再燃してきた。
剣を振ってストレス発散したいところだが、洞窟に湧くモンスターはエナのレベルでは太刀打ちできない強さを誇っている。挑めば呆気なく死ぬので、地団駄を踏むに留まった。
ハッとして純白の少女にしがみつこうと腕を伸ばす。しかし、その手は空を切った。少女の姿を探すと、少し後ろで彼女は片膝をついていた。
「ど、どうしたんですか!? 早く行きましょうよ!!」
まさか気付かない内にダメージを負っていたのでは!? と心配する他に、エナにはどうしても先を急ぎたい理由があった。
幼い頃、両親が夜中にこっそり見ていたホラー映画をたまたま目撃。画面いっぱいに映ったゾンビを運悪く見てしまったのである。それ以来、ゾンビは元より幽霊なども含めたホラー映画全般が苦手になってしまったのだ。
アンデッド系のモンスターがどういうものかエナはまだ知らない。だが、ゾンビや幽霊であった場合は悲鳴を上げることしかできない……かもしれない。
余談だが、エナこと優美は虫全般と蛇や蛙も嫌いである。
絶対にそんなひどい目に遭いたくない一心で先を急かすも、アマテラスが立ち上がる気配は一向に無い。腕を引っ張って立ち上がらせようとした時、顔を伏せる彼女から声が漏れ聞こえてきた。
「あ、あの、なんですか?」
声が小さくて何を言っているのか全く聞き取れない。ギリギリまで顔を寄せたところで、ようやく彼女が呟いている言葉が分かった。
「本っっっ当に、ごめんなさいっ!!」
綺麗な土下座だった。フィールドのど真ん中で深々と謝罪するアマテラスに、エナが再び慌てた。
「なんでアマテラスさんが謝るんですか!? 私、助けてもらっただけですよ!?」
「そうなんだけど……。その、エナちゃんに喧嘩を売った男たちなんだけど、そいつら私の知り合いがリーダーやってるギルドに所属してる奴らなの。だから、そいつらに代わって謝っておこうと思って──」
「じゃあ今からそのギルドに行きましょう! そしてリーダーさんに文句言って、その人たちに謝ってもらいます!!」
唐突の宣言に、今度はアマテラスが慌てた。
「待って待って! き、今日は街に戻ったらログアウトしよ? 始めた初日にあれこれするのって疲れるし、ね?」
「……分かりましたよ。じゃあ明日行きましょう。それで良いですよね?」
冷静に言っているように聞こえるが、その語気はかなり強い。単独で大型モンスターすら倒せる力を持つアマテラスも、エナの圧に頷いてしまう。必要な同意を得られ、一転して紅髪の少女は笑みを浮かべた。
「そうと決まれば、まずはここから出ましょう! おー!」
手を高々と突き上げ先行する紅色の頭を、アマテラスは肩を落としながら追いかけた。
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