第6話 アマテラスと名乗る少女
「大丈夫?」
「は、はいっ。ところで……どちら様ですか?」
「私は──――っと!」
眼光鋭く振り返った純白の少女が、エナ目がけて全力疾走した。
「はぇ、ちょっと──!?」
再びの浮遊感。また、と思った瞬間にはすでに小脇に抱えられ全力の移動が始まる。凄い速さで地面が動いていく。急な移動の理由を聞こうと首だけを向ける。
ドゴォッッッ!!
洞窟全体が激しく揺れた。慌てて背後に首を向けると、ついさっき倒されたはずのギガントゴーレムが通路に拳を突き立てていた。赤い双眸が二人の少女に照準を合わせる。
「なんで生きてるの!?」
「なんでって、圏外だから新しいのが湧いて出てきたに決まってるじゃない。全力で距離取るから、しっかり頭守ってなさいね!」
言われるがまま両腕で頭を抱える。
背後からはゴーレムの咆哮と、巨体が移動するたびに起こる地響き、さらには壁を破壊する音が轟いてきた。
涙目で体を縮こまらせるエナを抱え、白髪をなびかせる少女剣士は通路を駆け続ける。何度か角を曲がると、進行方向に光が差した。
「確かこっちは……」
「ちょっと、画面見てる場合じゃないですよね!? あの巨体をなんとかしないと!」
「……それもそうね。安心して、この先でなんとかするから」
二人が行き着いたのは、出口ではなく広大な半球状の空間だった。入ってきた場所以外、見渡す限りのっぺりとした壁がそびえ立っている。
「行き止まりなんですけど!?」
中心まで進んだところでギガントゴーレムも進入してきた。雄叫びをあげる怪物から離れた位置にエナを下ろす。退路の無い危機的な状況であるにも関わらず、純白の剣士は口元に笑みを浮かべた。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はアマテラス。訳あって一人で戦ってるんだけど……まぁ理由はそのうち話すわね。はい、次はあなたの番」
「え、エナです……じゃなくて! 呑気に自己紹介してる場合ですか!? どうにかして逃げないと!」
「ごめんね、逃げるわけにはいかないの」
「なんでですか!?」
アマテラスと名乗った少女は黒い刀身の片手剣を抜くと、好戦的な笑みで切っ先をゴーレムへと向けた。
「ギガントゴーレム《あいつ》のドロップアイテムが結構良い値段で売れるのよ。レアモンスターだから、今ここで倒す!」
「いやいや! どう見てもさっき倒したやつより大きいですよ!? 倒せるのは分かりましたけど、今は逃げましょ
う!」
「普通はそういう反応するよねー。心配するのはもっともだけど、アレと戦うのは私一人で十分だから。エナちゃんは巻き込まれないように端の方に行っててねー」
走り出そうとしたアマテラスの腕が後ろから掴まれる。青ざめた表情で震えるエナは、
「あなたが強いのは見てて分かったけど、さすがに二体目も一人で倒すなんて無謀すぎますよ! 隙を見て逃げましょうよ!!」
「うーん、心配されるなんて久し振りだなぁ。とにかく、あなたはさっさと退避する。話は後でゆっくり聞くから」
ぐいぐいっとエナの背中を押して壁際へ追いやり、アマテラスは軽く準備運動を始めた。ご丁寧にやり取りが終わるまで待っていたギガントゴーレムを睨む。深呼吸して一言。
「────参る!」
風が吹き荒れた。疾走したアマテラスは正面切って突撃し、足元を抜けると同時に岩の脚を二度斬りつけ背後へと抜ける。
巨体が反転し、踏み潰そうと脚を持ち上げる。すでにそこには少女の姿は無く、がら空きとなった軸足に再び斬撃を受けた。赤いダメージエフェクトが煌めき、四段あるHPバーの一段目が4割減少する。
攻撃の手を止めないアマテラスの頭上で、巨大な拳が振り上げられた。
拳が大地を穿ち、ドーム全体が激しく揺れた。四方八方に飛び散る無数の岩塊の陰から影が飛び出す。雨のように降る岩塊の隙間を縫ってゴーレムに肉薄する。
そんな彼女を岩塊の拳が立て続けに襲うも、少女の速さに一撃も追いつけず空振りに終わる。
対象との距離はまだ空いているが、素早く白縹色の片手剣に切り替えたアマテラスが前方に向かって振り抜いた。直後、地面からいくつも生えた氷の杭がゴーレムに殺到、強固な体を貫いていく。命中するごとにHPを勢いよく削っていった。
それだけでは終わらない。画面を操作して山吹色の片手剣を実体化。氷柱を足場にギガントゴーレムより高く跳び上がる。
「────【雷霆】ッ!!」
岩の巨人を極大の雷が貫いた。
『グォオオオオオオオオオッ!!』
大ダメージに叫ぶゴーレムのHPバーが半段空になる。腕を振り回して暴れる巨体によって氷柱が半ばから折られた。体から飛び出た部分が少女の小さな体を弾き飛ばす。
轟音と共に壁に叩きつけられたアマテラスは、瞬時に飛び出して剣を振るう。上空で体を捻りながら、光の斬撃によって巨腕を斬り落とした。
目の前で繰り広げられる戦闘に、壁際で身を潜めていたエナは開いた口が塞がらなかった。恐ろしいはずなのに、それでもただ一人で向かうアマテラスに心を奪われる。
部位欠損のダメージも入り、HPバーは残り一段となる。
「アマテラスさんっ!」
届くはずがないと分かっていても叫ばずにはいられなかった。
斬撃を入れた後、落下するアマテラスに隻腕のゴーレムが手を伸ばす。自由に移動できない純白の少女は呆気なく捕まり、対岸の壁に思いっきり投げつけられた。衝撃で放射状に亀裂が走る。満タンだったHPが赤色に変わったところで減少が止まった。
たまらずエナは一直線にアマテラスの元へ駆けだす。無我夢中で走る彼女を隻腕となったゴーレムは見逃さなかった。赤く輝く双眸を向け、握り潰そうと腕を伸ばす。
巨腕が少女を掴む寸前、これまで三度目撃した氷柱が両者の間に割って入った。真っ直ぐに伸びた氷はゴーレムの腕を横から貫き、一時的だがその場に縫い止める。留めていられたのはほんの数秒。氷の粒を周囲に散らしながら氷柱を破壊する岩塊の巨人の頭上に白い光が灯る。
「はぁああああああっ!!」
重力に従って落ちてきた純白の少女が放った斬撃が巨体の背中を深々と斬り裂いた。さらに連撃を加え、猛烈な勢いでHPを削っていく。残りの一段も空になったギガントゴーレムの動きが止まり、無数の青いポリゴンとなって爆散した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます