第5話 純白のソロプレイヤー

 爆音と衝撃が洞窟全体を揺らした。一斉攻撃で床は大きく抉れ、壁に無数の亀裂を生じさせる。

 天井近くまで巻き上げられた砂塵から、脇にエナを抱えた影が飛び出した。そのまま骸骨武者の頭を踏み台にして群れの後方に着地する。手近のモンスターを数体倒し、抱えた紅髪の少女を地面に優しく下ろした。

 死んでいないことに驚くエナは、視界の端に誰かが立っていることに気付いた。俯いていた顔を上げ、息を飲んだ。

 緩やかになびく純白の長髪。すらりと伸びる手足はまるでモデルのよう。腰から垂れる純白の布の隙間から覗いたのは装飾の施されていない無骨な黒い鞘だった。

 全く隙の無い凛々しい立ち姿に目を奪われる。だが、純白の剣士の顔はモンスターたちを真っ直ぐ睨みつけているため窺えない。


「あ、あの……」

「そこから動かないで」


 忠告一つ、純白の人物が剣を抜く。鞘よりも黒い刀身に、刃に沿って赤い筋が縁取られた片手剣。放たれる重圧は凄まじく、死の恐怖とは違った威圧感に血の気が引いた。

 エナは身を竦ませたが、モンスターたちも威圧感に当てられ気が立ったようだ。荒々しい雄叫びを上げながら、無数の目が二人の少女に向けられる。刺すような視線を浴びてエナは再び恐怖に捕らわれた。

 敵意剥き出しの視線を意にも介さず、白髪の少女が身を屈め一気に飛び出す。大蜘蛛と大トカゲの群れへと突っ込み、十数体をまとめて斬り飛ばした。満タンだったHPはたったみるみるうちに削られ、青いポリゴンとなって虚空に消えていった。

 空いたスペースに後方にいた大トカゲや大蜘蛛が流れ込んでくるが、白髪の少女は決して怯まなかった。

 飛び掛かってくる大蜘蛛を斬り捨てながらゴーレムへと接近。振り下ろされた腕を躱し、岩の体に高速で何度も斬撃を入れる。赤いダメージエフェクトを瞬かせ、HP全損により砕け散った。白い影は後方へと大きく跳躍。刹那遅れて彼女の立っていた場所に大太刀が叩きつけられた。

 左右から噛みつこうとしてきた大トカゲを秒殺し、群れへと再突撃する。


「危ない――――っ!!」


 地面スレスレで振り抜かれたゴーレムの拳を受け止めた直後、大太刀が少女の体を弾き飛ばす。壁へと叩きつけられたところへ、別の二体が太刀を振り下ろした。

 迫り来る刃に黒剣で応戦する。金属同士の甲高い音を響かせ、力負けした骸骨武者がたたらを踏んだ。がら空きとなった懐へ、純白の少女が弾丸のように迫る。


「はぁああああああっ!!」


 裂帛の気合いと共に、巨大な骸骨を両断するもそのHPは3割近く残った。

 舌打ちをした少女は骸骨武者から大きく距離を取る。一度エナの元まで戻るとホロウィンドウを操作。黒剣が消失し、純白の剣が実体化させる。

 すぐそこまで迫っていた大蜘蛛を吹き飛ばし、残HPの少ない骸骨へ向かって駆ける。薙ぎ払われた太刀を跳んで躱し、首をはねとどめを刺す。

 少女が着地した場所に、頭上から影が差した。

 ギガントゴーレムの拳が通路を揺るがす。砂塵の中から飛び出すタイミングで骸骨武者が太刀を振るう。空気を裂き、少女の頭上から迫った凶器が地面を穿つ。

 砂煙に破って飛び出した少女は、振り下ろされた太刀の峰を一足飛びで駆けた。次の攻撃に転じるより速く頭に接近すると、駆け抜けざまに首の骨を断ち斬った。無数のポリゴンとなる体を踏み台に跳躍。

 空中で身動きが取れない敵を叩き落とそうと、別の骸骨が振りかぶるが少女の行動の方が早かった。


「この量、さすがにキツいわね……ま、出し惜しみしてる場合じゃないか」


 上空で白縹《しろはなだ》色の片手剣を実体化させ、地上目がけて空を斬った。何も無い空間から無数の氷の柱が生え、モンスターの群れをまとめて貫く。ほとんどがポリゴン片へと変わり、骸骨武者が4体とギガントゴーレムだけが残るのみ。それも氷の柱に全身を貫かれ、HPを大幅に減少させている。


「さて、と。次でとどめにしてあげる」


 ホロウィンドウを操作し、4本目となる山吹色の片手剣を掴む。


「────【雷霆】ッ!!」


 振った剣の先から雷が迸り、氷の柱でその場に縫い付けられたモンスターたちを一斉に喰らった。ギガントゴーレムについては【雷霆】をもう2発叩き込んでようやくHPを削りきった。

 戦闘終了。戦いの様子を呆然と眺めていたエナの元に、髪をかきあげながら純白の少女がゆっくりと近付いてきた。

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