第10話 神々の黄昏
翌日、学校から帰った優美は『Grow World Online』へとログインした。エナとして、アマテラスとの待ち合わせ場所に向かう。指定された場所は、1層〈ストレチア〉の中央広場から少し離れた位置にあるレストラン。往来する人々の間を縫いながら、時間に遅れないように足早に移動する。
「ここ、だよね…………」
目的地の看板を建物が見つけ立ち止まる。レストランというより大衆居酒屋と言われた方がしっくりくる。一人で入るには勇気が必要な外観だった。
入り口をくぐり、人でごった返す店内を見渡すが待ち合わせている少女の姿は見えない。間に合ったのか、とつっ立っていると、
「いらっしゃいませー。1名様でよろしいですか?」
店員と思しき男性が話し掛けてきた。爽やかな笑顔はエナを一人客だと思っているようだ。生憎と一人で来るには少々勇気が足りない。
「すみません、人と待ち合わせてるんですけど」
「そうでしたか。失礼ですが、お名前を伺っても?」
「え、エナです……」
「あー、いえ。お連れ様のお名前をお願いします」
「あ、アマテラスです……」
名前を聞くなり少々お待ちください、と言って男性店員は奥へと引っ込んでいった。少しして戻ってくると、
「お待たせいたしました。お連れ様はすでにいらしてますので、こちらへどうぞ」
彼の案内で奥の個室へと案内されると、中では純白の女の子が一人で食事をしていた。
「お客様、お連れ様がいらっしゃいましたよ」
「ありがと。やっほー、エナ」
「あ、アマテラス……なんでこんな大衆居酒屋みたいなところを待ち合わせ場所にしたの? 大衆居酒屋なんて入ったこと無いけど」
一礼して去っていく店員に会釈を返し、個室の扉を閉めたエナが開口一番にそう尋ねた。どうせならもっとオシャレな店にしてくれれば良かったのに、と言外に不満を告げる。残念ながら通じておらず笑って流され、そのまま座るように促される。
「何か食べる?」
「それは、まぁ……食べるけど……」
言いつつメニューを手にしたエナは、種類の豊富さと値段の安さに驚いた。割とがっつり系なものから小腹を満たす程度のものまで、なんでもござれの中からそれほど量の無い肉串を選択。注文画面から注文し、運ばれてくるまでの間に話を進める。
「それで、今日行くギルドってどんなところなの?」
「それを説明する前に、昨日できなかった話からするわね。
「うん、そこまでは聞いてる」
「状態異常は麻痺、やけど、毒ぐらいかな。麻痺は実質行動不能、やけどと毒は毎時間ダメージを与える効果があるの。これらはエリクサーっていうアイテムとかで回復するから、覚えておくと良いわ」
分かった? と聞かれ頷いて答える。そのタイミングで注文していた肉串がテーブルに運ばれてきた。
厚く切られた何か分からない肉が四切れずつ串に刺さっている。表面はタレで照っており、滴る肉汁と香ばしい匂いが食欲に訴えかけてくる。
ごくり、と喉を鳴らし、一本手に取る。乙女の恥じらいを捨て、大口を開けてエナは肉にかぶりついた。
「うわっ、おいしいっ! えっ、何これ? どうやったら作れるの!?」
今まで食べたことの無いおいしさに興奮する。正面でしたり顔をするアマテラスも肉串にかぶりつきながら、
「こういうのを作るには料理スキルを上げなきゃいけないのよね~」
「料理スキル……私も取ってみようかな」
「別に止めはしないけど、レベル上げようと思ったら結構面倒くさいよ? 一から上げてくより、元から持ってる人と仲良くなるのが手っ取り早いかも」
などと言っている間に肉串が皿から消える。ゲームの中だから満腹感も擬似的なものだが、幸福感はしっかりと感じることができた。
「さて、それじゃあ行きましょうか」
「はーい」
幸福感でいっぱいになったところで席を立つ。アマテラスが支払いをし、二人は本来の目的地へと向かった。歩きながら、これから訪れるギルドについて説明を受ける。
「ギルドっていうのは会社みたいなものだと思って。ギルドマスターとその人のところに集まったメンバーで構成されるんだけど、勢力の強いギルドは100人以上メンバーがいたりするわね。これから行くところは、このGWOで最大勢力を誇る『神々の黄昏』っていう私の知り合いのギルドよ。ギルマスは結構気の良い奴だから慰謝料は期待して良いわよ。思いっ切りふんだくってやりなさい!」
ぐっ、とアマテラスは右の親指を立てた。この時ばかりは彼女の笑顔が怖かった。
エナも根が良い人なので、慰謝料を請求するにしてもそこまで高い金額は要求しないつもりだった。提案を拒否したら、大丈夫だからとどこから湧いたのか分からない自信で意見を押しつけられた。
その後も断り、押しつけられを繰り返している内に件のギルドの入り口に辿り着いた。精神的疲労を感じ、ぐったりとするエナは建物を見上げた。
最大勢力を誇っている割に小さい建物だった。住居としては立派なものだが、本当にここがギルドの建物なのかどうか怪しく思える。
立ち尽くすエナをほったらかしにして、白髪を揺らす少女は両開きの扉を勢いよく開け放った。突然の乱入者に中にいた人たちが驚くのでは、と考えたが杞憂に終わる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます