第7話 アレキサンダーの追求

 数日後、カールはまた、王太子宮に呼び出された。


 同じように呼び出されたアーライル家の四人の騎士達は、顔見知りだった。ロバートは席を外している。カールは覚悟を決めた。


 レオンは、アーライル家の騎士達の報告のごく一部しか、アレキサンダーに伝えていなかった。芝居の台本には、レオンがアレキサンダーには知らせないほうが良いと判断した報告に基づいた場面が複数ある。


 カール自身、何度もレオンにやめておいた方がいいと言われた。だが、カールはレオンの忠告には従わないことを選んだ。


 芝居は虚構だ。だが、真実があっての虚構だ。

「甘い恋の芝居には、少々の刺激があったほうがいいのさ」

座長もカールの意見に賛同してくれた。


 予想通り、アレキサンダーは台本の一点を指していた。

「ここに書かれていることは本当か」

「はい」

騎士は声を揃えて認めた。


「ここに書かれていることもか」

アレキサンダーはまた別の一点を指していた。

「はい」

「他にもあるのか」

「はい」


 全てを騎士達は、何ら迷いなく肯定した。台本のアレキサンダーが指した箇所はどれも、イサカの町でロバートが経験した危険な場面を参考に、芝居にしたものだ。イサカの町そのものに悪い感情を持たれないよう細心の注意を払った。芝居の中では回数を減らし、控えめな描写にし、黒幕たちを早めに登場させておいた。


「善悪がはっきりしているほうがいい。恋人たちを邪魔する黒幕がいたほうが盛り上がる。黒幕が悪いとしておけば、町の評判には悪い影響はないだろう」

芝居の観客の経験しかないカールにとって、 座長はいろいろと頼りになった。


 座長の渾身の台本であっても、アレキサンダーはこの怒り様である。おそらくロバートは、今までも相当アレキサンダーに心配をかけてきたのだろう。尊い身分の御方だが、カールはアレキサンダーに同情を禁じえなかった。

「ロバートめ、今更ながら、ロバートはロバートだ」


 アレキサンダーの言葉に、事情を知る者達は、全員、ただ黙って頷いた。

「カール、なんとしても興行を成功させろ。王太子宮で、できれば父上をお招きできるくらいに評判になってみせろ。言い逃れできないようにして、ロバートを問い詰めてやる」

「はい、もちろんでございます」


 カールは返答した。台本を読めば、アレキサンダーがこうなるだろうことは予想できていた。台本を全部読んでくださったことに感動を覚えた。


同時に、やはりという思いも強かった。ベンはさすがだと思う。

「あいつ、絶対に王太子様に心配かけそうなことは、一切何も報告してないぞ」

ベンは、ロバートに教わるまで、自分の名前も書けなかった男だ。だが、人を見抜く目は素晴らしかった。


「心配かけないようにしたいんだろうが。秘密にするから、周りは心配になるんだ。ロバートは、どうもそのあたりをわかってない。王太子様も心配だろうなぁ。腹心ってつまりは、一番の部下だろ。王太子様もご苦労なこった」

ベンはそういって豪快に笑った。


 本格的に各地で上演する前に、ロバートに芝居のことを知られたくなかった。あの謙虚すぎるロバートだ。美化した芝居はやめてくれというだろう。流石に恩人に面と向かって禁止された芝居を演じることは、カールにも憚られる。何としても、芝居が成功するまでは隠し通さねばならない。


 成功して、王太子宮で上演したい。あの、自らの功績に鈍感な二人に、自分達が成したことのすばらしさを、いい加減理解させたい。


 その後、ロバートに捕まる前に、さっさと逃げ出す算段が必要だ。あの分では、アレキサンダーがロバートを問い詰めるだろうから、逃げ出す時間はあるだろう。なんとかしてレオンを場に紛れ込ませたら、彼が助けてくれるだろうか。いや、逆に捕まって、レオンの手で、ロバートに献上されてしまうかもしれない。


 アレキサンダーに上演の許可を頂けたのはよかった。だが、カールは生きた心地がしなくなった。

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