第5話  許可願い

「ようやっとですが、おめでとうございます」

カールの正直すぎる言葉を、誰も咎めようとはしなかった。皆、同じ気持ちなのだろう。これで台本を世に出せると思うと、安堵した。


「あぁ。やっとだ。父上も随分喜んでおられた。ローズがこの王太子宮に来て間もないころから、父上はローズをロバートの嫁にと言っていた。念願叶った父上が、一番喜んでおられた気がする」

そう言っているアレキサンダーも笑顔で、心から喜んでいるようだった。


「さようでございますか。乳兄弟の絆とは、随分と強いものですね」

王侯貴族では、乳母が子供を育てる。乳母の子供は乳兄弟と呼ばれるほど、絆の強い家臣になるとは聞いてはいる。商人のカールには実感のない話だった。


「ロバートの母、私の乳母のアリアは、父の乳兄弟だ。父は、すでに亡くなられた兄上様お二人と、アリアの兄二人とアリアで、六人兄弟のようだったと言っていた。六人のうち、たった一人の生き残りとして、ロバートの堅物ぶりを案じる伯父の心境だったそうだ。このままロバートが一生独り身では、死んだあと、兄上達が恐ろしいと、よく言っていた」

「左様でございますか」


 カールには、兄と妹たちがいる。万が一、兄や妹達の身に何かあったら、甥や姪の面倒をみるつもりだ。逆もまた然りだ。自分の身に置き換えてみた。

「それは、陛下もさぞかしお喜びでございましょう」


 兄上達が恐ろしいとおっしゃる国王陛下のお気持ちも、恐れ多いことだが、わかるような気がした。尤も、カールの場合は兄よりも、妹達のほうが恐ろしい。


「つきましては殿下、お喜びのところ一つお願いがございます」

カールは手元の台本を、近くに控える近習に手渡した。


「イサカの町での、アレキサンダー様、ロバート様、ローズ様の御功績をたたえる歌は国の各地で歌われております。出来ましたら、それを芝居として上演したく存じます。劇団も用意いたしました。お手元のそれは、台本にございます。どうか、お目通しいただき、許可を頂きたく存じます」


 近習から受け取った台本をアレキサンダーが開いた。

「あと、申し訳ございません。その中のいくつかの件に関しましては、おそらく、殿下もご存じない件がございます。どうか、ロバート様にはご内密にお願いします。もう、興行の準備は進んでおります。どうか、せめて、収益があがるまで、ロバート様にはなにとぞ、問いただしたりなされませんように、お願いします」


「嘘偽りなければ、許可しよう」

カールの言葉に、アレキサンダーは答え台本をめくり始めた。夢中になり、カールの言葉が耳に入っておられないようだ。

「嘘偽りはございません」

カールの背中を冷や汗が流れていた。嘘偽りがないからこそ、問題なのだ。

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