ダンジョンへ
第23話 混乱
「だめかな」
右に頭をかしげて、上目遣いに見上げてくる様は、今すぐ頷いてしまいそうになるが、セリムは踏みとどまった。
「うーん」
ーーお祖父様、僕はどうしたらいいんでしょうか。
セリムは、正直、混乱していた。
最初はアダリヤのことを、この島の原住民だと思っていた。
うさぎと生活していたことから、孤児だと決めつけて、本土の孤児院に連れて行こうと思っていた。
しかし、その後、彼女には不思議な力があること、人間ではないかもしれないことがわかって、セリムは、この島で守ろうと思っていたところだった。
今のよくわからない状態で、彼女を本土に連れて行く約束をするわけにはいかない。
だからといって、理由が理由だ。断るのも気が引ける。
何より、自分の決断でアダリヤを悲しませたくなかった。
「戻ったらノエルに聞いてみるよ」
「えー、三編み、いいっていうかなぁ」
時間稼ぎにしかならないが、ノエルに相談する時間を作りたかった。
「あ、それにね、パパが、ここに来たとき、困ったことがあれば、黒髪の『コルマール』おじさんを頼りなさいって言ってたの」
コルマール、という言葉で、セリムは息が詰まった。
「セリも黒髪の『コルマール』さんだよね。おじさんじゃないけど」
とっさのことだったが、父ではなくて祖父のことだとわかった。
父は誰かに頼られるようなタイプではない。
「アダリヤは、『コルマール』おじさんを見たことあるの?」
「うん。一度だけ。パパがいなくなって困ってたときに、砂浜で見かけた」
なぜ、祖父は、アダリヤを助けなかったのか。
「困ってたから助けてもらおうと走ったけど、そのままボートに乗って海に出ちゃったの」
アダリヤに気づかなかった?
やはり、人間ではない彼女を、この島に閉じ込めたのか?
「あのとき、追いついていれば、もっと早くパパを探しに行けたのに」
アダリヤの父の失踪と、祖父は、関係があるのではないか。
セリムの知っている祖父と、アダリヤの話の中の祖父が違いすぎて、セリムの頭は、渦を巻くように、ぐちゃぐちゃになった。
あれから、セリムは自分がどうやって山菜を集め、山を降りたのか覚えていない。
夕飯も上の空だった。
アダリヤは、いつもと変わらず無邪気な感じだったが、何を話したかも覚えていない。
ただ、自分はどうしたらいいのか、考えさせてほしかった。
夕飯時からモゾモゾしていたノエルは、アダリヤとうさぎが帰った後、猛烈に喋りだした。
「なー、セリム。俺、すげーもん見つけちゃったぜ」
「そうか」
「なんと、ダンジョン!ダンジョンだぜ?」
「そうか」
ダンジョンというのは、魔物が発生する迷宮のことで、金銀財宝や未知の品が発掘されることで有名である。
この国では、長く戦争をしていた関係で、ダンジョンに人が取られないように鍵をかけていた。
終戦してからは、冒険者たちの主戦場になっている。
ダンジョンで発掘された服や道具は、この国にはみられない特殊なものが多く、高額で取引されるらしい。
「聞いてる?!」
「ああ、ダンジョンだろ」
「いや、あのダンジョンだぜ?」
冒険者になりたかったノエルはダンジョンの存在にテンションが上がっているが、セリムはそれどころではなかった。
「ああ」
返事も上の空になってしまう。
「あー、もう、これだからリア充はっっ。今日はさぞかしお楽しみだったのでしょうな」
「……」
アダリヤとのデートで浮かれていると思われているようだが、今のセリムは否定することすら面倒だった。
「まぁ、いいや。聞き流して。俺が喋りたいだけだから」
「ああ」
だが、ノエルは気にしない。セリムの意見が欲しいわけではなく、だた話したいだけなのだ。
「うさぎちゃんと沿岸を散歩してたら、島の西側に鍵のかかった扉を見つけたわけ」
「僕と島を回ったときは、そんな扉、なかっただろう?」
セリムたちは島への上陸当初、沿岸を歩いて探索していた。
その時は、そんなもの見つからなかった。
「それが、蔦や植物で覆われていて、パッと見わかんねぇんだけど、よーく見ると扉が見えるんだ」
セリムは、あのうさぎの仕業を疑った。うさぎは、そこに何かを隠しているのではないか。
「で、お前なら鍵も開けれるし、ちょっとした魔物なら退治できるだろ。それにうさぎちゃんがいれば、簡単には魔物も寄ってこれない」
うさぎがなんの意図もなく、そんなものを見せるはずがないのだ。
「あれがダンジョンなら、お宝がザクザクかもしれねぇ」
ノエルは既にダンジョンを踏破した気分でいるようだ。
セリムはダンジョン攻略に参加するとは言っていないし、それより考えなければならないことがたくさんあるのだ。
「それに、もしかしたら、じーさんがお前に残したのって、あのダンジョンかも知れねぇし?」
「お祖父様……」
ーーお祖父様。お祖父様の全てとは、何なのですか……。
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