第三話
まっすぐ署に戻ると、今日聞いた話と提出してもらった写真やデータをまとめつつ資料を作る。
「センパーイ。これもう、うちの管轄じゃないですよ。インディ・ジョーンズかラリー・デイリーの出番ですよ」
「残念ながら私たちでなんとかするしかないんだよなあ……」
「いやいや、さすがに無理ですよ。あんなのどうやって逮捕するんですか。っていうか、現代の法律適用されるんですか?」
「さぁ……。まあ、その辺は裁判官の仕事だからこっちは気にしなくていいんじゃない?」
「困るでしょうねえ、担当の裁判官」
「困るだろうねえ」
しばらく二人とも黙り込み、作業と考え事に専念していたが、さすがに疲れた。
ふー、とため息をついて大きく伸びをする。背中がぼきぼきと音を立てた。
「わかりましたよ! 犯人は古代人で、被害者の死因は呪いですよ! ほら、ツタンカーメンみたいな」
半分冗談みたいに、わざとらしく田島が断言した。
かつてエジプトで、ツタンカーメン王の墓を暴いた関係者が次々と不審な死を遂げた。
遺跡になんらかのトラップがあった、謎のガスが発生していた、未知の細菌が生息していた、などなど諸説あるが、未だに真相はわかっておらずファラオの呪いだと語られている。
王墓には「王の眠りを妨げる者に、死はその素早い翼を持って飛びかかる」との文言があったとか。
「あれって原因わかってないじゃないか。それにツタンカーメンだって、刃物持って襲って来たわけじゃないし」
「でもでも。前例があるってことは似たような方法を使えば、他の人にもできるかもしれないですよ。向こうが死の翼だっていうなら、日本にはヤタガラスがいるんですから!」
「なんで張り合うんだよ……」
これが病死だったり、死因が不明だったりすれば、そういうオカルトチックな話にもマッチするのだけど、これは殺人事件だ。
「現状、わからないのは犯人の行方と、どうやって今は骨になってる人物が犯行に及んだか、ってところだな」
「そうですよね。写真で見る限り骨しか残ってないのに、映像ではちゃんと肉と皮もついてます」
「事件当時、この人物はまだ半分ぐらい土に埋まってたはずだ。古い地層で、長い年月が経ってるせいで土も硬い。そう簡単に起き上がれるはずもない。生きてる人間が犯人、ってのが自然だし当然なんだけども、それだとあの3Dモデルの説明がつかない」
「完全にご本人でしたもんね……。考えられるとしたら、あのモデルを作った人が解析データをちょっと無視して犯人に寄せて作った、ってとこでしょうか」
「なんのために? データを触れる人間は限られてる。余計なことをすれば疑われるだけ。それに、研究室のメンバー全員で検証した結果、間違いなくあの骨格を解析して作ったモデルだそうだ。研究室全員がグルじゃないとそんなことはできない」
二人で話すのには、行き詰まった感が否めない。
なにか、新しいとっかかりが欲しい。
ちょうどそこへ、スマホに着信が入った。
「ちょっと来い」
そしてすぐにブッと通話が切れる。
「誰ですか?」
「鑑識の飯田くん」
「うへー、俺あの人苦手なんですよね」
「彼も多分君のこと苦手だよ」
「じゃ、俺コーヒー入れとくんで先輩よろしくです!」
そそくさと給湯室へ向かった田島と別れて、私は苦笑いしながら飯田くんの元へ向かった。
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