第4話 イネの美貌に元景はメロメロ

だが女好きの元景に誤算が生じた。これまでの女は一ヶ月もすれば飽きて捨てていた。しかしイネは違う。元景は一目惚れしてしまったのだ。当然これまで女とは違う扱い方をした。

これほどの女子は日の本、広しと言えどそう手に入るものではない。それほどイネは美しかったのだ。勿論当のイネさえ、その美貌に気づかない。

本人も気づかない美しさ?  それは環境にあった。生まれた時から貧乏で着る物と言ったらお古や男物の兄のお下がりばかり、風呂は川で水浴びすれば完了。家には鏡だってない。いや必要はなかった。見れば惨めな思いをするから見ないようにしていた。顔が綺麗かどうかは二の次、生きるために家族の手伝いをすること。


そんなイネが初めて風呂に入り化粧をして貰った。当の本人でさえ鏡に映った自分が誰か分からないが綺麗な人もいるんだなと思った。化粧を手伝った者たちは綺麗になったイネを見て驚いたそうだ。勿論一番驚いたのは元景だ。原石が磨かれてその宝石の美しさを表したのだ。まさに宝石の輝き元景はその宝石を大事に扱うのは当然だろう。


イネの言う事なら何でも願いを聞いてくれた。イネも戸惑った。イネは買われた身、あらがう事は許されない。毎日に弄ばれると思っていた。しかし報酬は貰っているし例え奴隷のように扱われようと我慢するしかないと思っていた。それが何故か大事にされている。

イネは少しずつだが元影が何故こんなに女に夢中になったのか分かって来た。それは元影の本妻、お糸の方様は体が弱く妻の勤めすら出来ない体。つい女に走ったのも頷ける。イネはどうせ捨てた命と、一生懸命に尽くした。元影だけでなく奥様に申し訳ないと、こちらも一生懸命に看病した。お糸の方も最初は妻の座を奪われるのではないかと辛く当たったが、その優しさに触れ自分の妹のように可愛がった。元影も我が妻に認められるとはたいしたものだと益々可愛がるようになっていった。可愛がって貰うのは嬉しいが優しいイネは奥方に気を使う。私が可愛がられた分奥方は辛い思いをするではないかとイネは奥方の事を第一にお考え下さいと元影を諫めた。寝たきりの奥方は楽しみもない、朝から晩までほとんど布団の中、楽しみはたまに戸を開け外の庭を眺める程度。そこでイネは考えた。

イネが人身御供として乗せられた箱を思い出した。朝倉家に仕える者達に例の箱に改良を頼んだ。なにしろイネは殿にもお糸の方様にも可愛がられている。自然とイネにも一目置くようになった。イネの頼みならとなんでもしてくれた。此処に来た頃は身分的には最下位。ところが元景に可愛がられた途端、待遇は一変した。いきなり元景、お糸の方様に継ぐ第三位の地位になったのだ。


つづく

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