第11話『朋子のバースデー』
「ハッピーバースデイトゥーユー♪」
皆の合唱と弾けるクラッカーの音。バースデイケーキの上に並んだロウソクの火を、フーッと吹き消す。今日は私の誕生日(都合の良い事に日曜日でもある)。パーティー会場は私の家。来賓は同級生の川中さんに白坂さんと横瀬さん、倉田さんと太田さんにもお越し頂いた。
「姉ちゃん、誕生日おめでとう!」
弟達(健流と静流)も、今日はお客さんの前で猫かぶっているのか、ギャーギャー騒がないでいてくれるのがありがたい。お願いだから、皆の前では大人しくしていてよね…。
「お姉ちゃん、誕生日おめでとう♪」
妹の朋美は中学2年生。いつも弟の面倒を見たり家事を手伝ったりと、良い子でいてくれるから本当に助かる。弟二人にも、少しは見習って欲しいもんだ。
「皆、ありがとう~」
プレゼントを受け取りながら、皆にお礼を言う。何だかこういうのって照れるなぁ~。岡と深山もありがとう…って、え!?
「城ヶ崎さん、誕生日おめでとう!」
呼んでいなかったはずの岡と深山が、いつの間にか皆に混じっていた。本当に、いつの間に入り込んだんだ?
「朋子、そちらの人は?学校のお友達かな?」
お父さんもお母さんも不思議そうな顔をしている。ちょっとちょっと、何でこの二人がウチに来てるのよ?
「初めまして、朋子さんにはいつもお世話になっています。僕は岡隆雄と申します」
そう言って、岡は一礼した。続けて深山も、
「朋子さんのお父さんですね。初めまして、深山楓と申します」
コイツら、一丁前に礼儀を弁えているようなしゃべり方をしているけど、何なのよ?何で呼んでもいないのにウチにいるの?
「ちょっとちょっと、どうしてウチにいるんですか?二人とも呼んでないでしょ?」
小声で岡と深山に言うと、
「呼ばれてないけど『来るな』とも言われてないよ。水くさいじゃないか、城ヶ崎さん。俺達同じ部活に所属している先輩と後輩だよ?ちゃんと誕生日ぐらい、お祝いさせてよ」
と岡は言う。そして深山も
「まぁまぁ、おめでたい日に野暮な事は言わないでよ。あ、コレ、俺からのプレゼントね」
そう言ってプレゼントを渡される。しくじったか…。岡が私の個人情報を握っているのは分っていたし、誕生日も私ん家の住所も分っていただろうからなぁ…。
でも、さすがに面と向かって『来るな』とは言えんからなぁ…。まぁ、来ちゃったもんは仕方が無いか。今日はウチの両親もいるから、変に羽目を外すような事にはならんだろう…と思う。思いたい。そう願う。
「ねぇねぇ城ヶ崎さん、プレゼント開けてみて~。きっと気に入ってくれると思うよ♪」
倉田さんに促され、皆からもらったプレゼントの開封の儀を執り行う事に。皆一体何を持ってきてくれたんだろう?
「あ、これ可愛いね~♪」
倉田さんからのプレゼントは、可愛い猫の雑貨だった。以前雑談した時に、私は猫が好きだって話した事を覚えていてくれたんだろう。他の人のは何だろな?
「あ、これはスカートか。私の好きな感じのデザインね~♪」
川中さんからのプレゼントは、デニム生地で落ち着いたデザインのスカートだった。こういうシンプルなデザインの服が私の好みなんだよなぁ~。優等生の白坂さんからは図書カード、横瀬さんからは私好みのパーカー、太田さんからはエプロンを頂いた。皆、私の好みを分かってくれているようで嬉しい。
しかし…、岡からもらったプレゼントは何なんだ?そんなに大きな箱じゃないけど、手に取るとズッシリとした重みを感じる。ちょっとドキドキしながら開けてみると…、
「あ、包丁だ!」
何が入っているのかと思ったら、出てきたのは出刃包丁だった。どうりで、ズッシリくると思ったわ。
「城ヶ崎さん、料理をよく作るって言ってたからね。それ、ちゃんと左利き用のヤツだよ」
確かに、岡の言う通り、左利き用の刃になっている。家族で左利きなのは私だけなんで、ウチにある包丁は全部普通の右利き用のヤツなんだよなぁ~。これは地味に嬉しいプレゼントだ。
んで、深山のプレゼントは何だろう?岡のとは対照的に、やけに軽い箱だけど。
「…ん?ペンダント?」
深山からのプレゼントは、オープンハートのペンダントだった。何か、こういうのを持ってくるって、深山らしいなぁ~…とか思ったら、これってティファニーのヤツじゃん!?高校生が、後輩の誕生日プレゼントにティファニーって…。
「…あの~、これって結構高いんじゃないんですか?」
いくらなんでも、こういうのをもらうのは申し訳無いような気がするんだけど、深山は全然気にしていないようで、
「ん?プレゼントの値段なんか気にしないでよ。日頃部活を頑張ってくれている事に対するお礼みたいなものだから」
なんて澄ました顔で言っている。まぁ、深山の家が金持ちなのは知っとるけど、だからといって、こういうプレゼントをもらっちゃうとなぁ~。パーティーに受け入れざるを得ない気持ちになってくるじゃないの…。
ケーキを切り分け、皆に配る。岡と深山が飛び入り参加した分、ケーキの取り分が小さくなってしまった。
「このケーキ、手作り?美味しいね~」
ケーキを食べた深山が見え透いたお世辞を言うが、実はこのケーキ、私の手作りだったりする。ウチのお母さん、炊事洗濯掃除といった、家事全般が苦手なんだよなぁ~。外ではキャリアウーマンとしてバリバリ働いているらしいけど、家にいる時は完全にズボラ主婦。そんな訳で、家事全般は私と朋美が役割分担してこなしている。
今日も私の誕生日だというのに、ケーキだけじゃなく、料理の仕込みはほとんど私がやったのだ。朋美も手伝ってくれたけど、まだまだ全てを任せられる程じゃぁないからなぁ~。
「朋子~、お料理出して良かとね~?」
そんな事を考えていたら、キッチンからお母さんの声が。料理を運ぶぐらいは心配いらんだろうけど、一応様子を見に行くか。
キッチンに行くと予想通りというか、お母さんはどの皿から運べば良いのか分からず、ワタワタしていた。
「お母さん、ここに並べてある順番に出せば良いからね。最初はサラダ、次に唐揚げとポテトフライ、最後にパンとシチューね」
「あ、本当だ~。ちゃんと順番に並べとっとね~」
まぁこんな事もあろうかと、お母さんが慌てないで済むように、事前のセッティングは万全にしてあるから大丈夫だろう。
皆でワイワイおしゃべりしながら料理を食べる。ガールズトークに花が咲くってなもんだ。岡も深山も場違いなんだよ。
「この唐揚げ、美味しいネ~。味付け、何使ってるの?」
倉田さんが美味しそうに唐揚げを頬張りながら聞いて来た。
「醤油と味醂、おろし生姜とおろしニンニク、後はクレイジーソルトも使ってるよ」
「へぇ~、そうなんだぁ。今度ウチでも真似してみようかな~」
揚げ物は私の得意料理。てゆーか、実際には大した手間はかからないんだよね。材料を仕込んだら熱した油に放り込むだけだから、それ程難しい料理じゃないし。それでも好評を得ているのは嬉しいかな。
「これって城ヶ崎さんの手料理なの?お店で食べるより美味しく感じるね」
岡が見え透いたお世辞を言うが、華麗にスルーする。アンタらはとりあえず、大人しくしてくれればそれで良い。
「料理はたくさん作ってあるから、皆んなジャンジャン食べてね〜」
予め料理は余分に仕込んでおいたんだけど、岡と深山が来たのは計算外だったなぁ〜。多分丁度無くなるぐらいなんじゃないかな?まぁ、足りなくなる事は無いだろうし、もし足りなくなったらピザでも頼めば良いだろう。
「そういやコレ、ウチの母親から持って行けって持たされたんだよ」
岡がそう言って、風呂敷包みを差し出した。何が入っているんだろう?岡のお母さんからってのは気になるけど、さすがに変なものは寄越さないだろう。
「うわ、美味しそう〜」
風呂敷包みを開くと、中にはタッパーに入れられた煮物が入っていた。人参、牛蒡、蒟蒻に椎茸、里芋と鶏肉も入っている。私、和食はそれ程レパートリーが無いし、結構手間が掛かるイメージがあるんで、普段あまり作らないんだよなぁ〜。
「ウチの母親、こういうの得意だから。今日は後輩のお誕生日会に行くって言ったら、余分に作ってくれたんだよ」
岡はそう言って、煮物をヒョイっと一口つまむ。皆んなも、このタイミングで和食が出る事は予想外だっただろうし、岡が料理を持って来た事も予想外だっただろう。それでも皆んな、美味しい美味しいと言いながら食べている。
こういう手土産まで持って来るとは意外だったなぁ〜。岡にしては上出来だろう。まぁ、岡の手柄ではなく、正確には岡のお母さんのお手柄なんだけど。
「何か、気を遣ってもらったみたいでスミマセンって、お母さんに伝えて下さい」
私がそう言うと、
「あぁ、気にしないで良いよ。ウチの母親、こういうの好きでやってるから」
岡はそう、事も無げに言う。何だかちょっと、申し訳ないかも。客として呼んでいない岡と深山だけど、ちゃんとプレゼントも用意してくれているし、こうして手土産まで用意してくれている。私が勝手に、変に警戒していただけかもしらんな。
考えてみれば、日頃突拍子も無い行動を取ったり、諜報部なんて訳の分からん部活をやっていたりするけど、二人とも単なる高校生なんだよなぁ〜。必要以上に警戒する事は無かったかもしらんね。
もうすっかり場に馴染んだ岡と深山は、弟二人を相手にゲームで遊んでいる。健流も静流も、お兄ちゃんが出来たみたいで喜んでいるみたいだ。姉である私と朋美じゃ、遊び相手としては物足りんかっただろうしね。
「隆雄兄ちゃん、今の技どうやって出したの?」
健流がそう聞くと、
「ん?今のならマニュアルに載っているヤツだよ。ホラ、このコマンド」
岡は澄ました顔で答える。
「スゲェー!そんな難しい技出せるの?」
興奮気味に静流が質問すると、
「隆雄はゲーム得意だからね。マニュアル1回読めば、どんなコマンドもすぐ覚えちゃうよ」
深山がそう答えた。やっぱ、男の子は男の子同士で遊んでいるのが良いんだろう。私はあまり、弟達の遊び相手になってあげられんからなぁ〜。妹の朋美ならともかく、弟達とは趣味が合わんし。まぁ、弟達は岡と深山に任せて、私はガールズトークに花を咲かせよう。
「何だかこうして、学校以外で集まると不思議な感じがするね〜。日常生活に学校の人が入ると新鮮な感じがする」
何の気なしに、私がそう言うと、
「本当だよね〜。もっとたくさん、こういう機会を作りたいよね〜」
川中さんが、そう言って頷いている。そして倉田さんは、
「学校での顔しか知らない人もいるしネ〜。あの人達みたいに」
小声でそう言って、弟達と遊んでいる岡と深山の方を、こっそり指差した。皆んな頷いて、ヒソヒソと笑い声を漏らす。
ホント、岡と深山の日常を垣間見られたようで、何か面白い。この二人も、自分の家にいる時はこんな感じなんだろうか?あ、そういや岡と深山の家族の話は聞いたこと無かったな。せっかくだから、二人の話も聞いてみるかな?
「そういや聞いてなかったですけど、お二人にも兄弟っているんですか?」
そう聞いてみたら、深山が
「俺は姉さんが二人いるよ。二人とも大学生。んで、隆雄は一人っ子」
と、そう答えた。すると岡が、弟とのゲームは続けながら、
「ウチはちょっとややこしくてね〜。両親と血の繋がりは無いんだよ」
と、サラッとヘヴィーな事を言った。それ、マジ話ですかい?
「今一緒に暮らしている戸籍上の両親は、伯父さん夫婦なんだよ。実の両親はその弟夫婦でね。伯父さんの家に子供が産まれないからって、俺が養子に入ったの。ウチは結構由緒のある呉服屋だから、跡取りが欲しかったんだってさ」
岡はそう、澄ました顔で言ったけど、何か複雑な家庭なんだなぁ〜。意外な話を聞いてビックリした。
「だから戸籍上は従兄弟になるけど、血の繋がった兄弟はいるよ。2つ上の兄貴と3つ下の弟。たまにしか会わないけどね」
岡はそう言って、ゲームのコントローラーを置いた。ゲーム画面ではしっかり、岡のキャラが勝利ポーズを決めている。
いつも飄々としている岡だけど、複雑な家族関係を抱えていたんだなぁ〜。何だか場の空気がしんみりとしてきちゃった。
「まぁまぁ、今日はおめでたい日なんだから、湿っぽい話はこの辺で終わりにしよう。それじゃあ、とっておきの秘技を披露しようかな」
深山がそう言って、何かポケットからトランプを取り出した。皆、深山に注目する。
箱から取り出したトランプをマジシャンみたいに、鮮やかな手つきでシャッフルする深山。まさか、ヤツにこんな特技があるとは思わなかった。
念入りにシャッフルしたトランプを扇の様に広げて、
「それじゃあ城ヶ崎さん、好きなカードを一枚引いてみて。そのカードは俺には見せないで、他の皆に見せてあげてね」
そう言って深山は顔を背けて目を閉じる。言われた通りに一枚引くと、ハートの7だった。このカードの図柄を当てるんかな?
「皆が確認したら、またこの束に突っ込んでね。場所はどこでも良いから」
言われた通りにカードを束に突っ込む。さてさて、これからどんなマジックを見せてくれるんだろうか?
深山はまた、鮮やかな手つきでカードをシャッフルした。さっきより念入りにシャッフルしている。
「カードマジックではどのカードが選ばれたかを当てるのがセオリーだよね。でも、ただ言い当てるだけじゃつまらない。先に言っちゃうと、今俺が持ってるカードの束には城ヶ崎さんが引いたカードは入ってなかったりする」
深山はそう言って、テーブルの上にカードを表向きに並べたんだけど、確かに私が引いたハートの7は入ってなかった。何でだ?全く目を離しとらんかったし、私は確かに、深山が持つカードの束に突っ込んでやった。
「さて、城ヶ崎さんが引いたカードはどこに行ったのかな?それは意外な場所にあったりしてね」
深山がそう言って、指パッチンをした。そして岡が着ているジャケットの胸ポケットに手を入れると…、さっき私が引いたハートの7を取り出した。え?何をどうやったのか、全然分からないんですけど?カードがワープした?そんな馬鹿な。
「凄―い!どうやったの?全然タネが分からない!」
倉田さんが興奮気味に問い掛けた。他の皆も、深山のマジックに驚いて拍手をしている。
「いや〜、深山君凄いねぇ?鮮やか過ぎてビックリしたよ〜。ちょっとした余興レベルを超えているじゃないか」
お父さんもコレには感心して拍手している。深山の意外な特技で、場の空気が良い方向に変わって良かったな。
「いえいえ、この程度は大したことないですよ。ウチの父親もマジックが好きで、よくホームパーティーなんかで一緒にやっています」
そう言って謙遜する深山。ホント、意外な特技を持っているもんだなぁ〜。
「深山君のお父さんもマジックが好きなのか…。ひょっとして…、お父さんは会社経営していない?」
お父さんが何故か、深山のお父さんについて質問してきた。何だろう?
「はい。ミヤマグループっていういくつかの系列企業を抱えていまして、その会長職ですけど、ご存知でしょうか」
深山がそう言うと、お父さんの顔色がサーっと変わった。
「ご存知も何も、私が勤めている会社がそのミヤマグループの一社だよ!?えっ?そうなの!?会長のご子息!?」
はぁ!?ウチのお父さん、深山のお父さんの会社で働いてたの!?そんなん初耳なんですけど!?
「ちょ、ちょっと母さん、もっと何かアレ、ジュースとか沢山お出しして!後ピザもデリバリー頼んで!」
何かお父さん、軽く取り乱してしまった。流石にこれはキツい…。苦笑いするしかないや…。
「まぁまぁ、お父さん落ち着いて下さい。父の仕事に僕は全く関与していませんから。あくまで僕は、学校で朋子さんの先輩ってだけですので、どうか必要以上にお気を遣わないで下さい」
深山はそう言うけど、お父さん完全に舞い上がっちゃってるなぁ〜。過剰な接待したって意味ないでしょうに…。
するとお母さんが、
「お父さん、しゃんとせんね!みっともなかよ!…スミマセンねぇ、ウチの人せからしくて。それで深山君、ウチの朋子とどげんね?」
ちょ、ちょっと、お母さんまで何言うとるの!?どげんもこげんも無いわ!
「ちょっと、お母さんまで何言うとんの!?今お父さんの仕事には関係無いって言ったでしょ!」
頭の中を『政略結婚』なんて言葉がよぎってしまった。冗談じゃない。顔が熱くなる。
しかし深山は全く動揺もせず、
「僕も朋子さんも、まだ高校生ですから。先輩と後輩として、程良い距離感のお付き合いをさせて頂いてますよ」
なんて言っとる。まぁ、無難な返しなんじゃなかろうか。正直ホッとした。
しかし…、まさかウチのお父さん、深山のお父さんの会社で働いていたとはねぇ…。深山はこんな感じで、親の仕事を盾にするような性格じゃなさそうだけど、何か気不味い事や面倒な話にならんかったらいいんだけどねぇ…。
途中、予想外のハプニングがあったものの、岡もフォローに回ってくれたお陰で、どうにか軌道修正する事が出来た。本当に、とんでもない爆弾抱えて来てくれたもんだ。
でも、川中さん達に冷やかされるネタを提供してしまったのは少し気掛かりだ。まさか、お母さんがあんな事を言い出すとは思わなかったからなぁ〜。
「今日は何か色々あり過ぎたけど、楽しかったね。本当に、学校以外の時間で会うと、新しい発見がある…みたいな?」
川中さんは、そう言って笑っている。
すると、日頃から発言の少ない白坂さんが、
「高校生という立場で不純異性交遊は厳禁…。城ヶ崎さん、くれぐれも気を付けてね…」
と、真面目な顔で言って、私の手を握ってきた。だから、深山とはそんな関係じゃないのよ〜。
「う、うん、それは私も分かってるから。そういう関係にはならないからね」
続け様に横瀬さんが私の耳元に、
「玉の輿チャ〜ンス!なんてね。冗談抜きで、真剣に考えてみるのもアリかもよ?」
なんて囁かれてしまった。うぅ…、これは、しばらく話のネタにされるのを覚悟しておいた方がいいかもしれない…。
「ま、まぁ、とにかく、今日は皆来てくれてありがとうね。とっても楽しい誕生日パーティーになったわ」
そう言ったものの、笑顔が引き攣ってしまう。ホント、一生忘れられない誕生日になりそうだわ。
玄関で帰る皆をお見送りするけど、いつの間にか岡と深山がいなくなっている事に気付いた。リビングには居なかったし靴も無いし、先に帰ったんかな?あの二人、毎度の事だけど突然現れて突然消える、正に神出鬼没だなぁ。
さてさて、お客さんも皆帰った事だし、後片付けをチャチャっとやっちゃおう。…そう思ったんだけど、朋美が
「お姉ちゃん今日は誕生日なんだから、後片付けぐらい私達に任せて。自分の部屋でゆっくりしとっていいよ」
なんて言ってきた。健流も静流も珍しく手伝うなんて言ってるし、今日ぐらいはお言葉に甘えちゃって良いかな?
「それじゃあ、後はお願いしちゃおうかな?健流も静流も、朋美の言う事ちゃんと聞くんよ?」
まぁ、朋美が見とったら大丈夫だろうし、お父さんとお母さんも居るから、危ない事はやらないだろう。後の事は任せて、私は自分の部屋に戻る事にする。
…と思ったら、私の部屋から岡と深山が出て来てビックリした。二人とも手に靴を持って、まるで泥棒みたいに。
「…二人とも、帰ったんじゃなかったんですか?そこ、私の部屋なんですけど?」
ちょっと待て。状況が理解出来ない。一体何が起こっているんだ?
すると岡が唐突に、
「命の輝き!明日への活力!」
なんて言った。続けて深山も、
「全ての愛する人へ、感謝の意を込めて共に叫ぼう!」
と言う。何を言ってるんだ?この二人は。全く意味が分からない。
そして二人は声を揃えてこう言った。
「純白こそ至高!」
はぁ?一体何の話をしているんだ?…って、何かイヤな予感がして私の部屋に入ると、床一面に私のパンツが整然と並べられていた!これはアレだ、下着泥棒が逮捕された時に、証拠品として押収されたパンツが体育館でブルーシートの上に並べられるアレだ!
「じゃ、そういう事で」
二人はそう言って、脱兎の如く逃げ出した。ちょっと待たんかい!!
「岡!深山!アンタら何してくれてんのよ!!」
もう、信じられない!悪ふざけなんてレベルじゃないでしょ!?私のパンツを並べて、一体何やってたのよ!?
やっぱり、あの二人に気を許したのは間違いだったか…。こんなサプライズはいらんわ。私の人生で最悪の誕生日になりそうだ。岡も深山も大馬鹿野郎だ!
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