雨の日の嘘
土蛇 尚
もう少しだけ
傘も潰れそうな大雨。学校の帰りに急に降り出して、二人で近くにあった電話ボックスに避難した。もっとなんかあるだろって思うけど、本当にすごい雨でそこ以外なかった。僕は君に手を引かれて中に入る。電話ボックスなんて初めて入るから少しドキドキする。
「ねぇこれどうやって使うの?」
タオルを頭に乗っけて垂れ耳うさぎみたいになった君が言う。ぼくたち今時の中学生だから公衆電話の使い方なんて知らない。
「え?僕もわかんないよ。使った事ないし」
「検索してよ」
「君も僕も、今スマホ使えないんじゃん。僕のは家だし君はさっき充電が無くなったんでしょ」
土砂降りの雨。四角い透明な壁と屋根の箱に一緒に入って『公衆電話』を使おうとする。重い緑の受話器を持ち上げても何も起こらない。家に連絡しないといけないのに。
「なんでスマホ持ってきてないわけ?」
君は僕といる時はいつも少し怒ってる気がする。他の人の時はそうじゃないのに。だから僕も少し棘が出る。
「そっちこそなんで充電切れなんだよ。さっきまでつついてたじゃん。何か調べてたんじゃないの。すげぇタイミングで充電なくなるじゃん」
狭い電話ボックス、その足元にある側溝に雨水が滝のように飲み込まれていってる。透明な壁に雨粒がぶつかった先から黒い軌跡を描いていく。それが少し綺麗だと思った。
その雨粒が車のライトに照らされてキラキラと光る。しかもそれが君の背景になっているものだからいけない。自分達を足止めする雨もいつも少し怒ってるところも何もかも全部君を良い様に魅せる。とても悪い事だ。
「うちの事は良いから帰ればいいじゃん。家ここから遠くないでしょ」
「そう言う訳にはいかないじゃん。君はどうすんの?」
「ここで雨宿りする。うちの中学、無駄に厳しいし。コンビニとか怒られそうだし」
_____________
僕は緑の公衆電話を見る。多分お金を入れたら電話をかけれるはず。そうしたらこの子は、家に電話をして迎えに来てもらうはずだ。でももう少しこのままでいいかもしれない。この箱に二人で避難してきてまだ3分しか経ってない。体感は2時間くらいだけど。
「なんか話してよ」
濡れた髪を拭きながら話しかけてきた。
「え?」
「だからスマホも充電切れてるし、雨は止まないしつまんないじゃん。だからなんか話して」
「じゃあ……雨粒の輪郭って黒いじゃん。僕はその黒が黒の中でも一番好きなんだけど、君はどう思う?」
「なにそれ、意味わかんない」
そう言って君が笑う。だったらもう少し黙っていてもいいかもしれない。
まだ雨は、全然止みそうにない。
____________
履歴
今日
16:28マスク 外す タイミング
16:47告白 やり方 失敗しない
16:49天気 今日
16:56公衆電話 使い方
私は最後にスマホで検索していた事を思い出す。公衆電話の使い方なんて簡単。受話器を持ち上げる。お金を入れる。番号にかける。それだけ。
彼が、『彼が』なんて言葉を想うだけでもドキっとするのだけど、彼が緑の受話器を持ち上げた時、白いワイシャツが腕にぴったりと張り付いてるのに目が行ってしまった。その時お金を入れるんだよって言えれば良かったのだけど、私はもう少しここに居たいと思った。
終わり
雨の日の嘘 土蛇 尚 @tutihebi_nao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます