最終話 黒衣の執行人と仲間たち

「アデルさん。本当にありがとうございました」


 ルーンガイアの国境にある関所にて。


 元いた国に戻ろうとしている俺たちを、クレスはわざわざ見送りに出てくれた。


 ヴァリアスの一件があってから、俺たちはルーンガイアの国内にひと月ほど留まっていたが、今日こうして元いた国へと帰還することになった。


 元の国を空けてしばらく経つし、執行人の仕事の件もある。


 かつての依頼人であるリリーナなどからも手紙で近況の報告は受けていたが、一度戻って状況を確認しておいた方が良いだろうと、メイアやテティとも話し合った結果だった。


 今回は一時的にルーンガイアに執行人としての拠点を移していたが、結果的にはそれが良かったと思う。


 フランとも協力してヴァリアスから《魔晶石》を渡された人物たちを割り出し、残党を狩るような形で事態を収束に向かわせることができたためだ。


「皆さんがいなくなってしまうのは凄く寂しいことですが、きっとまたルーンガイアの街を訪れてくださいね。アデルさんたちでしたら、いつでも大歓迎ですから!」

「そうだな。でも、またどうせすぐに会えるんだろう?」

「ふふ。確かにそうですね。きっとまた、すぐにお会いできると思います。次は私の方から皆さんの国に伺いますね」


 クレスはそう言って柔らかく微笑む。


 実は先日、ゼイオス王に出国の挨拶に伺った際、言われたことがある。


 今後、俺たちが元いた国――共和国とルーンガイアとで、積極的な国交を図らないかという打診だった。


 その話を聞いたクレスが親善大使に名乗りを上げたため、近々俺たちの国に訪れることになっているのだ。


 それでも名残は惜しいようで、皆がそれぞれの挨拶を交わす。


「クレス様、本当にありがとうございました。私、ルーンガイアでのこと、忘れません」

「わたしも。とってもいい国だった。次は王女様ともっと色んな所を巡ってみたい」

「王女様、王宮の料理、美味しかったッス。また機会があればご馳走になりたいッス」

「あれ? フラン、前に王宮の料理、口に合わないとか言ってなかった?」

「わわっ! テティ、そこは内緒ッスよ!」


 自然と笑い声が起こり、ルーンガイアでの最後の時間が過ぎていく。


「それじゃあクレス、また。いただいた看板、ありがたく使わせてもらうよ」

「はい。アデルさん。また近い内に、必ず」


 そうやって言葉を交わし、俺はクレスが彫ってくれた《銀の林檎亭》の看板が入っている麻袋を抱えて歩き出す。


「アデルさん」


 メイア、テティ、フランも俺に続き、関所を出ようとしたところ、クレスから声をかけられた。


「やっぱりあの日、アデルさんに依頼をして良かったと思っています。改めて、本当にありがとうございました」


   ***


「さて、と」


 関所を出てからしばらく歩き。


「そろそろ出てきたらどうだ?」


 俺が後ろを振り返ると、木の陰に隠れていたシシリーが姿を見せる。


「あはは。やっぱり執行人サンには敵わないな。ずっとバレてたの?」


 大きめの魔女帽子の奥に照れ隠しの笑いを浮かべながら、シシリーは俺の元へと近づいてきた。


「どうしたんだ? 何か俺に用事か?」

「んー? 執行人サンに改めてお礼を、と思ってね」

「いや、お礼ならあの時、散々言ってくれたじゃないか」


 ヴァリアスを倒した後のことだ。

 自分の復讐を果たしてくれてありがとうと、シシリーは何度も頭を下げてくれた。


 俺が単に嫌いな奴を執行しただけだと告げると、「やっぱり執行人サンはお人好し」という言葉をもらうことになったのだが。


「まだ執行人サンに渡せていないものがあると思ってね」

「渡せていないもの?」

「ええ。そこの情報屋サンから聞いたわ。執行人サンに依頼する時は、いつも決められた枚数の硬貨を渡して依頼をする決まりなんですってね」

「ああ……」


 そう言えば、ヴァリアスを執行する前、シシリーは俺に復讐を託すと言っていた。

 その件について言っているのだろうか。


「いや、別に今更お金を貰おうとは思わないが」

「ううん。私はこういうのはちゃんとする主義なの。でも、生憎今は手持ちが無くてね」

「……」


 それなら何で今言ってきたんだと思ったが、すぐにシシリーの意図を察する。


「だからね、えっと……。あの時の依頼の分、執行人サンの酒場で働かせてくれないかなって。私行く宛も無くなっちゃったし」

「ああ、なるほど」


 やはり思った通りの言葉がシシリーから発せられた。


 俺としての言葉は決まっている。


 皆とも視線を交わすが、考えは一緒のようだった。


「駄目、かしら……?」


 随分としおらしい上目遣いでシシリーが見上げてくる。

 そんなシシリーに向けて、俺は手を差し出した。


「いや、これからまだまだ執行しなくちゃいけない輩はいるだろうからな。よろしく頼むよ」


 俺がそう伝えると、シシリーは嬉しそうに俺の手を取った。



 そうして、俺たちは元いた場所へと向けて歩き出した。


 歩きながら、俺は林檎を取り出して齧る。



 次はどんな話が待っているだろうかと、思いを巡らせながら――。



《完》




==========

●読者の皆様へ


これにて完結となります!

ここまでお読みいただき、本当に本当にありがとうございました。

皆様に支えられ、この作品を書き続けることができました。


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【9/5】小説第②巻発売|黒衣の執行人は全てを刈り取る~謎ジョブ《執行人》は悪人のスキルを無限に徴収できる最強ジョブでした。【剣聖】も【勇者】も【聖者】も弱者を虐げるなら全て敵です 天池のぞむ@6作品商業化 @amaikenozomu

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