第82話 【SIDE:メイア&テティ】二人の少女の場合②


 テティの誘導で発見することができた白い蛇。

 メイアは身を低くして、その蛇を見失わないようにと感覚を研ぎ澄ませる。


「よし、私が行きます」


 以前調べた情報によれば、アストラピアスは極めて珍しいとされる蛇だ。

 その姿を見ることもなく生涯を終える人間が大半で、都市伝説だと囁かれるほどの珍種である。


 リックの母親のために、絶対に逃すことなく捕獲してみせるとメイアは決意し、シシリーから受け取った小瓶を慎重に取り出した。


 そして、《気配遮断》のジョブスキルを使用し、冷静に狙いを定める。奇しくもそれは、メイアが暗殺者一族で培ってきた素質だった。


「――ッ」


 メイアが一呼吸入れた後、アストラピアスに向けて疾駆する。


 虚を突いたことで対象に悟られることなく接近し、素早く小瓶の中にあった赤い液体を振りかけた。


「ハッ――!」


 スカートの中から短剣を取り出して、一閃――。


 その攻撃は的確にアストラピアスを捕らえ、両断することに成功した。


「第一段階はクリア。でも、これで終わりじゃないはず」


 メイアは呟き、油断なく短剣を構える。

 すると、切ったアストラピアスから気体が立ち上り、結集していく。


 そこに現れたのは白い大蛇だった。


「これが、具象化したアストラピアスの呪い……」

「メイアっ! わたしも!」


 藪からテティが飛び出て、瞬時に【神狼(ヴァナルガンド)】のジョブを発動する。

 銀色に輝く光が炎のように揺らめき、小柄なテティの体を包み込んでいく。


 ――フシュルルルルル。


 そうして立ちはだかった二人を敵と定めたのか、白い大蛇は舌を伸ばしながら威嚇してみせた。


「テティちゃん、気をつけて。この圧、ヴァンダール王宮で戦った時のブラックドラゴンと同じかそれ以上です」


 メイアは短剣を交差させて、腰を落とす。

 そして地面を蹴って加速し、蛇の喉元めがけて横薙ぎの一撃を見舞った。


 ――フシュル!


 アストラピアスは身を捩るようにしてその攻撃を躱し、そのままメイアに向けて尾撃を放つ。


「くっ!」


 メイアもまたその攻撃を回避して距離を取るが、腕を掠めたアストラピアスの攻撃は直撃した時のことを想像したくないくらいに鋭い一撃である。


「《気配遮断》の能力を使っているのに、対応されている……。やっぱり、シシリーさんの言った通りみたいですね」


 先程の別れ際、シシリーはメイアとテティにアストラピアスと戦う際の注意点について語っていた。


 曰く、アストラピアスという蛇は「舌」が他の生物よりも異常に発達していて、様々な情報を感じ取れるらしい。

 微細な空気の振動や匂いの変化から周囲にいる者の居場所を感知し、反応できるのだとか。


「なら、わたしが注意を惹きつける」


 今度はテティが跳躍し、勢い任せに一撃を叩き込もうとする。

 銀の光を纏い、鋭利な鉤爪を形取ったその攻撃は確かな威力を持っていた。

 が、アストラピアスはテティの攻撃をぬるりとすり抜け、空中で体勢を崩したテティを自身の長い体で締め付ける。


「く、あっ……」

「テティちゃん!」


 メイアが救出に向かおうとするが、アストラピアスは余った尾を振り払うかのように牽制し、寄せ付けまいと妨害した。


 ――シュルルルル。


 アストラピアスはそのままテティの体を締め上げていく。テティは苦悶の表情を浮かべながらも、抵抗し、強引に振りほどこうと試みた。


「こ、の……ぉ!」


 圧倒的な体格差ではあったが、流石にテティも特別なジョブの持ち主だ。アストラピアスの巻き付きを広げ、その窮地を脱することに成功した。


「大丈夫ですか、テティちゃん!?」

「う、ん。でもすごい力……。次に掴まれたら同じようにほどけないかも」


 アデルがいれば、とは二人とも口にしない。


 アストラピアスの脅威が危険度SS級の魔獣に相当するというシシリーの言葉を聞いてもなお、アデルは二人の決意を見て疑いもせずに送り出してくれたのだ。その想いを信じられなくて、何を信じると言えよう。


 メイアとテティはそう心に決めて、再び白い大蛇と対峙する。


「テティちゃん、少しだけ時間を稼いでくれますか?」

「え?」


 メイアは言いつつ、頭に付けたカチューシャを取り外した。そして、そのカチューシャから何かを引き抜くと、それを両手で伸ばし、ピンと一直線に張る。


 それはメイアの髪色のように輝く鉄線だった。


 メイアが鉄線を手に巻き付ける様子を見ながら、テティは頷く。


「分かった。任せるよ、メイア」


 そう言い残してテティは単身、巨大な白蛇に立ち向かった。

 両者の攻防が繰り返される最中、メイアは木々の間を走り回り鉄線を張り巡らせていく。

 テティとアストラピアスを取り囲むようにして張られたのは、鉄線の「檻」である。


 ――フシュル!?


 テティの攻撃を回避し、距離を取ろうとしたアストラピアスが悲鳴を上げた。メイアの張った鉄線に触れて、その身からは赤い鮮血が吹き出したのだ。


「そちらには、行けませんよ」


 いつの間にか接近したメイアに短剣を振られ、アストラピアスは鉄線で囲まれた檻の隅へと追いやられた。


「テティちゃん、今です!」


 メイアの叫びに呼応するかのように、テティが再び跳躍する。

 そのまま、逃げ場を無くした大蛇の頭上から、テティは渾身の一撃を放った。


「これで、終わりだよっ!」


 ――ヒシュッ!?


 まるで大鎚に潰されるかのように、大蛇は地面へとめり込む。


 そしてアストラピアスは長い体をピクピクと痙攣させた後、完全に沈黙して動かなくなった。


「やった! やりました、テティちゃん!」

「うんっ!」


 駆け寄ってきたメイアにテティも手を挙げて応じる。


 そうして二人は見事、アストラピアスの身を手に入れることに成功したのだった。



==========

●あとがき


お読みいただきありがとうございます!

本作「黒衣の執行人は全てを刈り取る」の第②巻が9/5(火)に発売されます。


WEB版から大量の加筆修正を行っており、美麗なイラストの数々をお楽しみいただけます。


ぜひお手にとってお楽しみくださいませ!



ここまでお読みいただきありがとうございます。


・続きが気になる

・面白い

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など思ってくださった方は、このページ下、もしくは目次ページの下にある【★で称える】を押して応援してくださると嬉しいですm(__)m


皆さまに面白いと思っていただけるよう頑張りますので、ぜひよろしくお願いします!

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