第60話 魔人、シシリー・グランドール


「お、おいシシリー! お前、俺のピンチにどこ行ってたんだ! それになんだそのゴーレムは!?」


 銀色のゴーレムに乗って現れた魔導師の少女シシリー。それを見て、勇者イブールが叫ぶ。

 が、当のシシリーはまるで汚物でも見るような目をイブールに向けていた。


「うるさい」

「う、うるさいとは何だ……!」

「黙れって言ってるの。ずっと我慢してたけど、その低能じみた言葉は聞くだけで疲れるんだよ」

「なっ……」


 シシリーの辛辣な言葉を受けてイブールは後退あとずさる。


 ――酒場で会った時とは雰囲気が随分違うな。


 ゴーレムの肩に腰掛けたシシリーは俺の方に笑みを向けてくる。

 外見は幼い少女のようだが、不思議な妖艶ようえんさが感じられた。


「こんにちは、黒衣の執行人サン。改めて、私の名はシシリー・グランドール。さっきのは見事だったよ。マーズの支援魔法がかかっていない聖剣じゃ相手にもならなかったみたいだね」

「……お前は気付いてたんだな。勇者の自慢してた聖剣がマーズの支援魔法によるものだってことを」

「それは、ね。あれに気付かないのはお調子者の勇者と戦士くらいのものだよ。ごめんねマーズ、黙ってて」

「あ、えっと……」


 どうにも調子が狂うな。

 屈強そうなゴーレムを従えているその状況は明らかに異質なのに、シシリーからは明確な敵意が感じられない。


 ――この感じ、マルクの時と似ている……?


 父シャルルを利用して全人類を支配する計画を立てていた魔人――マルク・リシャール。

 シシリーの掴みどころのない印象からはどこか似た雰囲気を感じていた。


「……お前も魔人、か?」

「アハハッ。本当に察しが良いんだね、黒衣の執行人サンは」


 肯定か。

 俺が突きつけた問いに、シシリーは実に楽しそうに笑っていた。


「お褒めいただきどうも……」

「なら、私の目的も予想はつくかな?」

「魔人族の復興、ってところか?」

「そんなところ。といっても、マルクなんかとやり方は違うけどね」


 マルクのことも知っているか……。


 シシリーは勇者の一団に混じって旅をしていたようだが、それも魔人族の復興のため何か狙いがあるのかもしれない。


「今日はご挨拶がてら、黒衣の執行人サンとちょっとだけ戯れようと思ってね」


 そう言ってシシリーはゴーレムの右肩に乗ったままで手を掲げる。

 するとシシリーの手から銀色の粒子が降り注ぎ、地面へと吸い込まれていく。


 そして地面からは5体のゴーレムが現れる。

 色はどれも銀色で、金属製の外殻を持っているようだ。


「なるほど、錬金術か。土壌に含まれる金属を操りゴーレム化したってところだな」

「ご明察♪ それじゃあ戦闘開始といきましょうか」


 シシリーが手を振ると、それに呼応するかのようにゴーレムが低い雄叫びを上げる。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴ。


 ある者は腕をブンブンと振り回し、あるものはガチガチと拳を突き合わせ、俺たちを包囲しながらその距離を詰めてくる。


「アデルさん! 僕が皆さんを強化します! それで――」

「いや、その必要はない」

「え……?」


 俺はマーズを制し、執行人のジョブ能力を発動させる。


==============================

累計執行係数:20,153,106ポイント


執行係数600,000ポイントを消費し、【亜空間操作魔法デジョネーター】の複数展開を実行しますか?

==============================


 承諾――。


 俺が念じると、5体のゴーレムの足元に黒い亀裂が生じた。


 亜空間操作魔法デジョネーターは素早い相手には有効と言い難いが、動きの遅いゴーレムなら十分捉えられる。


 ――ゴォッ!?


 ゴーレムたちは慌てて展開された亜空間から逃れようとするが、やはり遅い。


 ――パシュッ。


 そんな何かが閉じるような音とともに、ゴーレムたちは亜空間へと飲み込まれていった。


「凄いね……。漆黒の大鎌を使わなくてもそんな戦い方ができるなんて」

「それはどうも。ただ、お前も本気を出していないんだろう?」

「どうでしょうね?」


 シシリーはそう言って笑った後、楽しげに頬杖をつきながら俺へと語りかける。


「ねえ、黒衣の執行人サン。私たち、お仲間になれないかしら?」

「仲間? 魔人族のか?」

「そ、アナタと組めたらきっと楽しいと思うの」

「ゴーレムをけしかけておいてよく言うな」

「アハハ。あれは本当に戯れだってば。アナタの力を見たいっていうのもあったけどね」

「……」

「本当はもっとじっくりお話したいところだけど、今日のところは失礼するね。また近い内に」


 シシリーはそう言って、無邪気な子供のようにひらひらと手を振った。


 そして、トプン――と。

 乗っているゴーレムと共に、シシリーはまるで水に飲み込まれるようにして地面へと溶け込んでいく。


「あ、そうそう――」


 体が半分ほど飲み込まれたところで、シシリーは何かを思い出したかのように呟く。


「近々、隣国のルーンガイアのお姫様がアナタの元を訪れると思うから、良くしてあげてね。彼女、凄く良い子だから」

「……」

「それじゃまたお話しましょ、黒衣の執行人サン♪」


 そんな言葉を残すと、すぐにシシリーの姿は地面に飲まれて見えなくなった。




==========

・後書き


シシリーの最後の台詞にあったように、今後は第一部のラストへと繋がっていきます。

きっとお楽しみいただける展開をお届けいたしますので、ぜひ今後もお読みいただければと思いますm(_ _)m

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