第1部4章 王家と黒衣の執行人
第46話 モンスターの変異種と不穏な影
「変なモンスターが出現している?」
「はいッス。アデルさん」
ある日。
情報屋のフランが酒場――《銀の林檎亭》を訪れていた。
フランが持ち込んだ情報は、王都外れの草原で妙なモンスターが発生しているというものだった。
俺はフランに詳しく話すよう促す。
「冒険者協会とかで今ちょっとした話題になるんッスよね。何でも、ジャイアントオークやドレッドワイバーン、ワイルドボアなんかのモンスターの《変異種》が見かけられたって話ッス」
「変異種、ってのは具体的にどんな感じなんだ?」
「全体的に
「……黒い?」
「はいッス。しかもなんだか普段のモンスターより強くなってるんだとか」
フランはメイアが用意した紅茶に口を付けて一つ息をつく。
「ところで、フランは何でその話を俺たちに?」
「……前に、王宮に近づけないって話したの覚えてるッスか?」
「ああ。確か結界が張られてて、王家に認められた人間じゃないと王宮に入ることができなくなってるって言ってたな」
「はいッス。そこで、中が駄目なら外だと思って、フランは王宮に運ばれて来る色んな荷を調べてたんッス」
「王宮に運ばれる荷……。まさかその中にモンスターの変異種が……?」
俺の言葉にフランは黙って頷く。
「何に使われているか、単に調べようとしているだけなのか。それは残念ながら分かんないッス。でも、王家に関わることだから、取り急ぎアデルさんには報告しておこうと思ったッス」
「なるほど、サンキュな」
「いえいえ。アデルさんのためならお安い御用ッスよ」
言って、フランはふにゃりと笑う。
「さて、それじゃフランは行くッス。王家のこと、また何か分かったら報告するッス」
「ああ」
そうしてフランが出ていった後、俺はメイアやテティと今の情報について話し合う。
「しかし、変異種か……。今まで聞いたことが無い話だな」
「王家が関わってるなら、気になるね」
「どうしましょうか、アデル様」
「そうだな……」
フランから聞いた草原はここ《銀の林檎亭》からさほど遠くない場所だ。
「よし、俺たちの方でも直接モンスターを見て調べてみよう」
「はい」「うん」
俺たちは三人で頷き合い、フランの教えてくれた草原へと向かうことにした。
***
「アデル様、さすがですね。これだけのモンスターをあの時間で倒すなんて」
「わたし、アデルの半分も倒してない……」
メイアとテティが言って、俺は積み上げられたモンスターの山を見上げた。
モンスター相手であると風神剣などを使ってまとめて倒すのが楽である。
フランから聞いた草原に来た俺たちはすぐにモンスターの変異種を発見した。
フランの報告通り、通常の同種モンスターよりも明らかに強いことが見て取れた。
そしてもう一つ――。
変異種のモンスターは体の周りに黒い
――なるほど、「黒い」というのはこういうことか。しかしこれは……。
俺は思考して、考えを巡らせる。
すると、テティがちょんちょんと服の端を摘んできた。
「そういえばこの前、昔のことを話してくれたけど。アデルが仕事の時に着てるその黒い服は、メイアがあげたものなんだよね?」
「ああ、そうだな」
「ふうん。今もそれを着て仕事してるなんて、ラブラブなんだね、アデルとメイアは」
「「え……」」
その言葉に俺とメイアは固まる。
テティが今まで使ったこともない言葉だったからだ。
「そ、そう見えます? テティちゃん」
「うん。見える」
何故かメイアは喜んでいて、何故かテティは少し機嫌が悪かった。
「なあテティ。さっきの言葉、どこで覚えたんだ?」
「……? ラブラブって言葉のこと?」
「そうだ」
「フランから教えてもらった」
フランめ……。テティに余計な情報まで教えてるようだな。
放置するとテティの教育上あまり良くないことまで教えそうだ。
「それにしても……」
俺は山になったモンスターの残骸に再び目をやる。
変異種のモンスターが纏っているあの黒い靄。
あれは、以前孤児院を襲撃したマリアーヌ、そして、一連の事件の裏で暗躍しているマルク・リシャールが纏っていた黒い瘴気と似たものだった。
――ということは魔人の……? しかし、一体なぜ……?
考えても答えは出ず、そこに不穏な影を感じずにはいられなかった。
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【後書き】
今回のお話からアデルたちの現在のお話に戻り、4章開始となります!
そしていよいよ、アデルを追放した王家が絡んだお話へと続いていきます。
盛り上がる展開が満載ですので、ぜひお楽しみ位いただけると嬉しいです!
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