第41話 銀髪少女との出会い、再び


「悪いねぇ。今は人を雇っている余裕がなくてね」

「…………分かりました。仕事の邪魔をしてすいません」


 銀髪の少女と出会って翌日。

 俺は何か仕事をやらせてもらえないかと頼んで回っていた。


 しかし、それを何件か繰り返しても空振りに終わっている。


 嘆息していると、話していた男が何かに気付いたように口を開いた。


「アンタ、金が無いのかい? 仕事はやれねぇが、中々良い服を着てるじゃねえか。その黒い外套がいとうをくれるならいくらか金をやってもいいぜ」

「……悪いですが、これだけは売るわけにはいきません」

「ああ、そうかい」


 そこで男は俺に興味を失ったようだった。

 俺は一礼して踵を返す。


 俺が纏っている黒い外套は銀髪の少女から譲ってもらったものだ。

 これのお陰で寒さを凌げていると言っても過言ではないが、譲りたくない理由は別にあった。


「やれやれ、今日も駄目そうだな……」


 金を得る手段が見つからないことを嘆いていると、腹の虫が鳴る。

 雪が降ろうと、俺が金を持っていなかろうと、そんなことは関係ない。早く飯を寄越せと催促してくる。


 が、その日は運が悪くめぼしい残飯も見つからなかった。


「仕方ない。危険だが、モンスターを狩るか」


 俺はそう独り呟いて、王都外れにある洞窟へと向かうことにする。


「……ん?」


 歩き出そうとしたところ、何かの気配を感じた気がして振り返る。

 しかしそこには誰もおらず、感じた気配も霧のように消え去っていた。


 ――気のせいか? 確かに気配を感じたんだがな……。


   ***


「ハァッ――!」


 ――ザシュ。


 洞窟に入ってすぐ。

 猪形のモンスター、ワイルドボアと交戦して、俺は何とか一太刀を浴びせる。


 とはいえ俺の攻撃は前足を斬り落とすに留まり、ワイルドボアは悲鳴を上げながらも洞窟の奥へと引っ込んでいった。


「やれやれ……、指定B級くらいのモンスターであれば何とか戦えるか」


 俺は手にした剣――とも呼べない物体を見て呟いた。


 それは柄から先に3分の1程の刀身があるばかりで、そこから先は切断されて失くなっている。

 数日前、俺がある盗賊団の男たちを撃退した際に連中が落としていったものだった。


「確か世界一硬いオリハルコンで造られた剣だと言っていたが、やっぱりこれじゃまともに戦えないな」


 言いつつ、俺は斬り落としたワイルドボアの前足を手に取る。

 これでとりあえず腹は満たせるだろう。


「不味い……」


 火を起こそうにもそのための道具がない。

 仕方なしにそのまま一口かじってみるが、お世辞にも旨いとは言えなかった。


 否応なしに、銀髪少女からもらった林檎の味が思い出される。


「それにしても、やっぱり発動しないか……」


 俺は自分の右手をしげしげと見つめる。


 先日、盗賊団を撃退した際に起こった不思議な現象。

 オリハルコンの剣による攻撃を防ごうとした俺の手には、漆黒の大鎌が握られていた。


 無我夢中だったためよく覚えていないが、その漆黒の大鎌がオリハルコンの剣を斬り刻んだこととは覚えている。


 それからもう一つ、念じることで青白い文字列を表示させることができるようになっていた。


==============================

累計執行係数:5,483ポイント


刈り取ったジョブ能力はまだありません。

==============================


 ――やっぱり意味不明だよな……。


 モンスターとの戦闘や傭兵の仕事を受ける試験の模擬戦など、あれから何度か試してみたが、漆黒の大鎌は現れてくれない。


 世界一硬いオリハルコンを粉々にできるほどの武器だ。

 あれが自由自在に使えるようになれば今の生活からも脱却できるかもしれないのだが……。


 と、俺が仕方のないことを考え、ワイルドボアの肉に食いつこうとした時だった。


 洞窟の入り口の方に気配を感じて振り返る。


 そこに立っていたのは、昨日あった銀髪の少女だった。


「凄いですね。《気配遮断》の能力を使っているのにお気付きになるなんて」

「君は……」


 何故こんな洞窟にいるのか。

 そう問いかけようとして、先に口を開いたのは銀髪少女の方だった。


「こんにちは、アデル・ヴァンダールさん」

「……どうして俺の名前を知っている? 昨日会った時には名乗ってないはずだが」

「ええと、それはですね……」


 銀髪の少女はどこから話せばいいかを考えている様子だ。

 可愛らしく首を傾け悩んでいる。


 そして、何を話すか決めたのか、銀髪少女は俺に向けて口を開いた。


「私、メイア・ブライトと言います。あなたを暗殺するように命じられて、それで名前を知りました」

「…………」


 沈黙――。


 聞き間違いかとも思ったが、メイアと名乗った銀髪少女の顔は至って真剣だ。

 一体どこに暗殺を宣言する暗殺者がいるというのか。


「…………お前、馬鹿なのか?」

「はい。馬鹿かもしれませんね」


 メイアは笑う。

 そして続けてこう言った。


「アデルさん。私、あなたと少しお話がしたいです」

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