第36話 執行の、その後で


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マリアーヌ・レンツェルの執行完了を確認しました。

執行係数302,738ポイントを加算します。

累計執行係数:487,695ポイント


※【魔を従える者デモンズサモナー】のジョブ能力を刈り取りましたが、

既に所持しているため破棄します。

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「さて、これでもうお前はジョブ能力を使用できない」

「貴様……、一体何なのだその大鎌は……」


 俺はマリアーヌを無力化するため、イガリマでジョブ能力を刈り取った後、表示された青白い文字列の内容を確認する。


 魔人と言えど、ジョブ能力を失えばただの人だ。

 こうなれば後は拘束しておけば良いだろう。


「先程の魔獣召喚もそうだ。明らかに人間に許されていい能力じゃない。貴様は一体何者なのだ……?」

「俺はただの人間さ。ただ、他人を理不尽におとしめる奴が嫌いなだけだ」

「だとしたら貴様は我らの敵というわけか」

「別に魔人だろうが人間だろうが関係ない。俺は理不尽を駆逐する。それだけだ」

「……フッ。そのための能力というわけか。まったくもって忌々しい」


 マリアーヌからは先程までの高圧的な態度は消えていた。


 そんな姿を見ながら、俺の横ではレイシャが複雑な顔をしている。

 家族だと思っていた人間の裏切りに遭ったのだ。ショックも大きいだろう。

 しかし、レイシャは俺とマリアーヌから目を逸らさずにいた。


 強さを持った女性だと、そう思う。


 俺は一つ息を吐いて、マリアーヌに問いかけることにした。


「今度はこちらから質問だ。お前は孤児院の子供を選別し、有能なジョブ能力を持つ子供を王家に送ろうとしていた。お前にその指示を出していたのはマルク・リシャールで間違いないな」

「っ……。なぜお前があの方の名を……」

「前に会ったことがあってな」


 といってもテティの救出した後、分身の姿であちらから現れただけだが。

 少年のような外見ながら、不気味な雰囲気を持った人物を思い起こし、俺は話を続ける。


「それからもう一つ。マルクはお前と同じ魔人だな?」

「……」

「黙っていても無駄だ。一度会った時、マルクは黒い瘴気を纏っていた。お前と同じものをだ」

「……あの方の持つ力は私と同じなどではない」


 マリアーヌは僅かに笑みを浮かべて言った。


「千年前、我らは人間との戦争に敗れた。その時のことを貴様に語っても理解などできまいが、我らの中には常に人間への憎悪があったのだ。しかし生き残った者もほとんどおらず、手をこまねくしかなかった」

「……」

「そんな時、あの方が現れ、道を示してくださったのだ。新世界という理想郷に至るための道筋をな」


 新世界、か。

 確かテティを手に掛けようとしたクラウス大司教もそんなことを言っていた。

 支配者が造る、新しい秩序を持った箱庭だと。


「マルクの能力というのは?」

「それは絶対に話さん」


 マリアーヌがはっきりとした口調で拒絶する。

 どんな苦痛を与えられても口を割ることはないという意思表示だろう。


 後は拘束して自警団などに引き渡すしかないか……。


 と、次に口を開いたのはそれまで沈黙していたレイシャだった。


「あなたは……、あなたはそんなことのために子供たちを殺そうとしたっていうの……?」

「そんなこと、ではないよ、レイシャ。貴様ら人間にだって譲れないものがあるはずだ。私の場合はあの方が見せてくれた未来がそうだった。ただそれだけのことさ」

「………………そう」


 レイシャも孤児院の子供たちを救うために他人の金を盗んできた立場だ。

 何かしら感じるところがあったのかもしれない。


 レイシャは俯き、それから言葉を繋げることはしなかった。

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